セカンドライフを異世界で

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閑話 シザー視点

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 俺はまた大切な人を失うのか?何もできない自分に腹が立つ。レベルが上がって、Sランクになっても大切な人を守れないんじゃ意味がない。

  親父さんは昨夜から目を覚まさない。諦めの空気が漂っていた。

  朝方、ロイが血相を変えて叫ぶ。
 「シザー!マルコが!マルコがいない!転移石と僕の予備のポーチと短剣もないんだ!もしかして…」
  聞いてすぐにピンと来た。
 「白薬草か!」
 「たぶん!」
 「レネット!俺たちは馬でマルコを探しに行く。何かあったらアントニオさんかライトさんの所へ行け」
  レネットが驚いて言う。
 「2人でですか!?」
 「マルコが見つかった時、魔物に囲まれでもしたら1人じゃ手詰まりだ。マルコとロイは必ず帰す。待ってろ」

  ここらへんでマルコが知ってる白薬草が採れる場所っつったらあそこしかねえ。

 「あそこだな」
 「ああ」

  目的地は口に出さなくても分かっている。全速力で馬を走らせた。









 マルコは無事に見つかった。そこに一緒に居たのがナツメだった。

  マルコを魔物から助け、調合スキルまで持っていると聞いた時はまず疑った。女が、しかもガキが1人旅という時点で怪しい。嘘言って恩でも売ろうとしてるんじゃないか、そう思って化けの皮を剥がすつもりで凄んで捲し立てた。

  そいつは一瞬怯んだ様に見えたが、すぐに俺を睨み返して反論してきた。黒曜石の様な黒い瞳には芯の強さが見て取れた。話す言葉はとても大人びていて堂々としていたが、最後の言葉に一番驚くことになった。

  せいぜい10歳位だろうと思っていたが、自分は17歳だと声を大にして言ったからだ。

  結局俺の馬に乗せていく事になったが正直嫌だった。馬に乗れないのは仕方ねえが、女は皆騒ぐ。黙れ!と怒鳴りたくなる。だがこいつは騒がないどころか、拙いながらも乗れるようだった。

  休憩を取った時に馬を撫でるのを見て、確信しながらも聞いてみる。すると飼っていたから乗れるが、久しぶりでうまくいかなかった。と言う。馬に乗れる女なんて女冒険者位だ。変わった女だ、というのがその時の俺の印象だった。

  毒消しポーションを作っている時も俺が監視していたし、使用人たちも疑っていた。信じていたのはマルコだけだったが、周りの目など全く気にせず、ただ助ける事にのみ集中しているように見えた。

  親父さんが目を覚まし、直ったと分かって皆が歓喜していた時、あいつの姿はなかった。気になって探すと台所で片づけをしていた。声をかけると、自分は部外者だからと言って宿へ行ってしまった。

  少し迷ったが親父さんに声をかけた後あいつを探しに出た。宿は取ったらしいがすぐに出て行ったと聞いて追いかける。北は見る物などないから南だろうと見当を付けていくと門の所に居た。門番のクロスと話して出ていく。…クロスの奴何デレデレしてんだ?いつまでもあいつの後ろ姿を見ているクロスには声をかけずに追いかけた。

  来たはいいが何て言えばいいか分からず、付けているみたいになってしまった。すると

「どこまでついてくるんですか?」
  仕方がない。という様な顔で話しかけられて、ついまたキツイ言い方になった。あいつはため息を吐いて作業を始めた。

  ウェアウルフを出した時にここに来た理由が分かった。皮を剥いで魔石を取るのだ、街の中でも出来ないことはないが、あいつが言った通り女子供が見れば気持ち悪がるだろう。

  ……何をやってんだ俺は。これじゃ恩を仇で返す様なもんじゃないか。そこまで考えてあることに気が付き、解体しているあいつに近づく。

  そうか、こいつは緊急の討伐依頼が出てたウェアウルフだ。質問しながら眺める。手際が良いし綺麗に剥がせている。ウルフの討伐部位を聞くって事は何体か倒したって事か…確かそれもあったな。一つの案が浮かぶが、そこまでどうやって話を持っていこう…手伝いながら考えた。

  村まで一緒に来ると戸惑いが見えた。自分でも不思議だ。女に興味が無い訳ではない。他の街へ行った時にロイと一緒に娼館に行った事もあるし、誘われたこともある。だが自分から誘った事も欲しいと思った事もない。別に居なくてもいい、そう思っていた。

  だが、俺に睨まれても怯まず、周りが自分をどう思おうが人の為に必死になり、誰にも頼ろうとせず、一人小さな手で作業するあいつを見ていたら、何故か胸を締め付けられる様な、たまらない気持ちになった。

  ごちゃごちゃ考えても仕方がねえ、そのまま言うか。

  売る素材があるならギルドで売った方が良い、と切り出し、ギルドに入った方がお前にとっては良いと思う。とカードを見せて詳しく話すと納得し、
 「自分のペースで出来るなら入りたい」
  と答えた。よし!

