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紅の騎士は白き花を抱く
14.おやすみ、ダーリン。
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こんなに緊張したこと、今までなかったかもしれない。
リシェーナは、大きなベッドに座ってじっと待っていた。
今まで、ジオークが寝室として使っていて、これからリシェーナとジオークの寝室となる部屋は、ジオークの匂いがする。
ジオークの匂いを嗅ぐと、ほっとすると同時に、どきどきするのだ。
心臓がうるさいし、胸が痛くて苦しい。
帰宅したリシェーナとジオークは、まずは着替えをしたのだが、驚くべき事にリシェーナの部屋はもぬけのからになっていた。 代わりに、ジオークの部屋の隣の部屋へとリシェーナの荷物は全て移されていた。
そういうわけで、リシェーナはばあやが実は本当に魔法使いなのではないかと疑っている。
その後は、ばあやが作ってくれた、びっくりするくらいのご馳走をジオークとばあやと三人で食べた。
食べ終えると、ばあやは「片づけと明日の朝、摘まめるものの準備をしたらお暇しますわ。 お二人はもうおやすみになって」と言ってくれて、今に至る。
お風呂は、リシェーナが先に使わせてもらった。
今は、ジオークが入浴中だ。
こういうとき、どうやって待っているのが、正解なのだろう。
お風呂も、いつもより念入りに入って、洗い、磨いたつもりだが、変なところはないだろうか。
リシェーナは自分の身体を見下ろした。
こんなふうに、色々と気にしたことも、今まではなかった。
そんなことを思っていると、不意に扉の開く音がする。
ドキリとしたリシェーナが顔を上げると、シャツに袖を通して前は開けたまま、ズボンを身につけていた。
さすが、騎士。 シャツの間から覗くジオークの身体は、筋肉がしっかりと浮いていて、目のやり場に困ってしまう。
リシェーナが視線を泳がせて挙動不審になっていたのだが、ふとそのリシェーナの上に、影が落ちる。
「待たせちゃったね」
リシェーナが視線を上げると、リシェーナの目の前に立ったジオークが身を屈めて、リシェーナの唇にキスを落とすのはほぼ同時だった。
ちゅ、ちゅ、と小さくて可愛い音を立てて、ジオークは角度を変えてリシェーナにキスをする。
軽い、触れるだけのキスが繰り返される。
好きだよ、大切だよ、と言われているようで、胸の奥がぽっと温かくなるけれど、もっと、長く触れ合いたい。
そっと、ジオークの首に腕を回して、リシェーナから唇を押し当てる。
唇を吸ったり、食んだり、舌を出したりできるほど大胆にはなれなかった。
けれど、ジオークはリシェーナの行動から、リシェーナがしてほしいことを察してくれたのだろう。
一度、唇が離れて見つめ合ったときに、ジオークがそっと唇を開いて首を傾けるのが見えたから、リシェーナも唇を開く。
わずか覗かせた舌と、ジオークの舌が触れた。
それだけで、びりりっと全身に震えが走って、リシェーナの鼻から声が漏れる。
「ん…」
どうして、触れ合う唇ですら、舌ですら、優しいのだろう。
他人の呼吸を、ほしいと思ったのなど、初めてだった。
もっと、もっと、触れてほしい。
もっと、もっと、与えてほしい。
触れられて、与えられて、ぼんやりして、身体に震えが来るけれど、離れたくなくて、ぎゅっとジオークにしがみつく。
ジオークは、リシェーナに口づけたままで、リシェーナの背に腕を回す。
その腕に込められた力が、上方に動くような感じがして、リシェーナはそっと立ち上がったけれど、膝に震えがきた。
「っ」
膝から力が抜けそうになるリシェーナを、唇を離したジオークが支え、抱き上げてくれる。
必死にジオークに縋り付いていると、ばさっと掛布を捲るような音がして、ベッドの上にそっと下ろされた。 横たわるリシェーナに寄り添うように横たわったジオークの影が、リシェーナに落ちてくるので、リシェーナは目を伏せる。
