菓子作りの騎士と紅茶王子

蒼葉縁

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一刻

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早朝
キッチンの方から甘く良い匂いが漂う
泡立て器の音が鳴り響いていた
「………これならば良いだろう」
腰まである一本の黒髪の三つ編みを揺らして一人の女性は低く凛とした声でそう言った
刻んであるチョコレートを湯煎で溶かし、人肌くらいまで冷ます
卵を数回分けて入れ、混ぜる
今作っているのはガトー・ショコラだ
この国の姫の大好物であり私の得意となってしまったお菓子である
「あとはオーブンに入れるだけだな」
オーブンの中に入れ、焼けるのを待つ
その間に新しく作るものを用意する
バニラパウンドケーキ
元々、パウンドケーキの由来はすべての材料
つまり
バター
砂糖


この四つが全て一ポンドずつ使うことから来ているらしい
今となってはバターケーキ全般のことを言うらしいがな
まぁ、それを作る訳なんだが
「そこに隠れている者、出て来ては如何ですかね?」
びくりと震える気配に目を細める
「怒ってはいませんよ、姫様」
後ろに下がり、一礼した
出て来たのはふわふわな猫っ毛のチョコレート色をした髪のこの国の姫アリーナ・アリス様
「ガトーショコラ作っていたの!?」
パタパタと私の方へと来てキラキラとした目で見つめられる
「左様でございますよ」
私はそっと微笑み、頷いた
「今からは?」
「バニラパウンドケーキを作ります」
アリーナ様は椅子に座り私が作っている姿を見つめる
私はテキパキと作業を終わらせ、オーブンへと入れた
同時に焼ける音がする
「出来ましたよ」
「本当!?」
ガトーショコラが焼き上がっているのを見てアリーナ様はとても幸せそうにしていた
一切れ切り分けてアリーナ様の前へと出す
「良いの?」
首を傾げてそう聞くアリーナ様はとても嬉しそうだ
「はい、アリーナ様のためにお作り致しましたから」
そっと一礼して
「お熱いのでお気をつけてお食べください」
そう忠告する
アリーナ様は気を付けて食べるとたちまち笑顔になった
「おいしいわ!!」
「それは良かったです」
二人でほのぼのとしていると何か気配を感じる
「何奴だ!」
姫を護る様に立ち相手の首すれすれに剣を当てた
「ひ!!」
相手は暗殺者
容赦はしないぞ
「お止め」
姫がそう言う
私は不服そうにしつつも姫の元へと戻る
暗殺者は姫を見て下がった
「貴方は何処のもの?」
姫の冷たく先程までと違う雰囲気に暗殺者は恐れる
「………隣国の者です………」
口に出たその言葉を私は脳内に入れた
隣国
それは最も私の嫌いな国だ
パウンドケーキの焼けた合図が鳴る
姫は私を見ると
「早く食べたいから切っていて」
と言った
私はそっと一礼して
「御意」
そう言いその場を離れる
そしてオーブンを見ていると姫が私の後ろに隠れた
それと同時に私の足蹴りが暗殺者の顎にヒットする
「が!!!」
倒れる暗殺者
私は姫にケーキを食べさせて、私は暗殺者と少しお話をしていた
「隣国の誰に命を受けた」
低く脅す様な口調で問う
「王子です」
怯え切った暗殺者は口々に言い出す
「何番目だ」
暗殺者は恐る恐る
「三番目です」
と答えた
私はそれを聞き終えて
その男の胸に剣を突き刺した
「死ねるだけありがたいと思え」
剣に着いた血を払い、鞘に納める
姫の元へと行くと、姫は満足そうにしていた
「あら、早いわね!」
姫は知っている
「えぇ、聞きたいことも終えました」
私が人を殺したことを
だが
姫は決してそれを否定しない
何故なら
知っているからだ
私は姫を護る為なら人などいくらでも殺められる
例え、この身が果てようとも
私を拾ってくれたのは
貴方様ですから
「必ず、護ります」
「ふふ、急にどうしたのよ?」
だから姫、
貴方は
いつまでも笑っていてくださいね?
私がいつまでもお側にいるので
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