5 / 15
5. 甘すぎる殿下の無邪気? な攻撃
しおりを挟む「やぁ、クリスティーナ。今日は来てくれて嬉しいよ」
「……や、約束ですから」
「そっか、ありがとう。あ、お茶どうぞ」
「いただきます…………って!!」
ニコニコと上機嫌のアーネスト殿下と向かい合いながら薦められたお茶を飲んだのだけど、私は王宮のお茶の美味しさに密かに感動していた。
(さ、さすがだわ……茶葉が……茶葉が違う……これだけでも来た甲斐がある!)
「……? どうかした?」
「い、いえ! 何でもありませんわ!」
アーネスト殿下からの申し出を受けて、お試し期間と称した殿下の婚約者候補としての生活が始まったわけだけれど。
何をしたらいいのかと戸惑う私に、殿下は「まずはお互いの事を知らないといけないよね!」そう言って私を頻繁に王宮に呼び出すようになった。
ちなみに、呼び出しがかかる度にお父様は顔を真っ青にして「いいか! 何があっても眼鏡を手放すな! 何が何でも守り通せ!」と、請求書を送られる心配をしているのよ。
相変わらず失礼なお父様だこと。
命と眼鏡を天秤にかけて、まさか眼鏡を死守しろなんて言わないわよね……? と、私は毎回聞きたくてしょうがない。
そうしてお呼ばれしては王宮にお邪魔し、殿下との時間を過ごしているわけだけど……
ちょっと私は困っていた。
それは……殿下の呼び出す回数が尋常じゃ無い!
ほぼ毎日よ、毎日。どういう事よ、これ。
なのでまだ最初の頃、私は2、3回に一度は申し訳ないけれど仮病を使ってみたわ。
すると、“お見舞い”と称した品々がアーネスト殿下から大量に送られて来まして……
そして、とうとう屋敷がお花で埋め尽くされそうになり、使用人に「これ以上は飾るところがありません……」と、泣きつかれた事から仮病作戦はやめる事にしたわ。
あと、やめた理由はもう一つあるわ。
私が仮病を使っている事がバレていて、嫌がらせのようにわざと贈り付けているのなら、中々の腹黒なのだけど、アーネスト殿下は本気の本気で心配していたらしく……私の罪悪感が凄い事になってしまった……のよ。
なので、最近は抵抗せずに素直に従う事に決めたわ。
ちょっと王宮に通うのは面倒……いえ、大変だけれど。
そんなこんなで美味しいお茶を堪能していたら、ニコニコ顔の殿下がそう言えば……と切り出した。
「そうそう。クリスティーナ! 今日はね、王宮の料理人が君の為に新作のケーキを作……」
「し、し、新作ですか!?」
「う、うん……」
アーネスト殿下のその言葉に私は思いっ切り前のめりで食い付く。
さすがの殿下もちょっとびっくりした様子を見せた。
(しまった! はしたない所を見せてしまったわ!)
でもでも、だって、王宮の料理人の新作よ?
それも、私の為って言ったわよ!?
こんな幸せな事って無いでしょう??
分厚い眼鏡の奥で目をキラキラさせて興奮している私に、アーネスト殿下は甘い顔で微笑んだ。
「そんなに目をキラキラさせて喜んで貰えるなら料理人も喜ぶだろうね」
「っ!?」
驚いたわ。何故、私の目がキラキラしていると分かるの?
この分厚い眼鏡で私の目が見えているはずがないのに。
「でも良かった。実は今日のその新作のケーキ、僕も一緒に考えたんだ」
「え? アーネスト殿下、がですか?」
「そう。どんなケーキならクリスティーナがキラキラした顔で喜んでくれるかな? と思ったんだ」
「!!」
殿下はそう言って優しく微笑んだ。
ずるい! なんてずるいのこの方は。そんな微笑みでそんな事を言うなんて!
不覚にも胸がキュンとしてしまったじゃないの。
私は恥ずかしくなって下を向く。
(今、顔を上げたら真っ赤になってるのがバレてしまう……!)
そんな私を見ながら、アーネスト殿下はクスッと笑いながら言った。
「うん、こうしてキラキラした顔と照れて顔を真っ赤にしてるクリスティーナが見れて良かったな」
私が顔を赤くしている事まで見抜かれているの!?
