アグナータの命運

あーす。

文字の大きさ
上 下
131 / 286
一掃

131 いにしえのレグウルナス

しおりを挟む
 ファオンは次に、いつも食事を取る中央広場の焚き火の周囲の、石の椅子に座ってるシリルローレルの仲間達に出会う。

まだお昼で皆、テスから昼食の皿を受け取り、話しをしていて、自分を見かけると
「ヨゥ!
キルファースの三男坊!」

と陽気に声をかけられた。

「桃で傷が治癒出来るって、お前が見つけたって?」

ファオンは四人いる、シリルローレルと同年代のかつての《勇敢なる者》レグウルナス達に寄って行く。

「…父を、ご存知なんですか?」
「あいつはめちゃくちゃ強かったが、堅物だ」
「だな」

皆、同感だと言うように、首を横に振る。

「奥さんを…凄く愛していて…熱烈にな…」
「…だから、奥さん亡くした後は暫く、魂が抜けたようで…。
荒れていたし…」

「…子供に両親とも亡くさせたいのか?
と俺は怒鳴ったぜ」

ファオンは俯く。

「子供と引き替えに亡くなったと言うから…その子を身代わりと思って、大切にしてやれ。
と言ったが…男の子でがっかりしてた」

「女の子だったら、ベタ甘に育てたな」

皆、はははっ!と笑っていたが、ファオンは俯いた。

横の一人が、腕に触れる。

「…だが一番可愛い息子だと。
でも近寄れないとも言ってた。
他の二人を差し置いて、お前しか目に入らなくなる。
次男は放って置いてもしたい放題するが…長男は母を亡くして自分同様…寂しそうにしていたからと」

「まあ…堅物の厳格な男程…結構脆い」

ファオンは顔を上げる。

「よく言えば、一途だ」

その人にそう言われ…ファオンは頷く。

「シリルローレルが…歴代でも異色の《勇敢なる者》レグウルナスとして育て上げたのに、《皆を繋ぐ者》アグナータになっちまった。と零していたが…」

セグナ・アグナータ戦う皆を繋ぐ者になったそうだな?」

ファオンは顔を下げる。

「…僕は《皆を繋ぐ者》アグナータが凄く嫌だったのに、色気が無いってあんまり…《勇敢なる者》レグウルナスに、相手にされません」

皆、一斉に笑い出した。

「さて…!
俺達はそろそろ尾根を降りる」

ファオンが顔を上げる。

「シリルローレルは暫く残るそうだ」

ファオンは、ほっとした。

皆、空の皿を置く。

「俺達の時代にも、治癒力を使う方法が解ってたらな!」
「レッドの怪我が異様に早かったの。
あれ、そうじゃないのか?」

「…無意識に使ってる奴、結構いたぞ?」
「でも全部、“桃の奇跡”で片付けられてたな」

ファオンは皆が、立ち上がるのを見た。
背を向け、尾根から下へ降りる出口の岩へと歩き出す。

一人が顔だけ振り向いて、言った。

「…皆、ほぼ死に程(てい)からは、脱した」

先を歩いてた一人も怒鳴る。
「必要ならまた駆けつけてやるから、安心しろ!」

ファオンは笑って去って行く、頼もしい男達の背に、叫んだ。

「ありがとう!」

皆、手を上げたり振り向いて笑ったりして…けれど終いに姿を消した。


風が尾根を吹き抜ける。

《化け物》キーナンを…絶滅させる迄には行かないけれど…。

数は減らせ、襲撃も…うんと楽に出来る。

きっと…。

風は白の魔法使いの化身のように感じる。

髪が風に揺れて顔にかかる。
けど顔を上げる。

《勇敢なる者》レグウルナスらの戦いは、もっともっと楽になる。

風に乗った白の魔法使いの化身は、青空の中微笑んでいるように、ファオンには感じられた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

俺を裏切り大切な人を奪った勇者達に復讐するため、俺は魔王の力を取り戻す

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:5,219pt お気に入り:93

噂の不良は甘やかし上手なイケメンくんでした

BL / 連載中 24h.ポイント:8,833pt お気に入り:1,340

前世持ちは忙しい

BL / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:338

恭介の受難と異世界の住人

BL / 連載中 24h.ポイント:78pt お気に入り:162

甘い婚約~王子様は婚約者を甘やかしたい~

恋愛 / 完結 24h.ポイント:633pt お気に入り:387

婚約破棄させてください!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,245pt お気に入り:3,013

処理中です...