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Ⅱ
エレンの日常Ⅲ
それから数日後、フランクがうちの屋敷に来ることに決まったと聞いて、私は先日買っておいた材料でケーキを焼こうと決意します。
父上にはああ言われましたが、ウィルだってシエラのクッキーをおいしそうに食べていた以上、私がフランクにケーキを焼いても文句を言ってくることはないでしょう。
私が意気揚々とキッチンに行くと、そこにはシエラがいました。そう言えば最近のシエラは一人でお菓子を作っていることが多かったです。彼女が一人で楽しそうにしていたこと、そしてそのお菓子は誰かにあげるものに思えたこともあって口出しはしませんでしたが、うまく出来たのでしょうか。
ちゃんとレシピ通りにさえ作っていれば初心者でもそこそこの物は作れるはずです、砂糖と塩の間違えとかしない限りは。
「あの、お姉様」
シエラは少し遠慮がちに私に声をかけてきます。
「何?」
「あの、実は私もケーキを焼いてみたいのですが、教えていただけませんか?」
私もここ数日、シエラがいない時にキッチンでケーキを焼く練習をしていました。あくまで練習なので出来たものは家族に振る舞っていましたが。
それを見てシエラもこんなことを言いだしたのでしょうか。
とはいえ、フランクと話したときに前回焼いたクッキーを彼が受け取っていなかったということを思い出します。
「そのケーキ、誰かにプレゼントするつもり?」
「それはその……」
シエラの目が泳ぎます。
さすがの彼女も面と向かって「ウィルにあげます」とは言えないのでしょうが、それだけで十分すぎるほど彼女の気持ちは分かりました。
「ふ、フランクにあげる予定です」
シエラは苦し紛れにそう答えます。
「……前のクッキーの反応はどうだった?」
「はい、おいしいと言ってくれました」
シエラは少しだけ嬉しそうに答えます。
その答えに私は内心首をかしげます。フランクはもらってないと言っている以上、おいしいと言ったのはウィルでしょうが、もしかして彼女は急にレシピ通りに料理を作ることを覚えたのでしょうか?
「きっと砂糖を多めに入れたのが良かったのですわ」
やはりシエラはシエラでした。
それを聞いて私は何となく察します。きっとウィルはシエラにいい顔をしようと思ってそう答えたのでしょう。
私の時はどんなにおいしく作ってもそういう風には言ってくれなかったのに、と思うと悲しくなります。
「それなら私が教えることなんてないんじゃないかしら?」
私はつい意地悪に言ってしまいます。
「実は他のお菓子も食べたいからって言われまして。でも私はクッキーしか作れないんです」
シエラの答えを聞いて私は全てを理解しました。
きっとウィルのことだからおいしいとは言ったものの、シエラが一人で作ったお菓子を食べるのは嫌なのでしょう。
そこでシエラが作れないような料理を食べたい、と言うことで私に手伝ってもらわせようと思ったのでしょう。
だとしたらここまで他人を馬鹿にした話があるでしょうか。
あれほど私の料理に文句を言っておいて、自分に都合のいい時だけ手伝わせようとするなんて。
私が大部分を手伝ったとしても、シエラが作ったという”体裁”さえあればいいのでしょうか。
料理の味が作った人で全て決まるというのであれば、シエラが作った物はどんなにまずくてもおいしいと思って食べてもらいたいものです。
「悪いけど私が作った料理は心が籠っていないらしいから、私が手伝っては彼の気にいらないものになってしまうわ」
「そんな……」
シエラは悲しそうな表情をします。
私が断ったことが悲しいのか、それともウィルと仲良くしておきながらウィルが私にそういう風に言ったことに悲しんでいるのか。
とはいえ、もはやどちらでもいいことです。
「彼は心が籠っていれば何でもいいらしいので、あなたが作ったものなら大丈夫よ」
そう言って私は無理矢理に会話を打ち切るのでした。
父上にはああ言われましたが、ウィルだってシエラのクッキーをおいしそうに食べていた以上、私がフランクにケーキを焼いても文句を言ってくることはないでしょう。
私が意気揚々とキッチンに行くと、そこにはシエラがいました。そう言えば最近のシエラは一人でお菓子を作っていることが多かったです。彼女が一人で楽しそうにしていたこと、そしてそのお菓子は誰かにあげるものに思えたこともあって口出しはしませんでしたが、うまく出来たのでしょうか。
ちゃんとレシピ通りにさえ作っていれば初心者でもそこそこの物は作れるはずです、砂糖と塩の間違えとかしない限りは。
「あの、お姉様」
シエラは少し遠慮がちに私に声をかけてきます。
「何?」
「あの、実は私もケーキを焼いてみたいのですが、教えていただけませんか?」
私もここ数日、シエラがいない時にキッチンでケーキを焼く練習をしていました。あくまで練習なので出来たものは家族に振る舞っていましたが。
それを見てシエラもこんなことを言いだしたのでしょうか。
とはいえ、フランクと話したときに前回焼いたクッキーを彼が受け取っていなかったということを思い出します。
「そのケーキ、誰かにプレゼントするつもり?」
「それはその……」
シエラの目が泳ぎます。
さすがの彼女も面と向かって「ウィルにあげます」とは言えないのでしょうが、それだけで十分すぎるほど彼女の気持ちは分かりました。
「ふ、フランクにあげる予定です」
シエラは苦し紛れにそう答えます。
「……前のクッキーの反応はどうだった?」
「はい、おいしいと言ってくれました」
シエラは少しだけ嬉しそうに答えます。
その答えに私は内心首をかしげます。フランクはもらってないと言っている以上、おいしいと言ったのはウィルでしょうが、もしかして彼女は急にレシピ通りに料理を作ることを覚えたのでしょうか?
「きっと砂糖を多めに入れたのが良かったのですわ」
やはりシエラはシエラでした。
それを聞いて私は何となく察します。きっとウィルはシエラにいい顔をしようと思ってそう答えたのでしょう。
私の時はどんなにおいしく作ってもそういう風には言ってくれなかったのに、と思うと悲しくなります。
「それなら私が教えることなんてないんじゃないかしら?」
私はつい意地悪に言ってしまいます。
「実は他のお菓子も食べたいからって言われまして。でも私はクッキーしか作れないんです」
シエラの答えを聞いて私は全てを理解しました。
きっとウィルのことだからおいしいとは言ったものの、シエラが一人で作ったお菓子を食べるのは嫌なのでしょう。
そこでシエラが作れないような料理を食べたい、と言うことで私に手伝ってもらわせようと思ったのでしょう。
だとしたらここまで他人を馬鹿にした話があるでしょうか。
あれほど私の料理に文句を言っておいて、自分に都合のいい時だけ手伝わせようとするなんて。
私が大部分を手伝ったとしても、シエラが作ったという”体裁”さえあればいいのでしょうか。
料理の味が作った人で全て決まるというのであれば、シエラが作った物はどんなにまずくてもおいしいと思って食べてもらいたいものです。
「悪いけど私が作った料理は心が籠っていないらしいから、私が手伝っては彼の気にいらないものになってしまうわ」
「そんな……」
シエラは悲しそうな表情をします。
私が断ったことが悲しいのか、それともウィルと仲良くしておきながらウィルが私にそういう風に言ったことに悲しんでいるのか。
とはいえ、もはやどちらでもいいことです。
「彼は心が籠っていれば何でもいいらしいので、あなたが作ったものなら大丈夫よ」
そう言って私は無理矢理に会話を打ち切るのでした。
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