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第15章 集中豪雨

第74話 空の告白。涙止まらぬ空

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 突然苦痛に満ちた表情になり、滝のような涙を流す空さん。そう言う事か。僕はようやくすべてを理解した。こうして詳細にご主人の死について明らかにするということは、それだけ僕を信頼を寄せている証でもあるし、口にするのは辛くとも自分の苦しみを誰かに聞いて欲しかったのでもあると思う。今、僕は自分の気持ちに素直に従おうと思った。僕は空さんのその自責の念を何としても振り払いたい。

「違います。空さんのせいじゃありません。空さんは間違っていません。間が悪かっただけです」

「ううん、私のせい」

「そんなことありません、その慶さんを、その…… 死に追いやったのは、病気です。空さんじゃありません。空さんの言っていることはただの結果論に過ぎません」

「ふふっ、やっぱり優しいねひろ君。私が罪の意識で苦しまないように気をつかっているんだよね。でもね、あの時、私は罰を受けなくちゃいけないって思ってたの」

「罰?」

「私死のうと思った。それが私への罰。そして死んであの人のもとへ逝って謝らなくちゃって思った」

 僕はやはりそうかと思ったとは言え血の気が引いた。何かを言おうとしたが何を言えばいいか思いかばない。

「いっそ死ぬならきれいなところで死にたいと思った。だって東京は薄汚れたコンクリートとアスファルトと排気ガスばかりだったんだもの。あの人の四十九日を済ませた夜、私は髪を半分だけ切って旅に出た。深夜バスで北に向かった。そこはきっと静かな、死ぬにふさわしい場所のような気がしたから。そして行きついたのはここ、シェアト。あとはひろ君も知っての通り」

 空さんはしばらく黙っていたがまた口を開いた。雨音いまだ轟轟と廃寺の屋根を打つ。

「私ね、シエロに優しく叱られちゃった」

「実際あの時、あんなに優しいシエロはみた事がなかったですよ」

「あの時、あの子に死んじゃだめって言われたような気がしたの」

 確かにシエロは本当に空さんから強烈な死の臭いを嗅ぎ取っていたのかも知れない。いつ殺されてもおかしくない自分たち競走馬の理不尽な宿命をシエロは知っていて、空さんをいさめるような態度を取って空さんの自殺願望を止めたかった。そうは考えられないだろうか。しかしまさか本当にそんなことが。僕は呻いた。

「それに馬って本当に可愛くてきれいな目をしているのね。それを見たら、なんだかとっても心が穏やかになっていったのを覚えてる」

「空さんとシエロはもうその瞬間に心と心が繋がっていたんでしょうね」

「うん、ほんとそんな感じかも」

「空さん」

「なに?」

「慶さんは空さんが死んだら悲しむと思います」

「そうかしら……」

 僕はその慶さんの代わりになりたいと思った。強く思った。空さんを泣かさず、笑顔をあげる存在になりたい。でも、今の僕は空さんに必要とされる人間だろうか。多分違うと思った。ではやはりそれは大城おおきさんなのだろうか。僕はやるせなくなる。


【次回】
第75話 肩を寄せ合う2人
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