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47.真昼の酔っ払い
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中から出てきた、というより投げ出されたのは店のオーナーだった。
地面に倒れ込む彼へ慌てて駆け寄る。
「だ、大丈夫ですか!?」
「は、はい。ご心配をおかけして……あれ? あなたはリザリアさんじゃないですか。何故ここに……」
「リザリアだとぉ!?」
店の中から怒声が聞こえ、特徴的な鋭いもみあげを生やした男性が姿を現す。
顔を真っ赤に染め、アルコールの匂いを纏ったハーライトさんだ。
『極光の財宝』も本日は定休日なのかもしれないけれど、昼間からこんなに酒を飲んでいるとは。
呆れと困惑を込めた眼差しを向けていると、ハーライトさんは私を睨み返した。
「リザリアァ、テメェ何をしやがった!?」
「……何のことでしょう?」
「とぼけんじゃねぇ! 俺の部下をどうしたのか聞いてんだよ!」
部下? 状況を飲み読めず、どう言葉を返すか迷う私にハーライトさんが荒々しい口調で続ける。
「テメェの店に向かわせた部下が帰ってこねぇ! 明け方には戻ってこいって命令していたのにだぞ!」
「落ち着いてください、ハーライトさん。そのような方々は当店にいらしておりません」
「あぁ!? 俺が嘘をついてるってのかよ! ったくよぉ、働き手が一気に減っちまった! こんなの飲まねぇとやってらんねーだろうがぁ!」
ハーライトさんの話を聞いていると、怒りと申し訳なさが沸き上がってくる。
怒りはもちろんハーライトさんに。申し訳なさは『虹色の果樹園』に対してだ。
私と彼のいざこざに、無関係の店まで巻き込んでしまった……。
思わず声を荒らげそうになっていると、
「黙ってないでとっとと吐きやがれ、クソアマァ!!」
ハーライトさんの右手が赤く光った直後、店の中から空のワインボトルが数本飛んできた。
それはすべて私の顔に向かっていたけれど、ピタリと動きを止めたかと思うと、方向転換してハーライトさんの顔面に次々と命中した。
鼻から噴き出した血が宙を舞う。
「リザは知らないって言っているだろ。いい加減にしろよ」
オブシディアさんが私を庇うように前に立ちながら、鼻を押さえて悶絶するハーライトさんを見据える。
それから思い出したように、「ああ」と声を零す。
「お前の部下だったのか、あいつら」
「オブシディアさん、知っていたのですか?」
「んー……昼過ぎに店の周りうろついていた。その後、すぐにいなくなってそれっきり」
ハーライトさんの言っていたことは、本当だったみたい。
だけど店の周りにいただけで、そのまま帰って行ったことが気になる。
……『精霊の隠れ家』を偵察するためにやってきた?
「テメェ……俺の店にきたイカサマ野郎か!? まさかリザリアの店の職人ってのは……」
「あ、そうだ。お前、俺をイカサマだとか言って店から追い出したもみあげ!」
双方ともに互いのことを思い出して、指差し合っている。
野次馬もどんどん増えてきて、大きな騒ぎになりそうだ。
私が声をかけたので、皆さんもオブシディアさんが見えている。
「おっ、工芸品職人同士の喧嘩か!? 昼間から盛り上がってんなぁ~」
「黒い兄ちゃん、いけーっ! その酔っ払いと中にいる連中を全員叩き潰せ!」
「あいつらいっつも店で好き勝手してるから、こっちも迷惑してんだ!」
「ねえねえ、あのお姉さんの傍にいる人かっこよくない!?」
「とりあえずかっこいい方を応援しましょうよ!」
オブシディアさんの女性人気がすさまじいことになっている。
黄色い声援に苦笑いしていると、ハーライトさんが地面に転がっていたワインボトルをオブシディアさんに投げつけた。
けれどオブシディアさんに素手であっさり受け止められ、悔しそうに顔を歪めている。
「テメェ、今度はどんなズルをしたのか言ってみろ! うちの品物の質が悪くなるような細工をしたんだろ!?」
「は? お前の店の品物なんて知るかよ。最初から悪かったんじゃないのか」
「ケッ、テメェの言葉なんざ信用できるか! 現に今だって嘘をつきやがったんだからよぉ!」
「……嘘って何がだよ?」
オブシディアさんが挑発するように笑みを浮かべて問いかけると、ハーライトさんは大きく舌打ちをしてから叫ぶように答えた。
「部下が昼過ぎに店の周りにうろついてたって話だ! んなわけねぇだろ! あいつらには夜中に行くように命令してたんだぞ!!」
「え……?」
ハーライトさんの言葉に引っ掛かりを覚えたのは私だけではない。
他の人たちも怪訝そうな、或いは敵意を滲ませた表情で彼へ視線を注ぐ。
「……何だ、どいつもこいつも。妙な目で俺を見やがって」