  じゃあ行くぞ、と歩き出すと後ろから
「シザーさん!」
  と呼ばれてドキッとする。今日何度か名を呼ばれたが、今のはそのどれとも違う感じがした。振り向くとあいつは後ろの方で立ち止まっていた。…しまった、ギルドに入るという返事が無性に嬉しくて、リーチの差を忘れちまった。急いで戻ると謝られる。こいつが悪いんじゃないのに。今度はゆっくりと歩き出す。

  一緒に居て分かったが、こいつは目立つ。俺が女と2人で歩く事も珍しいからそのせいもあるが、やはり見られているのは俺ではない。さっきクロスがデレデレしていた原因が分かった。

  艶のある長い黒髪、黒曜石の様な大きな瞳、やわらかそうで可愛い唇。昔見た女神の肖像画に似た美しさと可愛さを合わせ持つ。17歳だというのに、俺の胸までしか身長がないというのも可愛さに拍車をかけている。

  親父さんの様子を聞かれて、何日も寝込んでいたのに腹が減った!と騒いでいたのを思い出し伝えるとホッとした様だ。
  俺はゆっくり歩いているつもりだが、隣ではちょこちょこと早歩きしている。その様子が何だか可愛く見えて、そのままの速さでギルドまで来てしまった。

  …何やってんだ俺は











 ギルドに入ると早くから飲んでる奴らがざわつくが、無視してカウンターへ行き登録を頼む。
  サラに渡された用紙を背伸びしながら書いている。また可愛い事しやがって…と思いながら眺めていると、飲んでる奴らがこいつを舐めるように見ながらヒソヒソと話している。聞こえたのは女を値踏みするようなものがほとんど。いつもならこのくらいは無視するが…今日は許さねえ。怒気を込めた目で睨むとピタッと静かになった。

  登録が終わり、ランクと依頼の説明が終わったところで切り上げさせて、呼ぶ。
 「ナツメ、こっちだ」
  名前を呼ぶのに緊張するなんて俺はどうかしてる。周りには分からなかっただろうが、ナツメは驚いている。もう一度声をかけると傍に来た。よし。

  依頼書を渡しながら考えていた事を説明する。これで大丈夫なはずだ。俺の言った通りに依頼を受け、カウンター内の台に物を出す。コカトリスの肉がまるまる出てきた時は俺まで驚いた。綺麗に皮が剥かれ中も洗ってある。ウェアウルフの時も思ったが、解体がうまいんだよな…

 感心しているうちにウェアウルフの依頼だ。サラが物を眺めて考え、口を開こうとするが、何を言おうとしているか想像はつく。先手を取って、それはナツメが1人で倒した事を言った。後はスムーズに進み、ナツメを連れて外へ出た。

  宿屋へ向かって歩きだすと、誰かが付けてくる気配がした。…ロイかよ。目で威嚇しておく。
 「今日は悪かった」
  俺が謝ると
「それはもういいんです。疑う気持ちも分かりますし」
  とあっさり許し、お礼まで言われ、想像していなかった返しに思わず照れる。どうやって飯に誘おうか考えていると恰好の得物が出て来た。ロイだ。こいつならきっと、”夕食をご馳走させてください!”とか言うに決まってる。誰が2人で飯になんか行かせるか。

  案の定、ロイは誘った。…手を握りながら。これはロイの純粋な好意だ。それは分かってるが…やっぱりムカつく。
  ロイからナツメを引きはがし、適当に言ってさっさと宿へ入る。ナツメの手を引きながら、小さくて柔らかい感触を楽しんだ。











 飯を済ませてロイと2人で宿を出ると、ロイがペラペラしゃべりだす。いつもの事だ。

 「初めてじゃない?シザーはモテるくせに、今までは女の子に全然感心ないんだもん。まあ、でも、あの子は別格だよね~。相当モテるよね。珍しい黒髪黒目の可愛い顔にあの小ささ。優しい性格。それに、今日は服で分かりにくかったけど相当あるよね、胸。一度触ってみた…嘘だよ」

