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第三十二話 名簿は、問いを拒まない
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第三十二話 名簿は、問いを拒まない
名簿は、
叫ばない。
抗議もしない。
要求もしない。
ただ――
そこに在る。
集住区域で回り始めた紙は、
翌日には、
二枚になった。
三枚になり、
五枚になり――
やがて、
一冊の束になる。
書かれているのは、
名前だけ。
年齢も、
評価も、
理由もない。
それでも、
人々は
そこに集まった。
「……ここに、
書いていいのか」
ためらいが、
声に混じる。
「……呼ばれたから」
答えは、
それだけだった。
名を呼ばれた者は、
名を残す。
それが、
新しい合図に
なっていた。
王宮では、
名簿の存在が
正式に議題に上がった。
「……思想的活動と
見なすべきでは」
側近の一人が
言う。
「扇動ではありません」
別の者が
反論する。
「要求もなく、
声明もない」
「だが――
問いを生む」
その一言で、
会議室が
静まり返る。
ルーファス・ヴァルディオスは、
机に置かれた
写しを見つめていた。
名。
名。
名。
一つひとつが、
軽いはずなのに、
重い。
「……これは、
止められない」
誰に言うでもなく、
呟く。
「止めれば、
なぜ止めたのか
説明が必要になる」
説明は、
必ず
嘘を含む。
そして――
嘘は、
次の名簿を
呼ぶ。
教会。
ミレイア・ルミナスは、
祈祷台の前で
膝をついていた。
「……神は、
名を呼ばれる存在です」
声は、
小さい。
「呼ばれない神は、
信仰されません」
それは、
神学の話ではない。
人の話だ。
彼女は、
初めて
祈りの中で
具体的な名を
口にした。
「……ヨアヒム・レーヴェン」
名を呼ぶ。
それだけで、
胸が
熱くなる。
それが、
何を意味するのか――
もう、
分かっていた。
集住区域では、
名簿の写しが
人の手を
渡り始めていた。
「……見せてくれ」
誰かが言う。
「……私の名は、
あるか」
探す。
見つけた瞬間、
その人は
小さく息を吐く。
「……あった」
喜びではない。
確認だ。
自分が、
まだ
消えていない
という。
記録を続ける者たちは、
名簿を
新しい分類で
整理し始めていた。
「評価別ではない」
「職業別でもない」
「……消された順だ」
誰が、
いつ、
どこから
消えたのか。
それは、
国の選択の履歴だった。
シュヴァルツガルト公国。
セラフィーナは、
報告書を閉じ、
小さく頷いた。
「……名簿は、
完成しません」
アーヴィンが問う。
「なぜだ」
「人が、
生きている限り、
増え続けるから」
そして――
彼女は
静かに続けた。
「完成しないものほど、
恐ろしい」
エルディア王国では、
兵士が
集住区域の入口で
立ち止まっていた。
名簿を
見ている。
奪う命令は、
出ていない。
だが――
見ないことも
できない。
兵士の一人が
呟いた。
「……ここに、
母の名がある」
誰も、
返事をしなかった。
だが――
その瞬間、
名簿は
もう
紙ではなくなった。
関係になった。
名簿は、
問いを拒まない。
読む者すべてに、
同じ問いを
投げかける。
――
「この名を、
消す理由を
説明できるか」
その問いに、
答えられる者は、
まだ
どこにも
いなかった。
そして――
答えられない問いほど、
人を
動かす。
次に動くのは、
誰か。
王か。
聖女か。
それとも――
名を呼ばれた
者たち自身か。
選択の時は、
確実に
近づいていた。
名簿は、
叫ばない。
抗議もしない。
要求もしない。
ただ――
そこに在る。
集住区域で回り始めた紙は、
翌日には、
二枚になった。
三枚になり、
五枚になり――
やがて、
一冊の束になる。
書かれているのは、
名前だけ。
年齢も、
評価も、
理由もない。
それでも、
人々は
そこに集まった。
「……ここに、
書いていいのか」
ためらいが、
声に混じる。
「……呼ばれたから」
答えは、
それだけだった。
名を呼ばれた者は、
名を残す。
それが、
新しい合図に
なっていた。
王宮では、
名簿の存在が
正式に議題に上がった。
「……思想的活動と
見なすべきでは」
側近の一人が
言う。
「扇動ではありません」
別の者が
反論する。
「要求もなく、
声明もない」
「だが――
問いを生む」
その一言で、
会議室が
静まり返る。
ルーファス・ヴァルディオスは、
机に置かれた
写しを見つめていた。
名。
名。
名。
一つひとつが、
軽いはずなのに、
重い。
「……これは、
止められない」
誰に言うでもなく、
呟く。
「止めれば、
なぜ止めたのか
説明が必要になる」
説明は、
必ず
嘘を含む。
そして――
嘘は、
次の名簿を
呼ぶ。
教会。
ミレイア・ルミナスは、
祈祷台の前で
膝をついていた。
「……神は、
名を呼ばれる存在です」
声は、
小さい。
「呼ばれない神は、
信仰されません」
それは、
神学の話ではない。
人の話だ。
彼女は、
初めて
祈りの中で
具体的な名を
口にした。
「……ヨアヒム・レーヴェン」
名を呼ぶ。
それだけで、
胸が
熱くなる。
それが、
何を意味するのか――
もう、
分かっていた。
集住区域では、
名簿の写しが
人の手を
渡り始めていた。
「……見せてくれ」
誰かが言う。
「……私の名は、
あるか」
探す。
見つけた瞬間、
その人は
小さく息を吐く。
「……あった」
喜びではない。
確認だ。
自分が、
まだ
消えていない
という。
記録を続ける者たちは、
名簿を
新しい分類で
整理し始めていた。
「評価別ではない」
「職業別でもない」
「……消された順だ」
誰が、
いつ、
どこから
消えたのか。
それは、
国の選択の履歴だった。
シュヴァルツガルト公国。
セラフィーナは、
報告書を閉じ、
小さく頷いた。
「……名簿は、
完成しません」
アーヴィンが問う。
「なぜだ」
「人が、
生きている限り、
増え続けるから」
そして――
彼女は
静かに続けた。
「完成しないものほど、
恐ろしい」
エルディア王国では、
兵士が
集住区域の入口で
立ち止まっていた。
名簿を
見ている。
奪う命令は、
出ていない。
だが――
見ないことも
できない。
兵士の一人が
呟いた。
「……ここに、
母の名がある」
誰も、
返事をしなかった。
だが――
その瞬間、
名簿は
もう
紙ではなくなった。
関係になった。
名簿は、
問いを拒まない。
読む者すべてに、
同じ問いを
投げかける。
――
「この名を、
消す理由を
説明できるか」
その問いに、
答えられる者は、
まだ
どこにも
いなかった。
そして――
答えられない問いほど、
人を
動かす。
次に動くのは、
誰か。
王か。
聖女か。
それとも――
名を呼ばれた
者たち自身か。
選択の時は、
確実に
近づいていた。
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