ハーライトさんも場の空気が一変したことに気付いたけれど、原因が何かは分かっていない様子。
なのでオブシディアさんがそれを指摘した。
「なぁ、おかしくないか? どうして夜中に行かせたんだよ」
地面に倒れ込む彼へ慌てて駆け寄る。
「だ、大丈夫ですか!?」
「は、はい。ご心配をおかけして……あれ? あなたはリザリアさんじゃないですか。何故ここに……」
「リザリアだとぉ!?」
店の中から怒声が聞こえ、特徴的な鋭いもみあげを生やした男性が姿を現す。
顔を真っ赤に染め、アルコールの匂いを纏ったハーライトさんだ。
『極光の財宝』も本日は定休日なのかもしれないけれど、昼間からこんなに酒を飲んでいるとは。
呆れと困惑を込めた眼差しを向けていると、ハーライトさんは私を睨み返した。
「リザリアァ、テメェ何をしやがった!?」
「……何のことでしょう?」
「とぼけんじゃねぇ! 俺の部下をどうしたのか聞いてんだよ!」
部下? 状況を飲み読めず、どう言葉を返すか迷う私にハーライトさんが荒々しい口調で続ける。
「テメェの店に向かわせた部下が帰ってこねぇ! 明け方には戻ってこいって命令していたのにだぞ!」
「落ち着いてください、ハーライトさん。そのような方々は当店にいらしておりません」
「あぁ!? 俺が嘘をついてるってのかよ! ったくよぉ、働き手が一気に減っちまった! こんなの飲まねぇとやってらんねーだろうがぁ!」
ハーライトさんの話を聞いていると、怒りと申し訳なさが沸き上がってくる。
怒りはもちろんハーライトさんに。申し訳なさは『虹色の果樹園』に対してだ。
私と彼のいざこざに、無関係の店まで巻き込んでしまった……。
思わず声を荒らげそうになっていると、
「黙ってないでとっとと吐きやがれ、クソアマァ!!」
ハーライトさんの右手が赤く光った直後、店の中から空のワインボトルが数本飛んできた。
それはすべて私の顔に向かっていたけれど、ピタリと動きを止めたかと思うと、方向転換してハーライトさんの顔面に次々と命中した。
鼻から噴き出した血が宙を舞う。
「リザは知らないって言っているだろ。いい加減にしろよ」
オブシディアさんが私を庇うように前に立ちながら、鼻を押さえて悶絶するハーライトさんを見据える。
それから思い出したように、「ああ」と声を零す。
「お前の部下だったのか、あいつら」
「オブシディアさん、知っていたのですか?」
「んー……昼過ぎに店の周りうろついていた。その後、すぐにいなくなってそれっきり」
ハーライトさんの言っていたことは、本当だったみたい。
だけど店の周りにいただけで、そのまま帰って行ったことが気になる。
……『精霊の隠れ家』を偵察するためにやってきた?
「テメェ……俺の店にきたイカサマ野郎か!? まさかリザリアの店の職人ってのは……」
「あ、そうだ。お前、俺をイカサマだとか言って店から追い出したもみあげ!」
双方ともに互いのことを思い出して、指差し合っている。
野次馬もどんどん増えてきて、大きな騒ぎになりそうだ。
私が声をかけたので、皆さんもオブシディアさんが見えている。
「おっ、工芸品職人同士の喧嘩か!? 昼間から盛り上がってんなぁ~」
「黒い兄ちゃん、いけーっ! その酔っ払いと中にいる連中を全員叩き潰せ!」
「あいつらいっつも店で好き勝手してるから、こっちも迷惑してんだ!」
「ねえねえ、あのお姉さんの傍にいる人かっこよくない!?」
「とりあえずかっこいい方を応援しましょうよ!」
オブシディアさんの女性人気がすさまじいことになっている。
黄色い声援に苦笑いしていると、ハーライトさんが地面に転がっていたワインボトルをオブシディアさんに投げつけた。
けれどオブシディアさんに素手であっさり受け止められ、悔しそうに顔を歪めている。
「テメェ、今度はどんなズルをしたのか言ってみろ! うちの品物の質が悪くなるような細工をしたんだろ!?」
「は? お前の店の品物なんて知るかよ。最初から悪かったんじゃないのか」
「ケッ、テメェの言葉なんざ信用できるか! 現に今だって嘘をつきやがったんだからよぉ!」
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オブシディアさんが挑発するように笑みを浮かべて問いかけると、ハーライトさんは大きく舌打ちをしてから叫ぶように答えた。
「部下が昼過ぎに店の周りにうろついてたって話だ! んなわけねぇだろ! あいつらには夜中に行くように命令してたんだぞ!!」
「え……?」
ハーライトさんの言葉に引っ掛かりを覚えたのは私だけではない。
他の人たちも怪訝そうな、或いは敵意を滲ませた表情で彼へ視線を注ぐ。
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