焦った私の気持ちも伝わったのか、殿下は再び笑い出した。
「あははは、やっぱりクリスティーナは可愛いね」
「~~!」
新作ケーキの話に目を輝かせたり、殿下の言葉に翻弄されて顔を赤くしている私を見てアーネスト殿下は、笑いながらも甘く微笑んでそんな事を言った。
こ、この方、実は私を殺しにかかって来ているのでは? 本気でそう思ってしまった。
「あ、噂をすればケーキが運ばれて来たよー……」
「!!」
その言葉に私は俯いていた顔をパッと上げる。
「……って、あはは! 反応が早すぎるよ、クリスティーナ」
そんな私の反応の素早さに殿下は可笑しそうに笑った。
「だ、だって……楽しみだったんですもの……」
「はは、そんなに期待してくれて嬉しいなぁ」
殿下はとても楽しそうだった。
◇◇◇
「これは、乾燥させた果物を混ぜ込んでいるのですね?」
「そう。クリスティーナは果物も好きみたいだから、気に入るかなと思ってお願いしたんだ」
運ばれて来た新作のケーキを見ながら私が分析を始めると殿下が解説をしてくれた。
「……私が果物も好きだと何処で?」
「舞、踏会……の日のゲーム、だよ」
殿下があの日を思い出したのか所々、吹き出しながら言った。
相変わらずの笑い上戸ね。
「あの日のクリスティーナは料理を堪能した後もかなり長い時間、果物の前にいたからね」
あぁ、バッチリ見られていたのね。
「……料理も面白かったのですが、果物も当てるのが楽しかったんです……」
「だろうね、とても楽しそうだった。さて、このケーキの味はどうかな? はい、口開けて」
「……で、殿下!?」
何故かアーネスト殿下は、私の前に切り分けたケーキの一口分を差し出した。
こ、これは、いわゆる“あーん”っていうやつではないの?
主に恋人同士がイチャイチャする時に用いる……
「私、自分で食べられますっ!」
「うん、分かってるよ、それでも僕が食べさせたいんだ、ほら、あーん……」
「~~~!」
ここまでされたら、断れないじゃないの!
交流を深めるってここまでする必要があるの!?
こ、こ、恋人でも無いのに!
……だ、誰も見てないわよね??
私はキョロキョロと辺りを見回す。
とりあえず、視界に入るのは殿下の護衛と給仕してくれた使用人……だけ。
(彼らは見て見ぬふりをするはず!)
「は、はい……では」
私がおそるおそる口を開けると、殿下はちょっと驚いたのか目を少し見開いた後、嬉しそうにケーキを私の口の中に運んだ。
(は、恥ずかしい…………………けど!)
「美味しい! 美味しいです!! とっても幸せ……!」
……私はチョロかった。いえ、この美味しさには勝てないわよ。
「あはは、良かった。僕も嬉しい。もう一口どう?」
「っ! あ、後は自分で食べます!!」
私がプイっと顔を背けると殿下は「そう? 残念」と笑った。
「でも、良かった。その可愛い笑顔が見れて嬉しいよ」
「!」
本当に、本当に……殿下は何で私の表情が分かるの?
実は私が分かりやすいの!?
私、最近、気付いてしまった。
殿下とは私の心を読んでいるかのように接してくれるから会話が弾むのだと。
眼鏡をかけてからの私は表情が伝わりづらい事もあり、正直あまり人との会話が弾まないことが多い。ロビン様ともそうだった。だから彼は病んでいった……
家族はギリギリ理解してくれているけれど、それでも完全に理解するのは難しいと言われている。
──なのに殿下は一切そんな事を感じさせない。
この方にとっては眼鏡があっても無くても本当に関係ないみたい。
だから、楽しい……
(せっかく眼鏡があっても無くても気にしない人が現れたと思ったのに)
アーネスト殿下が“王子様”でなければ、私はこの展開をもっと素直に喜べたかもしれない。
そんな失礼な事を考えてしまう。
「クリスティーナ? どうかした?」
「い、いえ……」
アーネスト殿下がこんな風にすごく優しい瞳で私を見るから……
だから、いつもよりお腹がいっぱいで幸せな気持ちになったのは、ケーキが新作だからってだけではない気がして戸惑ってしまった。
120
あなたにおすすめの小説
「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します
スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」
眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。
隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。
エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。
しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。
彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。
「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」
裏切りへのカウントダウンが今、始まる。
スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!
