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ドブルス・ロージア5
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「きゃああああああああああ!」
「き、キルジア卿が倒れたぞ! 医者を呼べ! すぐにだ!」
どこかから悲鳴が上がる。
ああ、あああ、あああああ……!
やってしまった。
キルジア卿が額から血を流して倒れている。転んだ拍子に、頭をワゴンの隅に打ち付けたのだ。意識がないのかぴくりとも動かない。
ぐったりとしたキルジア卿が運ばれていく。
「何事だ!?」
騒ぎを聞きつけてサザーランド国王のレグルス陛下まで現れた。
そして意識のないキルジア卿や、立ちつくす俺を見て状況を悟ったようですぐに俺のもとに向かってくる。
「れ、レグルス陛下……違うのです。これは」
「ふんっ!」
「げへぁ!」
王族とは思えないほどの腕力で殴りつけられ、俺は吹き飛ばされた。
痛い! なんで俺がこんな目に!
激昂したようにレグルス陛下が叫ぶ。
「ドブルス・ロージア! 貴様は……貴様はなんということをしてくれたのだ!?」
「れ、レグルス陛下。これには訳が」
「今回のパーティーでは、公国の貴族とよりよい関係を築くことができるはずだった! レイナの開発した『ユキバミ芋』をきっかけに、公国との関係は一歩前進していた。それを確固たるものにすることができる予定だったのだ。貴様はそれを踏みにじった!」
「レイナ? レイナと言ったのですか? あの小娘がなんだと言うのですか!?」
「……貴様は本当になにも知らないのだな。あの少女がどれだけ優れた人材か」
それからレグルス陛下は俺にレイナの功績について語った。
どうもあの小娘は、ロードリン公国に『ユキバミ芋』という特殊な農作物の共同開発のようなことを持ち掛けたらしい。詳しい背景は教えてもらえなかったが……
その芋の価値が認められ、よい関係ではなかったサザーランドとロードリンとの関係がよくなった。
公国の主である大公からは、レイナを息子の嫁に取りたいという意見まで出ているそうだ。
……なんだそれは。
そんな馬鹿なことがあるのか!?
「れ、レイナはただの男爵令嬢のはず。俺の、俺たちの育ててきたロージア領の経営術を盗んだんだ。あいつは卑怯者だ……」
呟く俺に、レグルス陛下は憐れむような目を向けた。
「……貴様は本当にレイナの価値がわからないのだな。自分の間違いを認められない貴族のなんと哀れなことか」
ありえない。レイナのような小娘が有能なはずがない。
もしそうなら……俺はそのことに気付けない愚か者になってしまう。
「もういい。貴様にはロージア領という豊かな土地を任せてはおけない」
レグルス陛下が厳かな口調で告げた。
「よってドブルス・ロージア。貴様を現時刻をもって領主の任から解く! 領主は別の優秀な人間を選定するゆえ安心するがいい」
「なっ……なんの冗談ですか!?」
「冗談などではない。娘や妻の犯罪も止められず、レイナという人材の優秀さにも気付かない。挙句の果てに隣国の大貴族に怪我まで負わせた貴様に、大切な領地を預けておくわけにはいかない。先代までのロージア家当主に免じて、今までは見逃してきたが……もう限界だ!」
俺は膝から崩れ落ちそうになった。
そんな馬鹿な。俺が……領主を解任?
馬鹿な。馬鹿な馬鹿な馬鹿な。そんなことがあっていいのか!?
「お許しを! どうかもう一度チャンスをください!」
「くどい! 衛兵、この者を地下牢に閉じ込めておけ!」
「「はっ」」
「嫌だ! 陛下! 陛下ぁあああああ……!」
俺は衛兵たちに引きずられて、パーティー会場を連れ出された。
きらびやかな光景が遠ざかっていく。
俺はなにを間違えた? どこで失敗したのだろう?
