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12. 双子の企み

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《な、なに?》

 突然、この場に下着姿で現れてゴロンと床に転がされたアリーリャ王女は我に返って辺りを見回すとさらに叫び声をあげました。

《い、いやぁぁぁあーー!  何よこれぇぇぇ!  ここはどこなの!?》

 どうやら、殿下を怒らせてしまい魔術で部屋の壁に磔にされていたアリーリャ王女をお兄様が回収。
 そして、この場に転移させた……ということだと思われるのですが……
 私はチラリとお兄様に視線を向けます。
 お兄様は困惑する王女を見ながら満足そうに頷いています。

(お兄様……えげつないですわ)

 何より注目すべきは、その魔力量ですわ!
 自分もこの場に転移したはずなのに、さらにもう一人(王女)も転移させるとか……
 さすがお兄様ですわ!
 なんて、私がお兄様に興奮していたら───

《ア、アリーリャ!!》
《アンディーーーー……》

 ぐちゃぐちゃの顔で泣き叫ぶアリーリャ王女にアンディ王子が慌てて駆け寄りました。
 そして王女を助け起こす、のかと思えば……

《アリーリャ!  お、お前……ほ、本当に失敗したのか!?》

 アンディ王子は助けるよりも、誘惑を失敗したことの方を責め立てているようです。
 さすがあれだけの嘘つきなだけあります。血も涙もない王子ですわ……

《……し、失敗したわ。この格好で迫ったのに……全く見向きもされなかったわ……》

 アリーリャ王女は泣きながら説明します。

《イライアス殿下は、わ、わたくしの姿を見るなり、鋭く睨みつけてこれ以上近付くなって……言ったのよ》
《それで?  アリーリャはどうしたんだ?》
《だって!  近付かなくちゃ誘惑なんて出来ないじゃない!  だから……無視して近付いたわ。そうしたら、突然……壁にビタンッて》
《ビタン……》

 アリーリャ王女の話を聞いたアンディ王子が頭を抱えます。

《嘘だろう?  国一番のお前のその美貌が通じなかったのか?》
《そうよ……わ、私も……こんなことは初めてなのよーーーー!》

 ちなみに、二人は大きく動揺しているので言葉は完全にフィルムレド語になっています。

(それにしても……)

 アリーリャ王女のその格好……
 まさかとは思いましたが、本当にあられもない、し、し、下着姿ですわ!
 そんな格好でイライアス殿下の部屋に忍び込んで彼に迫ったというの!?
 殿下は、王女に指一本触れていないと言ってくれていましたが、その姿を想像するだけで私の心がムカムカしてきます。

 そうしてムカムカしていたら、アリーリャ王女がまた叫びました。

《はっっ!  ──アンディ!  上着を貸して!》
《え?  上着?》
《通りすがりの人にまで、ジロジロみ、見られているのよぉぉーーはやく!》
《あ、ああ、す、すまない……》

 自分の姿がジロジロ見られていることにようやく気付いたアリーリャ王女は、アンディ王子の上着を勢いよく剥ぎ取りました。
 そして、泣き出します。

《こんなの酷い……最悪よ!!  なんでこの姿をこんな所で晒さないといけないのよ!》
《お、落ち着け、アリーリャ!》
《わたくし、妃になるどころか、ただの笑い者じゃないのーー》

 そう。
 ここは王宮内の廊下なのです。
 ただでさえ、私たちは大声で揉めていたので実は既にかなりの注目を集めていました。
 そんな中、下着姿で突然転がって来たアリーリャ王女は、ととてもとても目立っています。おそらく隣国にもこの醜聞はすぐに広まるでしょう。

《ア、アリーリャ、磔の刑って聞こえたんだけど本当にそんな目にあっていたのか?》
《そうよ!  この格好で壁に磔られたのよ?  たくさん笑われたわ……本当に最悪!  私が何をしたって言うのよ……!》

 興奮した王女が再び泣きながらそう叫んだ時、イライアス殿下が二人の元に近付いて行きました。

「自分が何をしたか分からない、だと?  僕の婚約者の座を狙うのに邪魔だからと言ってリリーを排除しようとアレコレ企んだだろう?」
《ひっ!  イ……イライアス、殿下……》

 イライアス殿下に話しかけられたアリーリャ王女がわかりやすく顔が引き攣りました。
 これは磔の刑がかなりトラウマになっているのかもしれません。

《イライアス殿下!  ひ、人聞きの悪いことを言わないでくれ!》

 顔を引き攣らせたまま答えられないアリーリャ王女の代わりにアンディ王子が殿下に歯向かうようです。

「人聞きの悪い……?  つまりそんな、画策した覚えは無い、と?」
《知らない!  二人の不仲説に私たちは無関係だ!》 
「へぇ……」

 アンディ王子のその言葉を受けてイライアス殿下の纏う空気が下がったように感じます。

「……カリーナ・ドゥーム。我が国の侯爵家の令嬢なのだけど君たちは彼女のことを知っているね?」


(───え?)

 殿下の口から出たその名前に私は驚きました。
 だって、その名前は……最初に私に“殿下には最近お気に入りの女性がいる”そう言っていた───……

「僕たちの不仲説についてを辿っていくと、どうもこの彼女が言い出したのが始まりのようでね?」
《……》

 アンディ王子がそっとイライアス殿下から目を逸らします。

「しかも、この令嬢……お茶会でリリーに口撃したなんていう許せない話があったからね。これは潰しておかないといけないかな、と思ってもっと詳しく調べたら……」

(……気のせい?  イライアス殿下の口からとても物騒な言葉が飛び出しているような……)

「カリーナ・ドゥーム侯爵令嬢はフィルムレド国に留学していた時期があったそうでね。特に留学中は王女殿下と親しかったとか……」

 これにはアリーリャ王女も口を開きます。
 しかし、殿下の話を強く否定しました。

《カ、カリーナ?  ど、どなたのことです?  し、知らない人だわ……!》
《わ、我が国に留学していた令嬢がいたからなんだっていうんだ!》

 二人の顔は動揺しているのが明らかでしたので、嘘をついているのは誰が見てもバレバレです。
 そんな二人を殿下はさらに追い詰めていきます。

「カリーナ・ドゥームを利用してどんどん悪い噂を流しリリーを追い詰め、僕らをの仲もギクシャクさせ、そこに追い打ちをかけるように僕と王女が親しくなりその様子をリリーに見せつける……」

《だ、だから、そんなことしていないわ!》
《そうだ! こんなの言いがかりだ!》

 二人は反論しますがイライアス殿下は無視して話を続けます。

「一方、リリーの父親であるクゥオーク公爵にも接触。公爵が我が国では重宝されずに冷遇されているのを知ってうまい話をもちかけ、強引に僕たちを婚約破棄させようと目論んだ……僕とギクシャクしているリリーも抵抗しないだろう……そんな所かな?」

 そこまで言って殿下はお父様に視線を向けました。

「───クゥオーク公爵、あなたも愚かですね?」
「な、なんだと!?」
「あなたはこの二人の話に乗れば、フィルムレド国で新たな地位が貰える……と本気で思っていたのですか?  嘘……だとは思わなかったのですか?」
「な、に?  う、嘘……だと?」

 殿下のその質問にお父様の顔が凍りついたのが分かりました。

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