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第11話

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「イリス様は美しく尊いお方で、昔から私の理想の女性でした」

瞬間、同情を誘う顔に変わったエレナは、イリスのことをずっと憧れ続けていたと話す。さらに女神にも近い印象を抱いていたと辛そうな様子で涙を流したのである。

「そうだね、イリスは素晴らしい女性だよ。だけどエレナにあの態度は駄目だと思う」
「それは私も残念でなりません。イリス様があんな意地悪そうな性格だとは思わなかったです」

その話を聞いたハリーは胸が締め付けられて、いつもの明るい様子と違っていかにも神妙な表情を取りつくろう。続けてエレナは自然な調子で悪態をついた。

「夫の僕がイリスの代わりに謝るよ。エレナの心を苦しめて申し訳ない」
「ハリーは悪くないから頭を上げてちょうだい」
「エレナは純粋で思いやりのある子だ。イリスにも見習ってほしいな」

もはやこの男は頭の発達が悪いと言っても過言ではないだろう。新婚旅行に一緒に行きたいと我儘なことを言って、イリスの反対を押し切ってついてきたエレナに問題がある。

まずはエレナに対して注意を促すのがハリーの務めで、同行したいとお願いする非常識な性格のエレナを怒るべきなのに、事もあろうにエレナの味方になって、ハリーも積極的に誘ったのだ。

「ハリーそんなことを言ったらイリス様が可哀想よ」

不意にエレナはスイッチを切り替えたみたいに、イリスを庇うようなことを口にする。

「エレナいきなりどうしたんだ?」

たった今まで、二人でイリスのことを非難めいた調子で散々けなしていたのに、ハリーは予想外の言葉に耳を疑った。

「イリス様はハリーとの結婚生活に不安や憂鬱を感じていると思うの」
「なんでそう思う?」
「私の友人でも結婚した後に話してみると、前と環境が変わって精神的に病んで別れた子がいるし」
「そうだったのか……通りでいつものイリスと違ったわけだ」

エレナはもっともらしい口実を語り始める。確かにエレナの言うことも間違いではないが、今回の原因はエレナが新婚旅行についてきたという一点に尽きる。

しばし悩ましげな表情をしたハリーは、エレナの話にじっと耳を傾けていて、なるほどと感心しきりの様子で何度も頷いて応えた。

「エレナがいなかったら僕は何もわからなかったよ」
「私はただ、イリス様とハリーに仲直りしてほしいだけだから」
「本当にエレナはいい子だな。ありがとう」

ハリーはどんなに感謝しても足りない気分で、頭を深々と下げてお礼の言葉を続ける。

エレナは可愛らしく照れた演技をして、ぬくもりを感じさせる言葉を口にすると、ハリーは幸せそうに顔をほころばせて心が弾んだ。
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