  ロイをジロリと睨んでから話す。
 「…モテるだろうな、今日も早速クロスがデレデレしてたぜ、酒場に居た奴らも相当見てたな」
 「人の事言えないんじゃない?…僕から見たらデレデレしてたよ、シザーも」
 「うるせえ、お前もだろ」
 「ハハッ!まあね!でも僕のはシザーのとは違うよ」
 「…親父さんの顔見たら帰る」
 「ハイハイ」

  ロイにはいつもすぐばれる。ガキの頃から一緒だからか、ロイが鋭いのか。誰も気が付かない様な、俺の微妙な変化にすぐに気が付く。だからいつも助けられる。言うと調子に乗るから言わねえがな。

  親父さんに会ってから帰ろうとすると、レネットに風呂に入って帰れと言われて入る事にする。

  俺はガキの頃に両親が死んで親友だった親父さん、セクロさんに引き取られた。ロイの母さんは体が弱く、部屋にいることが多かった。だから世話になったと言えば親父さんとレネットで特にレネットには怒られてばかりだった。未だに頭が上がらない。

  帰り際、レネットが朝食用にとサンドイッチをくれる。礼を言って帰ろうとすると呼び止められる。
 「シザー、今日はありがとね。坊ちゃんたちを連れて帰ってくれて。あの子を連れてきてくれて」
 「マルコを助けたのはナツメだし、俺は一緒に行って乗せて帰っただけだ。礼ならナツメに言え」
 「それは勿論さ。それでもだよ!まったく素直じゃないんだから…」
 「はいはい、悪かったよ。じゃあな」
 「はいよ」

  家を出て1人宿舎へと向かった。











 次の日、部屋で遅い朝飯を食べて通りへ出ると、ナツメが座って果実水を飲んでるのを見つけた。昨日とは随分違う服を着ている。白っぽいブラウスにスカート、エプロン。髪も今日は緩いウェーブがかかっている。…似合う。

  声をかけると俺を見てふわっと笑う。近くで見ると思ったよりも胸元が開いている。腰もキュッと細くて体のラインが想像できてドキッとする。
  隣に座ると俺が首に下げている物を見たがった。昨日教えたアクセサリを見つけたらしい。外そうとして持ち上げると、そのまま付いている牙を熱心に見る。

  いや、待て。この体勢は…見える。谷間が。…ちょっとした葛藤もあったが、結局欲望に負けて谷間を見てしまう。想像以上に大きくて、甘い香りがする。…見ているうちに、その白く滑らかな肌に触れてみたい衝動に駆られる。何とか堪えているとナツメが急に顔を上げた。

 「!」
 「!」

  俺が少し動けば唇が触れるほど近い。一瞬の沈黙の後。ナツメがサッと前を向き、耳まで真っ赤にしながら謝る。きっと俺も赤い。

  どこか甘ったるい沈黙が降りる。もう少しこうして居たかったが約束がある。
ナツメを促して歩き出した。途中目が合い、また2人で赤くなる。

  …俺こんなだったか?いや、今まではこんな事で赤くなったり、ましてや照れたりなんかしなかった。自分からこんなに近づいた女も初めてだ。
  …だがまあ、相手がナツメなら悪くねえ。

  ロイの家に着くとマルコが凄い勢いでナツメに抱きつき、その大きな胸に顔をすりすりする。…くそ、俺もやってみてえ。…そうじゃなくて。ぐらついたナツメの背を支えながら
「大丈夫か?」
  と聞くとほんのり赤い。可愛い。知らないうちにロイが来ていて俺をジト目で見ていた。











 ナツメはセリばあさんの家に住むことになった。礼を豪華にしようと必死な親父さんを説得して何とかここに落ち着いた。親父さんはかなりナツメを気に入ったらしく、隙あらば何かを送ろうとしている。あれは見張ってなきゃマズイ。

  セリばあさんの家を一通り家を見て回ったが、壊れてるとこもねえし、大きな家具は残ってる。掃除さえ済めばすぐにでも住めそうだ。
  掃除なら1人でも大丈夫だと言うナツメを制して全員でする。途中でマルコが寝そうになり、ロイが先に連れて帰った。切りのいい所で止めると残りあと少しだった。