けれど、今度与えられたのは、さっきの甘くて深くて、くらくらしてしまうくらいに心地のいいキスではなくて、子どもをあやすようなキスだった。
「おやすみ、ダーリン。 いい夢を」
リシェーナは、大きなベッドに座ってじっと待っていた。
今まで、ジオークが寝室として使っていて、これからリシェーナとジオークの寝室となる部屋は、ジオークの匂いがする。
ジオークの匂いを嗅ぐと、ほっとすると同時に、どきどきするのだ。
心臓がうるさいし、胸が痛くて苦しい。
帰宅したリシェーナとジオークは、まずは着替えをしたのだが、驚くべき事にリシェーナの部屋はもぬけのからになっていた。 代わりに、ジオークの部屋の隣の部屋へとリシェーナの荷物は全て移されていた。
そういうわけで、リシェーナはばあやが実は本当に魔法使いなのではないかと疑っている。
その後は、ばあやが作ってくれた、びっくりするくらいのご馳走をジオークとばあやと三人で食べた。
食べ終えると、ばあやは「片づけと明日の朝、摘まめるものの準備をしたらお暇しますわ。 お二人はもうおやすみになって」と言ってくれて、今に至る。
お風呂は、リシェーナが先に使わせてもらった。
今は、ジオークが入浴中だ。
こういうとき、どうやって待っているのが、正解なのだろう。
お風呂も、いつもより念入りに入って、洗い、磨いたつもりだが、変なところはないだろうか。
リシェーナは自分の身体を見下ろした。
こんなふうに、色々と気にしたことも、今まではなかった。
そんなことを思っていると、不意に扉の開く音がする。
ドキリとしたリシェーナが顔を上げると、シャツに袖を通して前は開けたまま、ズボンを身につけていた。
さすが、騎士。 シャツの間から覗くジオークの身体は、筋肉がしっかりと浮いていて、目のやり場に困ってしまう。
リシェーナが視線を泳がせて挙動不審になっていたのだが、ふとそのリシェーナの上に、影が落ちる。
「待たせちゃったね」
リシェーナが視線を上げると、リシェーナの目の前に立ったジオークが身を屈めて、リシェーナの唇にキスを落とすのはほぼ同時だった。
ちゅ、ちゅ、と小さくて可愛い音を立てて、ジオークは角度を変えてリシェーナにキスをする。
軽い、触れるだけのキスが繰り返される。
好きだよ、大切だよ、と言われているようで、胸の奥がぽっと温かくなるけれど、もっと、長く触れ合いたい。
そっと、ジオークの首に腕を回して、リシェーナから唇を押し当てる。
唇を吸ったり、食んだり、舌を出したりできるほど大胆にはなれなかった。
けれど、ジオークはリシェーナの行動から、リシェーナがしてほしいことを察してくれたのだろう。
一度、唇が離れて見つめ合ったときに、ジオークがそっと唇を開いて首を傾けるのが見えたから、リシェーナも唇を開く。
わずか覗かせた舌と、ジオークの舌が触れた。
それだけで、びりりっと全身に震えが走って、リシェーナの鼻から声が漏れる。
「ん…」
どうして、触れ合う唇ですら、舌ですら、優しいのだろう。
他人の呼吸を、ほしいと思ったのなど、初めてだった。
もっと、もっと、触れてほしい。
もっと、もっと、与えてほしい。
触れられて、与えられて、ぼんやりして、身体に震えが来るけれど、離れたくなくて、ぎゅっとジオークにしがみつく。
ジオークは、リシェーナに口づけたままで、リシェーナの背に腕を回す。
その腕に込められた力が、上方に動くような感じがして、リシェーナはそっと立ち上がったけれど、膝に震えがきた。
「っ」
膝から力が抜けそうになるリシェーナを、唇を離したジオークが支え、抱き上げてくれる。
必死にジオークに縋り付いていると、ばさっと掛布を捲るような音がして、ベッドの上にそっと下ろされた。 横たわるリシェーナに寄り添うように横たわったジオークの影が、リシェーナに落ちてくるので、リシェーナは目を伏せる。
けれど、今度与えられたのは、さっきの甘くて深くて、くらくらしてしまうくらいに心地のいいキスではなくて、子どもをあやすようなキスだった。
「おやすみ、ダーリン。 いい夢を」
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