夫の浮気相手と一緒に暮らすなんて無理です！

12.レナの本心（エリオット視点）

「ちょっ……待ってくれ、レナ。君、リリティーヌと仲良くなりたいって言ってたじゃないか」

　震える声で問うと、レナは面白くなさそうな顔でぷいっとそっぽを向いた。

「あんなの嘘です……エリオット様に嫌われたくなかったから……」
「そんな。どうして嫌いなんだい？　あんなに優しい女性なのに」
「だってだって！　エリオット様をレナから奪ったじゃないですかぁ！」

　両手を握り締めて、レナは甲高い声で答えた。

「そ、それは違うよ、レナ。僕は元々リリティーヌのものだったんだ。その……世間から見れば、君が僕を奪ったというか」
「レナを悪者にするなんて酷い……」

　レナは目に涙を溜めながら、床に座り込んでしまった。
　その姿に良心が痛む。ただ今の僕に、彼女を気遣う余裕はない。

「とりあえず僕を助けると思って、謝ってくれ！」
「嫌！」
「だ、だったら、せめてそのネックレスをリリティーヌに返してあげたいんだが……」
「それも嫌……っ」

　レナはルビーをぎゅっと握り、私から背を向けてしまった。
　無邪気で我儘で可愛い女の子。いつものレナだ。
　だけど僕は初めて、彼女に苛立ちを覚えていた。
　そうとも知らず、レナは好き勝手言ってくる。

「別に奥さんとなんて、別れちゃってもいいじゃないですか……そうしたら、レナと結婚出来るし……」
「けっこん……」

　僕は目眩を起こした。

「レナ……貴族と平民は結婚出来ないんだよ。法律でそう決まってるんだ」
「え……！？　そうなんですか！？」

　レナが驚いた表情で振り返った。
　驚きたいのは、僕の方だ。こんな簡単なことも知らなかったなんて……
　レナの子供っぽさが大好きだったはずなのに、今はそれがものすごく腹立たしい。

「……とにかく、ネックレスだけでも返さないと、リリティーヌは僕たちを絶対に許してくれないよ」

　レナに近づきながら、手を差し伸べる。
　すると彼女は、可愛らしい顔を真っ赤に染めながら、僕の手を叩き落とした。

「もー！　何で貴族と結婚出来ないのー！？」
「……レナは僕と結婚したかったのかい？」
「だって侯爵夫人になったら、今よりたくさん贅沢し放題だもん！」

　僕を愛しているわけじゃないんだね……
　初めて聞いたレナの本音に、僕の心は凍りついていく。

「どうせ奥さんは帰って来ないですよっ！　いつもエリオット様見て、嫌そうな顔してましたもん！」

　立ち尽くしていると、レナは目に涙を溜めながら叫んだ。
　その言葉を否定するように、僕は「違う！」と声を張り上げる。

「リリティーヌは、僕を温かく照らしてくれる星なんだ。きっと戻ってきてくれる……！」

　自分に言い聞かせるように言うと、レナは沈痛な声で「こんな変な人選ぶんじゃなかったぁ……」と呟いた。