一つだけわかるのは、もう何もかもが手遅れだということだった。
「き、キルジア卿が倒れたぞ! 医者を呼べ! すぐにだ!」
どこかから悲鳴が上がる。
ああ、あああ、あああああ……!
やってしまった。
キルジア卿が額から血を流して倒れている。転んだ拍子に、頭をワゴンの隅に打ち付けたのだ。意識がないのかぴくりとも動かない。
ぐったりとしたキルジア卿が運ばれていく。
「何事だ!?」
騒ぎを聞きつけてサザーランド国王のレグルス陛下まで現れた。
そして意識のないキルジア卿や、立ちつくす俺を見て状況を悟ったようですぐに俺のもとに向かってくる。
「れ、レグルス陛下……違うのです。これは」
「ふんっ!」
「げへぁ!」
王族とは思えないほどの腕力で殴りつけられ、俺は吹き飛ばされた。
痛い! なんで俺がこんな目に!
激昂したようにレグルス陛下が叫ぶ。
「ドブルス・ロージア! 貴様は……貴様はなんということをしてくれたのだ!?」
「れ、レグルス陛下。これには訳が」
「今回のパーティーでは、公国の貴族とよりよい関係を築くことができるはずだった! レイナの開発した『ユキバミ芋』をきっかけに、公国との関係は一歩前進していた。それを確固たるものにすることができる予定だったのだ。貴様はそれを踏みにじった!」
「レイナ? レイナと言ったのですか? あの小娘がなんだと言うのですか!?」
「……貴様は本当になにも知らないのだな。あの少女がどれだけ優れた人材か」
それからレグルス陛下は俺にレイナの功績について語った。
どうもあの小娘は、ロードリン公国に『ユキバミ芋』という特殊な農作物の共同開発のようなことを持ち掛けたらしい。詳しい背景は教えてもらえなかったが……
その芋の価値が認められ、よい関係ではなかったサザーランドとロードリンとの関係がよくなった。
公国の主である大公からは、レイナを息子の嫁に取りたいという意見まで出ているそうだ。
……なんだそれは。
そんな馬鹿なことがあるのか!?
「れ、レイナはただの男爵令嬢のはず。俺の、俺たちの育ててきたロージア領の経営術を盗んだんだ。あいつは卑怯者だ……」
呟く俺に、レグルス陛下は憐れむような目を向けた。
「……貴様は本当にレイナの価値がわからないのだな。自分の間違いを認められない貴族のなんと哀れなことか」
ありえない。レイナのような小娘が有能なはずがない。
もしそうなら……俺はそのことに気付けない愚か者になってしまう。
「もういい。貴様にはロージア領という豊かな土地を任せてはおけない」
レグルス陛下が厳かな口調で告げた。
「よってドブルス・ロージア。貴様を現時刻をもって領主の任から解く! 領主は別の優秀な人間を選定するゆえ安心するがいい」
「なっ……なんの冗談ですか!?」
「冗談などではない。娘や妻の犯罪も止められず、レイナという人材の優秀さにも気付かない。挙句の果てに隣国の大貴族に怪我まで負わせた貴様に、大切な領地を預けておくわけにはいかない。先代までのロージア家当主に免じて、今までは見逃してきたが……もう限界だ!」
俺は膝から崩れ落ちそうになった。
そんな馬鹿な。俺が……領主を解任?
馬鹿な。馬鹿な馬鹿な馬鹿な。そんなことがあっていいのか!?
「お許しを! どうかもう一度チャンスをください!」
「くどい! 衛兵、この者を地下牢に閉じ込めておけ!」
「「はっ」」
「嫌だ! 陛下! 陛下ぁあああああ……!」
俺は衛兵たちに引きずられて、パーティー会場を連れ出された。
きらびやかな光景が遠ざかっていく。
俺はなにを間違えた? どこで失敗したのだろう?
一つだけわかるのは、もう何もかもが手遅れだということだった。
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