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12. 特に羨ましいとも思えませんが

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「あら、おはようございます、ミュゼット様」
「おはようございます……」

  あぁ、なんて憂鬱な朝の始まりでしょう。
  教室の前で鉢合わせしてしまいましたわ!

  あれから、アマンダ様はわたくしの事が大変気に入らないご様子なのに、何故かあれやこれやと話しかけて来るようになりました。
  しかもその内容が───……

「聞いて下さい、ラフ様なんですけどー」
「えー、知らないんですか?  実はラフ様ってー」
「昔、私とラフ様はー」

  毎日、毎日、飽きもせずラフ様、ラフ様、ラフ様と煩いですわ……!!

  (ピンク頭も腹が立ちましたが、こっちも中々ですわよ!)

  幼いラファエル様の話から始まり留学前までの話までそれは多岐に渡ります。
  あまりにも毎日延々と聞かされるので、とうとうわたくしも黙っていられなくなりました。

「……毎日、毎日くどいですわよ、いったい何が目的なんですの?」

  わたくしの言葉にアマンダ様はにっこりと笑います。

「如何に私とラフ様がお似合いかをぜひ、知ってもらいたいと思いまして」
「……ですから、何故それをわたくしに?  と聞いております」

  ぶぉん、ぶぉん……
 
  わたくしの気持ちが荒ぶっているせいか、今日の縦ロールも荒れています。

「相変わらず怖いわ…………さすが、悪……」
「……?  何か仰いまして?」
 
  アマンダ様が何か小さく呟いたので聞き返してみました。

「いえ……あ、そうだわ!  ミュゼット様は“悪役令嬢”ってご存知です?」
「……悪役……令嬢?」  

  何ですの?  そのいかにも……な呼び方なご令嬢は。
  わたくしはじろりとアマンダ様を、睨みつけますが彼女はただ、にっこりと笑っております。
  それがまた何とも不気味ですのよ……
 
「お分かりだと思いますけど、“悪役”なんですよ~。しかもですね、だいたいそう呼ばれる令嬢というのはミュゼット様のように身分の高い方なんですよ!」
「……!」

  後から知りましたが、アマンダ様は隣国の伯爵令嬢だそうです。
  アマンダ様のご両親が王宮勤め、それもラファエル様に近いお立場のようで、その縁でお二人は昔からの仲であり──……

「まぁ、大抵は婚約破棄されてしまったりして、ろくな目にあわないんですけどね!」

  凄くいい笑顔ですわ……
  こうして、何かの物語に準えたような話をするアマンダ様の口はなかなか止まりません。

「……わたくしには婚約者はおりません」

  まだ、ですけども。
  一応、あの問題ばかりの縁談の話は何とか保留にしてもらっておりますので。

「知ってますよ~聞いちゃいました!  王太子妃になる夢を捨て切れなかったそうですね~ふふ」
「……」
「無謀な夢を見てしまう辺りはやっぱり悪やー……」
「余計なお世話ですわ!」

  ぶぉん!   
  勢いよく振り返ったせいでわたくしの縦ロールがアマンダ様に向かってしまいます。

「きゃっ!」

  すんでのところで、アマンダ様は避けられました。

「もう!  本当にそれ凶器!  怖いですー。お願いですからラフ様を傷付けたりしないで下さいね~。国際問題になってしまいますよ??」
「……」

  既に鼻血を出されてますけど?
  ラファエル様はあの件でわたくしを責める事は結局されませんでした。

「それに比べて見て下さいな?  私の髪!  このフッワフワ!  ゆるふわですよ~!  羨ましいでしょう?」

  そう言いながら、アマンダ様はご自分のフワフワしたストロベリーブロンドの髪を揺らして見せつけてきます。

「いえ、全く」
「は?」

  わたくしが否定の言葉を告げると、アマンダ様は目を丸くして驚いております。
  何故、わたくしがそんな、なよなよした髪を羨ましいと思う必要があるのでしょう?

「何でですか?  羨ましくないんですか?」
「はい」
「ゆるふわですよ?  ゆ・る・ふ・わ!  可愛いの定番ですよ?」

  アマンダ様は何故か必死に“ゆるふわ”をアピールして来ます。
  ですが、わたくしはこの縦ロールに誇りを持っておりますので!

「全く羨ましいと思えませんが?」
「~~!」

  アマンダ様はとても悔しそうなお顔をされますが、実はわたくしだって一つ気になっている事があります。

  (マンディー……)

  あの時のラファエル様が呟いたのが、このアマンダ様の髪の毛の事だったとするのなら、ラファエル様はきっと、この“ゆるふわ”を好んでいらっしゃる……
  その事だけはわたくしの心の中に引っかかっております。

「あぁ、もう!  本物の悪役令嬢が見れて興奮していたけれどもういいわ!  どうせ、悪役令嬢あなたはただの一時のでしょうし!」
「?」

  (浮気相手?  わたくしが?  どなたの??)

  言われた事の意味が分からず首を傾げるわたくしの元にアマンダ様は睨み付けながら近付いて来ると、そっと耳元で言いました。

「ふふふ、ラフ様と結婚するのは私だと決まってるんだから、ね!」
  
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