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馬車の中2

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「ロージア領のことは今のレイナには関係ないだろう?」
「はい……ですが、あの領地には顔も名前も知っている農民がたくさんいます」

 たとえば、大規模農地を営むドローズさん。

 彼なんかは長雨で被害を受けた人の一人だろう。

 ロージア家の屋敷にいて苦しんでいた頃、あの人には精神的に随分と助けられた。

 そんなあの人が今も苦しんでいると思うと、胃が痛くなってくる。

「レイナの頼みなら聞いてあげたいけれど……難しいな。長雨で困っているのはどの領地でもそうだ。一つの領地だけ贔屓して支援することはできない」
「……そうですよね」

 王家は絶大な力があるとはいえ、領主たちに支えられてもいる。

 不公平な対応をすれば、不満を持った領主が謀反を起こす可能性だってある。

「とはいえ……これはチャンスでもあるか」

 ぼそりとフィリエル殿下が呟いた。

「フィリエル殿下、なにか言いましたか?」
「いや、気にしないで。それよりロージア領の民を救う方法を思いついたよ」
「本当ですか!?」
「うん。レイナは知らないかもしれないけど、今ロージア家は他の貴族から支援を断られ続けているんだ。理由は借金の踏み倒し。ニルド卿なんかは彼らの屋敷に押し入って財産の一部を押収したらしいよ」
「ええええ」

 借金のカタに財産を押収されるって……そんなことになっているのか。

 確かにロージア家は子爵家とは思えないほど華美な生活をしていたけど……

「そのせいで、本当に困っている今も融資をしてもらえていない。……というわけで、僕が彼らにあえて金を貸そうと思う。もちろん領民の生活の補填に使うよう、厳重に監督したうえでね」

 フィリエル殿下はそんな方針を語った。

「で、でも、踏み倒されてしまうかもしれませんよ。前例もあるようですし」
「それはそれでいいんだ」
「???」

 フィリエル殿下の言葉の意味がわからず混乱する私。

 貸したお金が返ってこなくていいってどういう意味だろう?

 なにか考えがあるようだけど。

「あとは現地で指揮を執る役人の派遣かな。ひとまずそれでロージア領民の生活はある程度立て直せるはずだよ」
「……ありがとうございます、フィリエル殿下。私のワガママで」
「いやいや、これも王族の仕事の一つさ。気にする必要はないよ」
「うう……本当ならうちの領地が支援すればいいだけの話ですが、さすがに貯えがなくて」

 もうすぐ冬が始まる。

 このタイミングで予定外の支出をすればうちの領地が危うい。

「本当に気にしなくていいよ。これは『種まき』のようなものだから」
「は、はあ……?」

 フィリエル殿下の意味深な言葉に私は首を傾げるも、特になにか教えてもらえることはなかった。
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