空の六等星。二つの空と僕――Cielo, estrellas de sexta magnitud y pastel.

永倉圭夏

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第15章 集中豪雨

第75話 肩を寄せ合う2人

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「ひろ君」

「はい」

「私、今でもこれがいい事か悪い事か判らないんだけど、私死なずにすんだ」

「それでよかったんです」

「でもあの人がいない世界は寂しくて悲しくて虚しくて、今でもあの人のもとに逝きたくなる時もあるの……」

「はい」

「私まだ苦しい。自分を責めてひとり泣く日だってある」

「そんな時はシエロを頼って下さい。それと……」

 僕は勇気を振り絞って言った。

「僕だって」

「うん……」

 空さんと僕は、肩を寄せ合い横になりながら見つめ合う。空さんの瞳の中にまたたく星のようなきらめきがきれいだ。

「ごめんね……」

「なにがですか」

 空さんが申し訳なさそうに囁いた。

「泉のこと」

 それについては僕は本当に悔しいし悲しいし情けなかったりする思いがあった。僕の口は重い。

「ああ…… その話はもういいんです。何も言わないで下さい」

大城おおきさんに後つけられちゃって」

 僕は少し驚いた。

「つけられた、んですか……」

「いつも私大城おおきさんをいてあそこに行っていたんだけど、ちょっとずるいことされちゃってとうとう知られちゃった。ひろ君と二人だけの場所だったのに。本当にごめんなさい」

「そうだったんですか。なら仕方ないですね」

「え、許してくれる……の?」

「許すも許さないもありません。仕方のない事です。確かに最初はショックでしたけど、理由がわかった今なら僕はもう気にしないようにします」

「あ、ありがとう…… ありがとう。私、ひろ君に見捨てられたらって思ったらとてもつらくてとてもっ。慶に続いてひろ君までいなくなったら私、私っ……」

 また泣きだす空さん。僕は大胆にも寝袋の上から空さんの手をさする。

「さっき言ったじゃないですか。もう気にしてないって。それに僕が空さんを見捨てる訳ありません。そんなことは決してしません」

「うんっ、うんっ」

 悲しさや悔しさが減ったわけではないけれど、空さんの方からあの場所に大城おおきさんを案内したわけではないと知って僕はほっと胸をなで下ろした。でも空さんは大城おおきさんに振り回されていると感じる。僕は少し強い口調で言った。

大城おおきさんには思ったことをはっきり言った方がいい。大城おおきさんがそばにいるのはつらいんじゃないですか?」

「……そうね」

 空さんは呟くように返事をした。

「でもなんだか勇気が湧かなくて…… 以前はすごくはっきり言うタイプの人間だったんだけどな……」

「怖いですか」

「ん、それもちょっとあるけど」

 多分それは空さんの心の症状が関係しているのだろう。大城おおきさんは空さんの心に負担をかけるばかりで、安らかにすることができない。

「再異動はもう無理にしても、これからは少し会う時間を増やせませんか」

「うん…… それはやめとく」

「どうして」

「やっぱりひろ君に甘えたくない。頼りたくない、負担になりたくないの」

「それはもう聞いています。でも慶さんのことで心の傷が完全に癒えていない今、誰かに、何かに頼ったり甘えたりすることでその傷を癒すのは大切なことです。今は空さんが完全に立ち直ることを最優先にすべきです。僕はそう思います。どうか考え直して下さい」

「うん…… でも……」

「それに僕自身、空さんと話したりスケッチする傍らにいるととても気が安らぐんです」

「……そう、なんだ」

「ははっ、これはまあ僕のわがままですけど」

 空さんは何事か考えこんでいるような顔になると重そうに口を開いた。

「うん、ほんと言うと、私、私もね…………」


【次回】
第76話 大城の我執
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