竜の恋人

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異世界生活スタートです。

回想(アルホンス)

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案内された場所は、それなりに、高貴な来賓を招くに相応しいと思われる部屋だった。
豪華絢爛という感じではなく、高級感はあるが、落ち着いた感じの部屋だ。

この屋敷自体がそんな雰囲気であるから、彼女も安心して過ごせるだろう。
彼女の好みも密かにリサーチして、自分の屋敷にも取り入れる算段をする。
彼女自身の部屋もそうだが、二人の部屋も…

いかん。ついつい今後の未来生活を思い浮かべてしまう。

「大丈夫か?いつものお前と違う姿が拝見できて、俺は面白いけどな…まぁ、落ち着け…」
「うるさい。わかっている」

急いでいつもの自分に戻る。
いかん。気を抜くとどうも…

そうこうすると、部屋のドアがノックされる。

急いで身なりを確認し、二人で立ち上がって待ち受けた。
我が国の騎士服を着、剣帯もしているから、怖がるだろうか…
だが、ここに居る理由はあくまで護衛だ。
怖がらなければ良いが…

入ってきた女性は、初めて見た黒髪•黒い瞳ではなく、金色の髪•蒼瞳の可愛らしい少女だった。
どんな姿に変わっても、俺にとっては愛しいモノでしかない。
着ている服も、あの時の物とは違うが、これもとても似合っていた。
だが…私の色も彼女に…
ついつい思考が明後日の方向に向いてしまう…

「初めまして、異世界から来られた方。私は竜人族のアルホンス•セイクリオン。この国から南側の『竜の国』アステード王国から来た竜人族です。そして、こちらが…」
「ジャディール•アステードだ。同じく竜人族で、アステード王国の王弟だ。君のことは知っている。あの時、そう、召喚の儀式の時に同席していたんだ。気がつかなかったかもしれないが…それと、他の諸事情も知っている。これは極秘案件だから、一部の者しか知らないがな…まぁ、よろしく頼む」

俺は護衛。そして、もう一人は王族であるが護衛に付く事を告げる。
あの事は知っているから、案して欲しいという気持ちで挨拶したのだが、顔色から不安がっているのがわかる。
『震えるのをどうにか抑え込んで…』という感じだ。
そして、彼女の声をしっかりと聞いた。

「初めまして。私は秋本 優里。こちらの世界では、ユウリ•アキモトです。姉と共にこちらに召喚されましたが…」

あの時のことを思い出して、言葉が詰まったのか?大丈夫か?
思わず彼女の方に足が向いた。
殿下が一瞬俺の方を向いたが、すぐさま理解したのだろう。
そのウキウキした表情はどうかと思うが、今は関係ない。

「あぁ、辛いことを思い出させて申し訳ありません。とりあえず座ってお話をしましょう」

そう言って、自分達のの間に座らせた。

『えっ?普通、対面で座るよね。なぜ挟む?』

そう言う心の声が聞こえそうな表情だ。
混乱している顔も可愛らしい。
耳が真っ赤に染まっている。
頬にも朱が染まり、少し瞳が潤んだのも良い。
元の黒目の時のも見たかったな…

「私達は貴女様、ユーリ様の護衛みたいなものですよ。ご存知かもしれませんが、今この世界は『瘴気』が溢れ出し、魔物である『魔獣』が徘徊しだしています。『瘴気』が増え、『魔獣』が増加し、この世界が混沌に陥ると、世界の扉が開き『悪魔』が降臨してしまうのです。それを防ぐため、『聖女召喚の儀式』で異世界から『聖女様』を召喚したのですが、ユーリ様はいわゆる巻き込まれての召喚となりました。隔離対応となりましたが、それでも安全な場所を選んだとこの国皇太子から聞いております。しかしながら、絶対に『瘴気』や『魔物』がこの地に現れないとは言い切れないのが現状です。そこで、我ら二人が護衛として参りました。」

「はぁ…………そうなんですね」
「はい。」

そう説明した。王弟殿下である彼の護衛も兼ねていると思ったのだろう。
まぁ、兼ねていないこともないが、勝手に喜んでついてきたのだが…
別に、自分の部下でも良かったのだ。
それなりの爵位も持っているのだから…

国に帰り、父にすぐさま報告すると、さっさと爵位を譲られた。
自分はフォローするからと…

そうだ、間違いなく彼女は私の『番』であるが、それを周りの目がある場所で確認したい。
その方が、さならる牽制にもなるだろう。

「ユーリ様。少し確認したい事があるので、手を握ってもよろしいですか?」
「えっ、なに急に??」

驚いた彼女の顔は可愛らしい。
瞳が落ちそうなほど目を見開いて驚いている。

周りも、『今?』と一瞬驚いたのだろう。
驚いた感じが取れたが、その気配はすぐさま収まった。
さすがだ…
彼女を挟んだ反対側の男は楽しそうだ。
本当は、彼女の側は自分だけにしたかったが…まぁ、今回はいいだろう…

「……………」

返事を待たずに、彼女を覗きながら向きを変えて、両手を握った。
殿下は楽しそうに、ニヤニヤしながら、なりゆきを見守っている。

「魔力の交換をしてみましょう。魔力操作の練習になりますし、今後の事でも大切な事なので…」

そう言い、『流しますよ』と言って両手から魔力を交換するが如く流し込んだ。
心地よい甘い香りは絶えず彼女から漂っているが、流し込むと、さらに濃厚さが増えた。

気持ち良さを感じているのか、蕩けた表情だ。
こんな表情、誰にも見せたくはない…が…

「気持ち良い…あたたかい温泉に浸かっている…そんな感じだ。しかも、そう…私の好きな花…金木犀の香りがする感じだ~~。」

そう呟いているのは気がついているのだろうか…
でも、そう感じてくれるのは嬉しい…

それに、『金木犀』の香りが好きなのか…
そう言えば、この香りは『金木犀』に似ているか…

屋敷にも植える事にしよう…
彼女の部屋の近くに…


「どうですか?何か感じますか?」
「あたたかい感じのモノが流れてきて、心地良いです。花の…良い香りが…」
「そうですか…やっぱり…それでは、その感じを今度は私に流してみてください。」

そう言って、流す事をやめた。次は彼女からだ。手を握ったまま、彼女から流し込まれる。初めは少し…そして徐々に多く…どのくらい流して良いのかわからい感じか…
流れ込む魔力の心地さに、身体が火照り、ちょっとヤバい……

「はい。良いですよ。やはり、ヒト族の魔力は心地よいですね。しかも、貴女…ユーリ様には特別に…」

お互いが恍惚とした表情だと思う。
我慢だ…我慢…だけど…

彼女が慌てて手を離そうとするから、つい逃してはいけないと抱きしめた。






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