  ナツメがこれ位なら1人でも…と言いかけたのを睨んで止めさせる。さっきも言ったってのにすぐこれだ。もしかして1人のほうが良いのか?そう思って聞くと慌てて否定する。迷惑かけるのが申し訳なくて、と俯いて言う姿を見ていたら、俺の中にある気持ちがますます大きくなった。
 「黙って俺に甘えとけ」
  と言うと、赤くなりながら
「お願いします」
  と返事がくる。

  …可愛い。思わず抱きしめたくなるが堪える。

  宿へ帰る途中、俺の住んでる場所や飯の事を聞かれ、答える。すると少しの間考えていたが、急に宿舎に飯を作りに来たいと言い出した。冗談じゃない!台所は共同だ、他の奴らにナツメを見せてたまるか。ダメだと断言するとしゅんとしてしまう。
 「いや、飯がだめなんじゃなく、宿舎で作るのがダメなんだ」
  と説明すると、今度はあの家に住み始めたら食べに来てほしいと上目使いで言われる。もちろん承諾した。ナツメはやった!と言って喜んでいる。
  …これは少しは脈アリか?

  一緒に飯を食ってから、そのまま宿の風呂でホコリを流して帰る事にする。

  風呂からあがって一息ついているとナツメが来た。今から入るらしい。
…もう少しゆっくりしてりゃ風呂上りに会えたのか、チッ。内心舌打ちしてナツメと別れた。











 今、ナツメの家のテラスに寝転んでいる。いつもより早く目が覚め、今日は他にすることもないので来てしまった。誰もいないのは分かっていたのでこうしている。

  8の刻になる頃、ナツメの気配が近づいてきた。俺が寝てたらどうするのか、興味を惹かれてそのまま寝たふりをする。

  近づいても起きないと分かると、すぐそばに座って上から俺を見ている。
と、ナツメの手が伸びてきてドキッとした。変な反応をしてしまう前に先手を打っていきなり手首を掴む。
 「きゃっ」
  と可愛い声を聴いてニヤついてしまう。
 「寝込みを襲うつもりだったのか?」
  からかうと顔を真っ赤にして怒る。そんな顔して怒っても可愛いだけだ。

  怒るナツメを誤魔化して掃除を始め、休憩をはさんで続けると昼には全部終わった。
  そして今、目の前でナツメが昼飯を作っている。手際の良さを見ると料理も得意か。俺は、ちょこまかと動きながら作る可愛い後ろ姿をじっと見ていた。

  …いいな、こういうの。つい何日か前までは、自分がこんな事を感じるなんて思いもしなかった。もうナツメが何をしても可愛くしか見えない。日に日に大きくなる気持ちをどうしたらいいか考えていた。

  料理が運ばれてくる。ライスの様だがこういう風にして食べるのは初めてだ。ミルクとチーズのいい香りがする。ナツメの初手料理…こんな事で緊張するのもどうかしてる。
  一口食べる。うまい。ライスは腹持ちがいいから元々嫌いじゃなかったが、これはかなりうまい。つい無言で食べ進めていると
「どうですか?」
  心配そうに聞かれた。皿を空にして正直に
「すげえうまい」
  答えると嬉しそうにおかわりを持ってきてくれた。

  食後に思い出して裏の小屋の中を見てみる事になった。道具を見つけ、ウェアウルフの皮を鞣す約束をする。あらかた見終わって小屋を出ようとすると、ナツメが急に悲鳴を上げて俺の腕にしがみつく。
  何事かと思って聞くと、ムカデに驚いたのだと言う。あれはでかいだけで無害だと言ってもますます怖がり、ついには俺の体にしがみつき、涙目で見上げ、あれ何とかしてぇ!とお願いされる。

  押し付けられたやわらかくて大きな胸、丸見えの悩ましい谷間、極めつけは今にも涙がこぼれ落ちそうな瞳。腰に回した手を思わず下へ動かしたくなる。

 「分かった!分かったから!…それは反則だろ…」
  と呟きが漏れるがナツメは聞いてない。ムカデを瞬殺し、まだ震えて俺を離さないナツメを中へ連れて行く。

  頭を撫でながら、もう大丈夫だとゆっくり言い聞かせると、抱き着いたまま俺を見上げて「もういない?」と涙声で言う。…可愛い。押し倒したい。心の声を隠して「ああ」としっかり頷く。

