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35. 素直じゃない

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「ミュゼ、そんな顔をしてどうした?」
「ラファエル様……」

  ふぉん……

「縦ロールまで萎れてるじゃないか!  どうしたんだ?」
「……帰国」
「ん?  帰国がどうかしたか?」

  わたくし達は明日、帰国する事が決まっています。
  しかし、残念ながらわたくしは目標としていたマンディー様、撫で撫でが実現出来ていません。

「マンディー様の撫で撫でが達成出来ていないのです……」
「あぁ……それか」
「わたくし、ラファエル様の未来のお妃としてマンディー様に認められなかったという事でしょうか?」
「は?」

  実は……ベニテンツ国に滞在して過ごしていたら、そんな話がわたくしの耳に入って来ましたの。 



────……



「えー、本当に強そうな縦ロールだったの?」
「そうよ、遠目でだけど見た感じは攻撃力が高そうだったわ」
「その方が本当にラファエル殿下の婚約者……?」

  (ん?  これってわたくしの話かしら?)

「らしいのよ、それで最近はマンディー様を懐柔しているって噂」
「マンディー様を?  やっぱりラファエル殿下を手に入れるためには外せない試練なのね」
「そうよ、数多の婚約者候補の令嬢達が散っていったラファエル殿下の門番よ!  マンディー様を攻略しないとラファエル殿下の妃にはないのよ!」 

  (マンディー様を攻略しないとラファエル様の妃にはなれない?)

  わたくしは、たまたま王宮内を歩いている時に、出入りしていた令嬢達の会話を偶然聞いてしまいました。

「正式な婚約者として認められるにはマンディー様の同意が必要って話だものねー」
「だから、ラファエル殿下はこれまで婚約者がいなかったのに。あの縦ロール令嬢はどうやって取り入ったのかしら……?」
「まぁ、マンディー様が認めなきゃ破局でしょう」
「それもそうね!」

  (は、破局ですってぇぇぇ!?)



─────……


  そんなとんでもない話を立ち聞きしてしまった為、わたくしは少し落ち込んでしまったのです。

「マンディーが認めなきゃ破局だって!?」

  わたくしが立ち聞きしてしまった話を伝えるとラファエル様は大変驚いていらっしゃいました。

「さすがにそんな事はないぞ?  それに……」
「それに?」
  
  ラファエル様の両手がわたくしの頬に触れ顔を上げさせられます。
  そして、ラファエル様は私の目をしっかり見つめて言いました。

「俺がミュゼットを手放すなんて事があるわけないだろ?」
「ラファ……」

  そう言って軽い口付けを落とすラファエル様。

  ぶぉおぉん!

「実を言うと、昔、寄ってくる令嬢達から逃げる為にマンディーに気にいられない令嬢とは無理!  とか言ったことがある……」
「まぁ!」
「だが今もその話が続いているとは思わなかった」

  その話を真に受けて、数多の令嬢達がマンディー様に挑んでは散っていたと……

  (マンディー様、凄いですわ!  どれだけ蹴散らして来たのかしら??)

  どうりで手強いわけよ……!
  と、わたくしの闘志に再び火がつきました!

  ぶぉぉーーん!





「マンディー様!  わたくし帰国が迫ってますの!  ですから一度だけ、一度だけでいいですわ!  そのモフっとしたくるくるの毛並みを撫で撫でさせて下さいませ!」

  ぶぉ、ぶぉ、ぶぉーん!

「わぅ!?」

  いつも以上に縦ロールを振り乱して迫るわたくしにマンディー様が、少したじろいでおります。

「マンディー様、わたくしね、ひとりぼっちだったんですのよ」
「わぅん?」
「もともと、わたくし昔から威張り散らして傲慢でしたから自業自得なのですけど、ちょっと見た目も派手で許せない女がおりまして、わたくし無謀にも色々つっかかっておりましたら、孤立は深まってしまったんですの」
「わぅ?」
「でも、ラファエル様だけでしたのよ……」

  ──ぶぉ……ん

  あの後もわたくしに話し掛けてくれたのは。
  実はリスティ様もチラチラ視線を投げかけて来ているんですけど、あの方とわたくしの距離が近付くと色々言われてしまいますからね。だから、互いに寄れずにいるんですけども。

「そんなラファエル様の事が好き……なのです。ラファエルはわたくしにとって特別……なのですわ」
「わふ……」

  ぶぉん!

「ですから、わたくしはこれからもずっとラファエル様を大事にしますわ!」
「わぉん!」

  マンディー様は当然だ!  と仰っています。
  ですが、わたくしに触れる許可を出してはくれません。

「ふぅ。マンディー様……今回は諦めますわ。ですが、次にお会いする時は是非、その素晴らしい毛並みを堪能させてくださいませね?」
「……ぐるぅぅ」

  マンディー様が、険しいお顔をしております。
  ついでにお前のような女の身の上話など知った事か!
  ……と、言っていますわね。
  やはり手強いですわ、マンディー様!

「……ふふ、マンディー様。それではまたお会いしましょう!  今は引き分けですわ。ですが次は負けませんのよ!」
「……わふ!」
「……」

  わたくしはそれが返事だと思い、すっと立ち上がりマンディー様に背を向けて歩きだそうとしました。

  (勝負は持ち越しでしてよ!)

  ところがです!

「わふぅ!  わんわん!  わぉん!」

  いつもよりマンディー様が熱烈に吠えているので、何事かしらと振り返りましたら……

「え!?」
「わぉぉぉーん!」

  なんとマンディー様がわたくし目掛けて突進してまいりました!!

  ぶぉ!?  ぶぉーーん!?

  縦ロールもビックリですわ!

「きゃぁ!?」
「わぅぅぅー」

  ドサッ!
  そのまま抱き着かれて倒されましたわ!!

  (な、何事ですの!?)

  わたくし、驚き過ぎて起き上がれません!

「わふぅ」
「マンディー様?」

  はっ!  ま、まさかこれは……
  そう思って顔を上げてマンディー様のお顔を見ましたところ……     

「ぐるぅぅ……」

  (まぁぁ!  一回だけなら許してやろう!  ですって!?)

「マ、マンディー様……」

  わたくしは恐る恐る手を伸ばします。マンディー様、抵抗しません!
  そして、そしてついに……!

  ──あぁ、思った通りのモフモフのくるくるですわ!!
  抜群の触り心地ですのよ!

  ぶぉぉぉーーーーん!!
  縦ロールも歓喜しておりますわ!!


  ──そして、なんというタイミングでしょう!

「ミュゼット、そろそろ明日の出発の準備を…………えっ!?」

  と、ラファエル様がお迎えに来ましたの!
  ラファエル様はこの光景を見て固まりました。

「ミュゼットが、マンディーを撫でてる!?」
「先程、一回だけお許しが出たんですの」
「一回だけ?」

  驚いたラファエル様が、マンディー様を見ると「わん!」とマンディー様がお返事をします。

「全く、マンディー……お前……素直じゃないなぁ」
「わふぅ?」

  ラファエル様は苦笑しながら、わたくしと一緒にマンディー様を撫で撫でしました。





「マンディー様、次にお会いする時は全身を撫で撫でさせて下さいね!」
「わぅ!?」
「全身ですよ、全身!」

  ぶぉん!

「わぅぅぅーん!?」
「約束ですわよ~~!」


  ラファエル様曰く、素直ではないらしいマンディー様と(一方的な)約束を取り付けてわたくしは帰国の途についたのでした。


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