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収穫祭の準備2
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「え?」
困惑したような顔のフィリエル殿下。
広場に数台の馬車がやってくる。どの馬車にも大きな荷台が括り付けてあり、そこには樽やら木箱やらが山ほど乗せられていた。
御者台から下りた人物がこちらに手を振ってくる。
「よう、レイナの嬢ちゃん! お望みのモンを持って来たぜ!」
「ありがとうございます、ルグドさん!」
「はっはっは、いいってことよ! ミドルダム領には普段から世話になってるからなあ!」
がっはっは、と豪快に笑うルグドさん。
笑い方の通りに賑やかかつエネルギッシュな人物で、まるで大工のように鍛えられた体をしているのが特徴だ。
「よし、お前ら! 持ってきたものを全部使ってここを最高の祭り会場にしろっ!」
「「「はい!」」」
と、他の馬車に乗り込んでいたルグドさんの部下たちが作業を始める。
屋台を作るための木材。
料理のための大量の食材。
飾りつけのための綺麗な花々や鉢。
そういったものが荷台から次々と広場に降ろされ、広場はどんどん祭り会場として華やかになっていく。
「な、なんだこの状況は……」
フィリエル殿下は混乱しているようだった。
部下に指示を出し終えたルグドさんがこちらに歩いてくる。
「久しぶりだな、レイナの嬢ちゃん。色々と大変だったみたいだな」
「お久しぶりです、ルグドさん。ご心配をおかけしてすみません。もう大丈夫ですから」
そんなやり取りをする私たちにフィリエル殿下が口を開いた。
「あなたはレジニア卿か? なぜここに?」
言われて、ルグドさん――ルグド・レジニア男爵は驚いたように言った。
「フィリエル殿下ではございませんか! まさかこんなタイミングでお会いできるとは!」
「たまたまミドルダム領に滞在していてね。それでレジニア卿は一体どうしたんだい?」
「なに、レイナの嬢ちゃんに頼まれましてね。祭りのための物資を運びに来たんです」
「祭りの物資を? なぜミドルダム領の人間でもない貴殿が?」
「それはもちろん、うちがミドルダム領と協定を結んでいるからです」
「協定?」
ルグドさんの言葉に困惑するフィリエル殿下。
私が説明する。
「簡単に言いますと、『普段はうちがレジニア領を支援する』『雨が多いときはレジニア領がうちを支援する』という感じです」
「……?」
「ええと、フィリエル殿下はレジニア領の名産品を知っていますか?」
「――そうか! レジニア領の名産品は、確か『リューコン』だったな」
「そうです」
リューコン。
竜の根、という意味合いのその作物は、とても水害に強いという性質がある。
水害で多くの作物が駄目になった際はこれがものすごくよく売れるのだ。
今のように長雨が続いた時期ともなると、市場での売値は普段の数倍。
リューコン栽培を主産業にするレジニア領は今、凄まじい額の利益を出している。
「雨の時期は他の作物がなくなるので、雨に強く安定して納品されるリューコンは、市場価値が爆発的に上がります」
「だ、だがレイナ。それだけではレジニア領がミドルダム領を支援する理由にならないんじゃないのか?」
フィリエル殿下の言葉に私は頷く。
「はい。ですがリューコンは普段はやや利益が少ない作物です。雨が来なければ領地の利益にはあまりつながりません」
「そうだな。だから普通の領地は麦のような他の作物を作る」
雨のない、他の作物が普通に育つ年は他の作物を育てたほうが利益が出る。
リューコンはあくまで、『雨が多い』時期にだけ利益が爆増するものでしかない。
リューコンはハイリスクハイリターンな作物と言えるだろう。
よってリューコンを専門的に作っている領地はレジニア領以外に存在しない。
そんなことをすれば領地があっという間に貧乏になってしまうからだ。
困惑したような顔のフィリエル殿下。
広場に数台の馬車がやってくる。どの馬車にも大きな荷台が括り付けてあり、そこには樽やら木箱やらが山ほど乗せられていた。
御者台から下りた人物がこちらに手を振ってくる。
「よう、レイナの嬢ちゃん! お望みのモンを持って来たぜ!」
「ありがとうございます、ルグドさん!」
「はっはっは、いいってことよ! ミドルダム領には普段から世話になってるからなあ!」
がっはっは、と豪快に笑うルグドさん。
笑い方の通りに賑やかかつエネルギッシュな人物で、まるで大工のように鍛えられた体をしているのが特徴だ。
「よし、お前ら! 持ってきたものを全部使ってここを最高の祭り会場にしろっ!」
「「「はい!」」」
と、他の馬車に乗り込んでいたルグドさんの部下たちが作業を始める。
屋台を作るための木材。
料理のための大量の食材。
飾りつけのための綺麗な花々や鉢。
そういったものが荷台から次々と広場に降ろされ、広場はどんどん祭り会場として華やかになっていく。
「な、なんだこの状況は……」
フィリエル殿下は混乱しているようだった。
部下に指示を出し終えたルグドさんがこちらに歩いてくる。
「久しぶりだな、レイナの嬢ちゃん。色々と大変だったみたいだな」
「お久しぶりです、ルグドさん。ご心配をおかけしてすみません。もう大丈夫ですから」
そんなやり取りをする私たちにフィリエル殿下が口を開いた。
「あなたはレジニア卿か? なぜここに?」
言われて、ルグドさん――ルグド・レジニア男爵は驚いたように言った。
「フィリエル殿下ではございませんか! まさかこんなタイミングでお会いできるとは!」
「たまたまミドルダム領に滞在していてね。それでレジニア卿は一体どうしたんだい?」
「なに、レイナの嬢ちゃんに頼まれましてね。祭りのための物資を運びに来たんです」
「祭りの物資を? なぜミドルダム領の人間でもない貴殿が?」
「それはもちろん、うちがミドルダム領と協定を結んでいるからです」
「協定?」
ルグドさんの言葉に困惑するフィリエル殿下。
私が説明する。
「簡単に言いますと、『普段はうちがレジニア領を支援する』『雨が多いときはレジニア領がうちを支援する』という感じです」
「……?」
「ええと、フィリエル殿下はレジニア領の名産品を知っていますか?」
「――そうか! レジニア領の名産品は、確か『リューコン』だったな」
「そうです」
リューコン。
竜の根、という意味合いのその作物は、とても水害に強いという性質がある。
水害で多くの作物が駄目になった際はこれがものすごくよく売れるのだ。
今のように長雨が続いた時期ともなると、市場での売値は普段の数倍。
リューコン栽培を主産業にするレジニア領は今、凄まじい額の利益を出している。
「雨の時期は他の作物がなくなるので、雨に強く安定して納品されるリューコンは、市場価値が爆発的に上がります」
「だ、だがレイナ。それだけではレジニア領がミドルダム領を支援する理由にならないんじゃないのか?」
フィリエル殿下の言葉に私は頷く。
「はい。ですがリューコンは普段はやや利益が少ない作物です。雨が来なければ領地の利益にはあまりつながりません」
「そうだな。だから普通の領地は麦のような他の作物を作る」
雨のない、他の作物が普通に育つ年は他の作物を育てたほうが利益が出る。
リューコンはあくまで、『雨が多い』時期にだけ利益が爆増するものでしかない。
リューコンはハイリスクハイリターンな作物と言えるだろう。
よってリューコンを専門的に作っている領地はレジニア領以外に存在しない。
そんなことをすれば領地があっという間に貧乏になってしまうからだ。
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