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33. 珍妙な光景
しおりを挟む───この縦ロールの様子は“危険”の訴えですわ!
そう思いまして、キョロキョロと辺りを見回しますが、ここは王宮の庭でして。
警備体制もしっかりしておりますし、護衛もいらっしゃいます。
危険が潜んでいるとは思えません。
と、なりますと……
「ぐるぅぅ……」
(あぁ、マンディー様のこの様子を警告しているのですわ……)
明らかにマンディー様は、わたくしを気に入らないと言った様子を見せております。
今にも噛みつかれそうですわ。
大好きな大好きなラファエル様が女連れで戻って来たんですもの。
そう簡単には受け入れられないでしょう……
「あの! マンディー様、わたくし……」
「わぅ! わぅわぅ! ゔーー」
「!」
ダメですわ。わたくしと話す事など何も無い! そう仰っている気がします。
「マンディー……」
「わぅ!」
マンディー様はラファエル様に呼ばれますと、わふわふ言いながら抱き着きました。
ラファエル様はそんなマンディー様を抱き留めると、手触りの良さそうくるくるの毛を弄りながら仰います。
「マンディー。ミュゼットは本当に可愛いくて可愛いくて面白……良い子なんだ。俺の大好きな人だから、今は無理でもマンディーもミュゼットを少しずつ好きになってもらえたら嬉しいよ」
「ぐるぅぅ……」
マンディー様……大変、不満そうですわ。
「マンディー、お前にもいつか分かる。ミュゼットのこのとんでもない可愛さが。知った時にはお前もきっとミュゼットに夢中になるよ」
「わぅ!?」
ぶぉ!?
ラファエル様の発言に驚いたマンディー様が凄い勢いでわたくしの方を見ます。
「ぐるぅぅ……」
(ご主人おかしい! こんな事言う人じゃなかった……お前何した!? と言われている気がしますわ)
そんな目で見られてもなんとお答えすれば良いのか……
あぁ、なんて手強いライバルなんですの!
ですが、わたくしは挫けませんし負けません!
マンディー様とは仲良くなりたいですし、何より認めてもらいたいですから!
「マンディー様!」
「わぅ?」
「今日はこれで失礼しますわ! 本日は突然おしかけて申し訳ございませんでしたわ」
「わぅ……」
「ですが、わたくし! マンディー様と仲良くなると決めてますのよ! 最終目標はそのモフモフのくるくるの毛並みを撫で撫でする事ですの!」
「わ、わぅ……?」
「ですから、帰国までの間、撫で撫でが出来るまで、毎日マンディー様に会いに来ますのでお覚悟なさいませ!」
ぶぉぉぉん!
(ほら、縦ロールも決意表明してましてよ!)
「わ、わぅ!?」
あら? マンディー様、縦ロールを見て少し怯んだかしら?
さすが、縦ロールてすわね!
そんなやる気に満ち溢れているわたくしの横で、ラファエル様はマンディー様にそっと小声で話しかけます。
「はは、ほらな? 俺のミュゼットって凄いだろ? めちゃくちゃ真っ直ぐで絶対にめげないんだよ。マンディー、お前がそんなミュゼットの虜になる日が楽しみだ」
「わぅ!?」
「だが、ミュゼットにメロメロになるのは構わないが、その時は俺の事も忘れないでくれ」
「わぅぅ……?」
こうして、わたくしとマンディー様の初対面は終わりました。
「マンディー様はライバルですの!」
「え?」
部屋に戻ったわたくしはラファエル様にそう告げます。
「人間とか犬とか関係ありませんのよ! わたくし達はもうラファエル様を巡る恋のライバルなんですの!」
「ミュゼ?」
「そして触らなくても分かる、さすがの毛並みでしたわ……! なよなよした髪のアマンダ様とは大違いでしたわ。さすが、わたくしのライバルです!」
「……そ、そうか」
「ですけど、ライバルかもしれませんが、ラファエル様の大切なマンディー様ですもの。わたくし、絶対に仲良くなってみせますわ!」
「……!」
ラファエル様が苦笑しておりますわ。なぜ?
「わたくし何かおかしな事を言いました?」
「……いや。惚れ直してる所だ」
…………ぶぉん!?
「俺の大事なものを同じ様に大事にしてくれようとするミュゼが可愛すぎてどうしてくれようか」
「ラ、ラファエル……様?」
じりじりとラファエル様が迫って来ますわ。
ぶぉ、ぶぉ……
「あぁ、王宮はいいな」
「!?」
「俺がどれだけミュゼに迫っても邪魔が入らない……たくさん愛で放題だ」
「え……」
ぶぉん、ぶぉん、ぶぉん!!
「はは、そうか。ミュゼもたくさん俺に愛でて欲しいそう思ってくれてるのか!」
ぶぉーん!
「それは嬉しいな! 是非ともその期待には応えないとな!」
ぶぉん!
(!?!? ちょっと待ってぇぇぇ!? どうしてまたこうなるんですのぉぉー?)
縦ロールがノリノリでお返事したので、そのままわたくしは笑顔で迫って来るラファエル様に押し倒されましたわ。
*****
「そういうわけでして、ラファエル様は一度火がつくとなかなか止まってくれませんの」
ぶぉ、ぶぉん!
「わぅ!」
「ラファエル様は、その……昔からあんなに情熱的な方なんですの?」
ぶぉぉぉーん?
「わぅ、わぅ!」
「まぁ! マンディー様に対してはやはりそうなのですね?」
ぶぉ!
「わん!」
翌日の事です。
わたくしは宣言通り、マンディー様の元へと向かいました。
そこで何をするかですって?
仲良くなる為にはやっぱりお話ですわ! そしてわたくしとマンディー様に共通するものはラファエル様だけです。ですから必然的に話題はラファエル様の事となりますのよ。
マンディー様は最初こそ「がるるぅぅ……」と、威嚇してまいりましたが、ラファエル様のお話となるとどうも聞きたいようでして、渋々お付き合いしてくれてますわ!
こうして、ラファエル様が連れて来た婚約者であるわたくしと、ラファエル様の最愛のマンディー様が縦ロールを交えて会話する、という珍妙な光景が王宮の人達の目に止まるようになりました。
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