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桜のはなびら

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本章 計画と策動

慈杏の決意16

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「さすが玲央さん! ひゅーっ! いかちー! パーティーの予感がするぅっ。じあさぁん、観念しましょーよ、寿司くいましょーよぅ」

 ミーティングルームにて。
 進退についての進捗を慈杏から聞かされた渡会は、誕生日くらい喜んだ。
 渡会は社外以外では仕事中でも新町を玲央さんと呼んでいた。尚、渡会のおつむが溶けている的な新町の評価は伏せてある。

「まだどうなるかわからないんだから、基本はこの計画通りいくよ」

 困ったような顔で慈杏は渡会を落ち着かせた。
 辞めない道があるなら、それに越したことはない。慈杏だって辞めたいわけではないのだから。だけど。

「社長は厳しいこと言われましたけど、弧峰さんのことですから、あらゆる選択肢は考え尽くした上で決めたんですよね。そら簡単に都合の良い選択肢なんて出てくるわけない。けど、あの社長が無意味な引き伸ばしするとも思えません。弧峰さんですら視えない、でも社長には視えかかっている糸口があるのかもしれん」

 確かに、百合の言葉も一理あると慈杏は思った。

「ボクらの最初の仕事のコピー、覚えてはります?」百合は慈杏に尋ねた。

「もちろん。あれば良い仕事だった。評判も良かったよね」
 慈杏は懐かしそうに目を細めた。

「くどいかな思て切った、続きがあるんですよ」
 

『目の前のその坂道を登ろう。きっと観える世界が広がる。
観える世界を広げよう。きっと未来が視えてくる』
 

「今の視座では視えなくても、決して存在してないわけではないのかもしれないです」

「そうね、目の前に在るモノが、闇の中では何も見えなくなっているだけ、と言うこともあるのかもしれない。社長に任せるだけじゃなくて、わたしももっと広く、高く、細かく、道がないのか探してみるよ」

「それでこそ! それでこそですよ! わたしももちろん探しますからね⁉︎
ランちゃんも手伝うし!
それじゃ、そろそろだしてみますか。本気とやらを……!」

「勝手に決めんな! 最初から本気出せや! けど、それはもちろんやらせてもらいます」

 やっぱり、私は人に恵まれている。
 慈杏はその幸運をかみしめた。

「ありがとう。まずはこの計画はこの通り進めましょう。これを疎かにしたらダメだからね。その上で、もし余力があったら、手伝ってください」
「うわ、愛い! 愛い奴よのー⁉︎ ランちゃん惚れちゃわない? ダメですからね⁉︎ じあさん彼氏おんねんから!」

「少し落ち着け! あとボク、カノジョおるし!」

 渡会の時間が止まった。

「え?」

「え? ちゃうわ」

「うそ」

「嘘ちゃう」

「なんで?」

「何を答えたらええねん」

「どうすんの?」

「何がいな」

 固まったまま言葉を繰り出していた渡会の時が動き始めた。

「わたし早く彼氏作って、じあさんと一緒にアイちゃんを困ったように笑いながら、しょーがないなーって友達紹介したり合コン企画してあげたりして、ルイぴーには生涯頭上がりまへんわって言わす計画は?」

「知らん! なんやその計画しょーもない。
ルイぴーてなんや。
そならむしろボクと弧峰さんでその計画おまえで試したろか」

「おかしいよ! なにそれ! だってランちゃん夜中まで働いたりしてんじゃん! たまに土日仕事してんじゃん! 社畜が!」

「そんなん弧峰さんかてそうや」

「じゃあふたりともおかしいよ! 公私わけないと! 働き方大革命! なに仕事しちゃってんの⁉︎ 貴様ら、いつ悪魔に魂を売り渡したっ⁉︎」

 随分な言われ方だが、確かに働きすぎは良くないし、それを当たり前にしないようにしたいとは慈杏も思っていた。
 難易度はともかく、拘束時間の長さがタフな仕事だというのは誤解だろう。誤解されたタフな仕事が価値ややりがいだとする感覚は、時代に沿う沿わない以前に本質とは言えないとは新町の考え方でもある。

「まあ今後プライベート削るような働き方は会社の方針もあるし控えなあかんのやろうけど、プライベートはずっと恋人と一緒におらなあかんて感覚なんやねん。中学生か」

「そういうもんじゃん!」

「おまえ、思てる以上に頭お花畑やな。おまえはしばらく恋愛せん方が良いかもしれん。業務に支障きたす」

「なんだと⁉︎  引き摺り回すぞこのやろうっ」

「おま、ボク先輩やぞ⁉︎」

 いつもの「チームのノリ」ではあるが、ややヒートアップしているように見えた。いつも以上に言葉が強い。
 それだけ百合に恋人がいた事実は渡会を驚かせたということだろうか。

「ふたりとも落ち着いて! 百合くん、さっきのはちょっとセクハラとパワハラ気味かも」

「あ、すんません。て、あいつがさっき言ってた言い種の方が酷ないですか?」

「それは、まあ。渡会さんもだめよ? 百合くん確かに少しクセあるけど彼女いないなんて決めつけちゃ」

 慈杏もやや動揺していたのかもしれない。

「弧峰さんもひどいですからね⁉︎」
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