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本章 計画と策動
慈杏の決意15
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チームメンバーとの日々を想い、感傷的になっている慈杏に、新町は先ほどより、ほんの少しだけ声のトーンを落として話し始めた。
「ふたりは確かに優秀だし、実力もつけてきた。
それでもまだまだ危なっかしいところもある。
渡会は感性も技術も抜群だし対応力も素晴らしいけど飽きっぽすぎる。そのせいか、デザインにもプレゼンにもムラがあるでしょ。
百合はさっきも言った通り尖っている部分がある。抑えてはいても言い方や表情などに滲み出ることはあるわ」
新町の社員評は的確だった。
大企業ではないとはいえ、直接一緒に仕事をする場面はあまりない社員のことも良く理解していた。新町の評価は続く。
「それをわたしは悪いとは言わない。作品にも現れていて、ハマれば強力な武器になる。
だけど、ギャンブルをするわけにはいかない。高いアベレージで『ハマらせ』なくては、信頼度の高い武器とは言えない。
ふたりとも、弧峰というコアがバランスをとり適した方向に導いていたからこそ、実力を振い、時に実力以上のパフォーマンスを発揮していたと見ている」
いつの間にか空気が社長とチームリーダーのものに換えられている。
「それも引き継ぎ期間中になんとかします」
慈杏も部下モードで答えた。
「あと渡会に話戻すけど、動物じみた感性による対人スキルは類い稀なるものがあるとは思うけど、そもそものベースはあれだからね⁉︎
すごく配慮した言い方をして、理性と知性が溶けいてるわ!」
「そ、それも、なんとか……個人の修正ではなくてプランの方でなんとか、補えたら……良いなぁと……」
「そう……。とにかく希望はわかった。事情も知った。計画も理解できた。就業規則上も問題なし。それを踏まえたわたしの回答は……」
新町の神妙な表情に、慈杏はの心はまた少し傷んだ。こんな顔をさせてしまった。そして、不本意な決定の言葉を言わそうとしている。
「『保留』よ!」
その答えは慈杏の想定の埒外であった。
「ええっ⁉︎ 溜めてその答えですか⁉︎ 納得してくれているのにそんな答えあります⁉︎」
「あるの! そもそも理解できただけで納得したわけじゃない。
まだ期間あるんでしょう? 辞めたいわけじゃないんだよね? 辞めるのが目的ではない。
目的のために必要な手段として、辞めるのならば、別の選択肢で目的に至れるのならそれで良いじゃない」
また急速に空気が換わっていた。
公と私と、感傷で振り回した挙句、論理と感情で仕上げてくるつもりだと慈杏は直感した。きっと言い負かされると覚悟した。
「うちの社名なんだと思っているの! 『リアライズ』よ! やりたいことをやりたいやり方で実現してこそでしょう。
推敲し尽くしてもいないのに妥協案なんて聞きたくもない。だからあなたもまだまだなの!
まだまだのひよっこちゃんをリリースなんてしたらわたしが恥かくわ!」
「ふたりは確かに優秀だし、実力もつけてきた。
それでもまだまだ危なっかしいところもある。
渡会は感性も技術も抜群だし対応力も素晴らしいけど飽きっぽすぎる。そのせいか、デザインにもプレゼンにもムラがあるでしょ。
百合はさっきも言った通り尖っている部分がある。抑えてはいても言い方や表情などに滲み出ることはあるわ」
新町の社員評は的確だった。
大企業ではないとはいえ、直接一緒に仕事をする場面はあまりない社員のことも良く理解していた。新町の評価は続く。
「それをわたしは悪いとは言わない。作品にも現れていて、ハマれば強力な武器になる。
だけど、ギャンブルをするわけにはいかない。高いアベレージで『ハマらせ』なくては、信頼度の高い武器とは言えない。
ふたりとも、弧峰というコアがバランスをとり適した方向に導いていたからこそ、実力を振い、時に実力以上のパフォーマンスを発揮していたと見ている」
いつの間にか空気が社長とチームリーダーのものに換えられている。
「それも引き継ぎ期間中になんとかします」
慈杏も部下モードで答えた。
「あと渡会に話戻すけど、動物じみた感性による対人スキルは類い稀なるものがあるとは思うけど、そもそものベースはあれだからね⁉︎
すごく配慮した言い方をして、理性と知性が溶けいてるわ!」
「そ、それも、なんとか……個人の修正ではなくてプランの方でなんとか、補えたら……良いなぁと……」
「そう……。とにかく希望はわかった。事情も知った。計画も理解できた。就業規則上も問題なし。それを踏まえたわたしの回答は……」
新町の神妙な表情に、慈杏はの心はまた少し傷んだ。こんな顔をさせてしまった。そして、不本意な決定の言葉を言わそうとしている。
「『保留』よ!」
その答えは慈杏の想定の埒外であった。
「ええっ⁉︎ 溜めてその答えですか⁉︎ 納得してくれているのにそんな答えあります⁉︎」
「あるの! そもそも理解できただけで納得したわけじゃない。
まだ期間あるんでしょう? 辞めたいわけじゃないんだよね? 辞めるのが目的ではない。
目的のために必要な手段として、辞めるのならば、別の選択肢で目的に至れるのならそれで良いじゃない」
また急速に空気が換わっていた。
公と私と、感傷で振り回した挙句、論理と感情で仕上げてくるつもりだと慈杏は直感した。きっと言い負かされると覚悟した。
「うちの社名なんだと思っているの! 『リアライズ』よ! やりたいことをやりたいやり方で実現してこそでしょう。
推敲し尽くしてもいないのに妥協案なんて聞きたくもない。だからあなたもまだまだなの!
まだまだのひよっこちゃんをリリースなんてしたらわたしが恥かくわ!」
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