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第73話マリア救出編⑫

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 ノエルの太ももの傷と腹部の傷が消えていく。
「アンタの持ってた高級品とは違うから、あんまり動くなよ。傷が開く」
 ハルトが言いながら立ち上がり、周囲を見渡す。
「ベックとオリバーはまだかしら? そろそろ来ても良さそうなのだけど」
「ノ―ム、上空から確認してベックたちをここまで案内してくれないか?」
「OK。その弓女が変なまねしないように、ちゃんと見張っとけよ」
 ノ―ムが夜空に向かって飛び立った。

「これからプランBに変更ね」
「ああ。ベックとオリバーが合流したら全員でマリアを救出する」
「王都へ潜入することになるわね。改めて作戦を練り直さないと……」
 ベネディクタが難しい表情で話す。
「一つ聞きたいんだけど……」
 突然ノエルが口を開いた。
「なんだ?」
「アンタたちの目的は何?」
「マリアを救出することだ」
 ハルトがきっぱりと答える。
「マリアってアンタたちの仲間の冒険者のことよね? そうじゃなくて……」
「私たちに他の目的なんて無いわ。マリアを助け出して一緒に帰る、それだけよ」
「私はミラー大隊がクーデターを画策していたと聞いている。連隊長の命令でグレイ大隊が内偵を行い、今回の作戦に踏み切った。私の役目はヘルトリング・フォン・ベネディクタの抹殺および、協力者であるマリア・バンフォードを捕らえることだった」
 ノエルが確認するように淡々と語る。
「私とマリアは国家転覆をもくろむ悪者らしいわ」
「それは初耳だな。2人ともミラーの手先ってことか」
 ハルトが両手を広げて首を横に振る。
「ねぇノエル。アンタ騙されてるわよ。マリアもベネディクタもチビデブに殺されかけたんだから」
「チビデブ……ミラー大隊長のことか」
 シルフの言葉にノエルが考え込む。
「どういう経緯で引き抜かれたかは知らないが、精鋭部隊出身のアンタはその強さを利用されたんだ。ベネディクタと戦えるヤツはグレイの部隊にはいないからな」
「アンタたちの言うことを100%信じるわけじゃないけど、私も今回の作戦で違和感を覚えたのは確かだよ。グレイ大隊長は私を引き抜くとき、大金を積んで見せた。完全な規則違反だ。金を受け取った手前、疑問に思いつつも命令に従わざるを得なかった」
 ノエルが後ろめたい表情で語る。
「オリバーが、オルトリンガム中隊長があなたのことを教えてくれました。あなたは王国騎士団一の弓の使い手だと。平民出身でありながら、精鋭部隊の小隊長まで昇進した本物の実力者だと。そんなあなたが、なんでお金に目がくらんだのですか?」
 ベネディクタが静かに尋ねた。
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