 「…」

  どうやら冷静になってきたようだ。がばっと俺から離れて涙を手で拭いながら必死に謝る。みっともないとこ見せてごめんなさい、と最後は尻つぼみみなってしまう。

  俺はもう一度頭をなでながら、みっともない事なんてない、大丈夫だと言い聞かせる。
 「…ありがとうございます」
  返ってきた返事を聞いて、思っていた事を言ってみる。敬語とさん付けをやめないか?と。ナツメは迷っていたが、俺がその方が良いと伝える。
 「…シザーが良いんだったらそうする?どう?」

  よし!このままもう少し近づこうとすると

「お姉ちゃん!来たよ!」
  とマルコが飛んできた。間を置かずにロイ。

  …こいつ、気配消して聞いてやがった。ニヤニヤしながら話すロイをみて確信する。後で覚えてろよ!











 あれから片づけ、買い物、夕飯を済ませてから、明日の確認をしにギルドによる。ちょうどロイも来ていて一緒に外へ出る。

 「シザー、あの時もうひと押しする気だったでしょ?焦っちゃダメだよ~。明日から村を開けるんだしさ、絶対帰ってきてからのほうがいいって」
 「…」
 「睨まないでよ~、いい雰囲気邪魔したのは悪かったけどさ、ナツメちゃんは勢いで押すと引いちゃうタイプだよ。帰ってきてから落ち着いて話した方がうまくいくよ」
 「…うまくいくと思うか?」
 「あれ、随分自信ないんだね?大丈夫、僕が見た感じだとナツメちゃんもシザーが好きだと思うよ」
 「…」
 「何、その目!ホントだってば!好きでもない男を自分の家に呼ばないよ。しかも手作り料理!うらやましい!」

  まあ確かに思い出してみると、もしかして、と思う時もあったが…ダメだ。自信がねえ。くそ、調子狂いっぱなしだぜ。











 次の日、ロイと一緒に職人を連れてナツメの家に行く。風呂をつけるためだ。中へ入り、職人を入れるとナツメが笑顔で挨拶する。設置しにくる職人たちは若手がほとんどで、女慣れしていない。その上相手はナツメ、とくればまともに話せるわけがない。赤くなってボソボソと返事して水場へ行く。

  それを不思議そうに見ているナツメを座らせ、今日から数日間村を空けると話す。仕事の事や、俺らがいない間の注意を話して聞かせると目をパチクリさせて
「そんなに誘われたりしないです、大丈夫ですよ。私はお2人の方が心配です」
  と返す。

  これにはロイと2人で呆れるしかなかった。こいつは自分が可愛いともモテるとも思っていない。目立っているのも、俺が一緒だからとか、親父さんの事でちょっと珍しがられているだけだと思っているのだ。そこがまた可愛い所だが。…とにかく気を付けろ!と言い聞かせていると、作業が終わったようだ。

  …でかい。風呂がある家は少ないが、これは普通の家の倍はある。俺とナツメが一緒に入っても余裕だ。…いや、それは今関係ねえか。

  結局ナツメが気に入ったようだから良かったが、今度はナツメにお礼を言われて舞い上がった職人たちが、周りに群がって怖がらせている。
  腕を引いて自分の方へ引き寄せ、職人たちを威嚇する。ロイも頭に来たのか笑顔で怖い冷気を放っていた。奴らを追い出した後、2人でため息を吐く。ナツメだけがきょとんとしていた。

  そろそろ出発しなければ遅くなる。ロイが先に行った後、報告が終わったら来るとだけ言って行こうとすると、ナツメが俺の袖を掴んで止めた。振り向くと
「シザー、あの…気を付けてね?ケガなんかしないでね?」
  と上目使いで言う。可愛い。
 「…心配してくれんのか?」
  思わず聞く。
 「うん…心配」
  素直に言われて抱きしめたくなるが、頭を撫でて我慢しておく。
 「大丈夫だ、ケガなんかしねえ。用心する」
  安心させたくて言ったが、まだ不安なようだ。それでも
「…うん、いってらっしゃい」と送り出す。
 「ああ」
  歩き出すが、まだ見送っている気配がして一度だけ振り返って手を挙げて見せる。ナツメも小さく手を振った。

  いってらっしゃい、か…自然にニヤニヤしてしまう顔を何とか戻してロイのもとへ行く。

  が、開口一番、
 「…何ニヤニヤしてんの?全く、誰のおかげだと思って…」
  とブツブツ文句を言われた。顔に出てたか?まあいいか。

 「うるせえ、行くぞ」
  とロイからクルトの手綱を奪って歩き出した。
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