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14. 生まれる誤解

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「ほら、君も席に着きなさい」

  なかなか席に着こうとしないアマンダ様を不審に思った先生が声を掛けていますが、彼女は一向に動こうとしません。

「今のは何……?  何なの?  意味不明よ……」

  アマンダ様ったら、何やらブツブツと呟いていますわ。
  しばらくすると顔を上げ、クラス全体を見渡しながら叫びました。

「二人が私の前で自然にイチャイチャし始めて……それなのに、クラスの人達も誰も気にしてないって何でなの?  先生も!  普通はもっと驚くでしょう!?」

  ……イチャイチャ?   
  アマンダ様は何を言っているのでしょう?
  イチャイチャと言うのは、王太子殿下やリスティ様の様な婚約者同士がしているあの誰もが見ていて恥ずかしい行動の事ですわよね……?
  なぜ、わたくしとラファエル様の行動がイチャイチャになるんですの?
  わたくしは内心で首を傾げました。

  そんなアマンダ様に向かって先生が答えます。

「驚くも何も、もう見慣れた光景ですからね。あぁ、今日もですか、今日はどうなりますかね?  という気持ちの方が強いですね」

  先生の言葉にクラスの人達も大きく頷く。

  (んん?  先生は何を仰っているのかしら?)

「え!?  見慣れた、ですか?」

  アマンダ様が、唖然とした顔で聞き返しております。   
  
「そうです。ラファエル殿下の執着っぷりはここ最近校内でもすっかり有名なんですよ」
「は?」
「むしろ、毎日彼がどう口説き彼女がどんな顔して照れて、どんな風に縦ロールが反応するのかを密かに楽しみにしてる人も多いのでは?」

  (…………はい?)

  いえ、先生?  本当に何を仰ってますの??
  先程から意味が分かりません。

「はぁ~??  ちょっと先生まで何をバカな事を言っているんですか!?」
「授業中にされるなら迷惑ですが、授業開始前や休み時間にどう過ごすかは自由ですからね、ははは」
「ははは、じゃなくてぇーー!」

  アマンダ様は必死に叫びますが、先生に軽く流されてしまっています。

「そもそも!  何でこんなにおかしな事になっているの!?」

  そして、怒りの収まらないアマンダ様はそれでも叫ぶのをやめません。

「だいたい、正規のヒロインピンク頭はどこに行ったのよ!?  ルフェルウス殿下が婚約したと聞いてみれば、お相手は何故か悪役令嬢その1リスティ様だし……どうして?」

  ──ピンク頭ですって!?
  わたくしの脳裏にあの無性に目障りだった女の顔が浮かびます。
  現在、どこでどうしてるかは知りませんが……
  しかし……なぜ、アマンダ様が彼女の事をご存知なの!?

「かと思えば、私のラフ様は悪役令嬢その2ミュゼット様とイチャイチャしてるし! これは本当にどういう事なのよ……どこで狂ったのよ」

  アマンダ様が、キッとわたくしを睨みます。
  そんな目で睨まれましても、わたくしにはアマンダ様が何を言っているのかよく分からないので困りますわ。
  本当にこの感じは、ピンク頭のあの女を思い出しますわね。
  あの女もよく分からない根拠で王太子妃の座を狙っていた気がしますもの。

 (あぁ、今が休み時間であれば、何をバカなことを……くらいは言って差し上げるのに……残念ですわ)

「あー、もういいかな?  君の独り言は長いね」
「っ!  だから先生!  そんな事よりおかしな事が……」
「はいはい、それは授業が終わった後にでもゆっくり考察してください。さぁ、席に着いて」
「~~っっ……!」

  アマンダ様は渋々どうにか席には着いていましたが、その後もずっとわたくしを睨みながら何かをブツブツ呟いていて正直怖かったですわ。

  (ですが、きっとこれで引き下がるような方ではありませんわ……)

  かつてのピンク頭のしつこさを思い出したわたくしは心からそう思いました。



*****



  その日の放課後の事でした。

  帰宅しようと思ったら忘れ物に気付きまして、教室に戻る事にしました。
  そして、教室に着きまして扉に手をかけた時です。


「───ですか?」
「だと言っている」

  どうやら、まだ誰かが教室に残っておられるようですわ。
  わたくし、教室に入っても大丈夫かしら?
  そう思いそっと隙間から中を覗きまして、そこにいた方を見てわたくしの胸がドキッとしました。

  ──ラファエル様!

  教室にいたのはラファエル様と、もう一人……あの日、わたくしの髪を凶器と言った方……
  二人で何かを会話しているようです。

「本当にミュゼット様を?」
「あぁ、そう決めた」

  (──わたくし?)

  何故かわたくしの名前が聞こえて来て、またドキッとします。
  “決めた”とは?  そう言えば前にもそんな事を言っていた気も致しますけど。

「大丈夫なのでしょうか?」
「他の事はいい。なんとかなる。だが、マンディーがな。それだけが心配だ」
「あぁ……そうですね……」

  (……! マンディー!  アマンダ様の事ですわね!?)

「マンディーはミュゼットを受け入れてくれるだろうか?」
「いえ、難しいでしょう。あの様子では」
「お前もそう思うか……」
「残念ながら」

  いったい、なんの会話をしているんですの?  “マンディー”が“わたくし”を受け入れるのが難しい……とは?


  ────ふふふ、ラフ様と結婚するのは私だと決まってるんだから、ね!

  
  アマンダ様のあの言い方は、おそらくご自分がラファエル様の婚約者であるという事……

  ……モヤッ

  何故かまた、わたくしの胸がモヤモヤしますがこれはきっと気の所為ですわ。
  そして、今の二人の会話にありましたマンディー……アマンダ様がわたくしを受け入れる……
  この言葉の意味は──
  わたくしはそこでハッと気付きました。


「…………まさか!  ラファエル様はわたくしを……!」



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