「『お前に書く手紙などない』と言った婚約者へ、私は7年間手紙を書き続けた——ただし、届け先は別の人でした」
歩人
ファンタジー
辺境伯令嬢リゼットは、婚約者に7年間手紙を書き続けた。返事は一度もなかった。
「お前に書く手紙などない。顔も覚えていない」——婚約破棄。しかしリゼットは
泣かなかった。手紙の本当の届け先は、最初から別にあったから。前世の情報分析
能力で辺境の異変を読み解き、暗号として織り込んだ7年分の手紙。それを受け取り
続けていたのは第一王子。リゼットは誰にも知られず、王国を守っていた。
婚約破棄の翌朝、王子からの手紙が届く。「7年間、ありがとう。迎えに行く」
側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!
花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」
婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。
追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。
しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。
夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。
けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。
「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」
フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。
しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!?
「離縁する気か? 許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」
凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。
孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!
※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。
【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】
【完結】元悪役令嬢は、最推しの旦那様と離縁したい
うり北 うりこ@ざまされ2巻発売中
恋愛
「アルフレッド様、離縁してください!!」
この言葉を婚約者の時から、優に100回は超えて伝えてきた。
けれど、今日も受け入れてもらえることはない。
私の夫であるアルフレッド様は、前世から大好きな私の最推しだ。 推しの幸せが私の幸せ。
本当なら私が幸せにしたかった。
けれど、残念ながら悪役令嬢だった私では、アルフレッド様を幸せにできない。
既に乙女ゲームのエンディングを迎えてしまったけれど、現実はその先も続いていて、ヒロインちゃんがまだ結婚をしていない今なら、十二分に割り込むチャンスがあるはずだ。
アルフレッド様がその気にさえなれば、逆転以外あり得ない。
その時のためにも、私と離縁する必要がある。
アルフレッド様の幸せのために、絶対に離縁してみせるんだから!!
推しである夫が大好きすぎる元悪役令嬢のカタリナと、妻を愛しているのにまったく伝わっていないアルフレッドのラブコメです。
全4話+番外編が1話となっております。
※苦手な方は、ブラウザバックを推奨しております。
転生したら没落寸前だったので、お弁当屋さんになろうと思います。
皐月めい
恋愛
「婚約を破棄してほしい」
そう言われた瞬間、前世の記憶を思い出した私。
前世社畜だった私は伯爵令嬢に生まれ変わったラッキーガール……と思いきや。
父が亡くなり、母は倒れて、我が伯爵家にはとんでもない借金が残され、一年後には爵位も取り消し、七年婚約していた婚約者から婚約まで破棄された。最悪だよ。
使用人は解雇し、平民になる準備を始めようとしたのだけれど。
え、塊肉を切るところから料理が始まるとか正気ですか……?
その上デリバリーとテイクアウトがない世界で生きていける自信がないんだけど……この国のズボラはどうしてるの……?
あ、お弁当屋さんを作ればいいんだ!
能天気な転生令嬢が、自分の騎士とお弁当屋さんを立ち上げて幸せになるまでの話です。
妹の身代わりだった私に「本命は君だ」――王宮前で王子に抱き潰され、溺愛がバレました。~私が虐げられるきっかけになった少年が、私と王子を結び付
唯崎りいち
恋愛
妹の身代わりとして王子とデートすることになった私。でも王子の本命は最初から私で――。長年虐げられ、地味でみすぼらしい私が、王子の愛と溺愛に包まれ、ついに幸せを掴む甘々ラブファンタジー。妹や家族との誤解、影武者の存在も絡み、ハラハラと胸キュンが止まらない物語。
前世の私は重い女だったので、今世は恋なんてしません。
ありま氷炎
恋愛
前世は余りにも夫が大好きで、愛が重すぎた。
だから捨てられた。
なので生まれ変わった今は、恋なんてするつもりはなかったのだけど……。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる