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37. それから

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「ミュゼット、確かにラファエル殿下とイチャイチャして見せつけて来いとは言った」
「え?  えぇ。そうですわね、お兄様」

  夜会の後の事ですわ。
  お兄様がとても渋い顔をしてわたくしを呼び出しましたの。

「……そうか」

  そんな事より、わたくしの縁談の話は綺麗さっぱり消えてくれたのかしら?
  その為に、わたくしは夜会で人目も気にせず迫ってくるラファエル様と恥ずかしい気持ちを必死に抑えてイチャイチャしましたのよ!
  
「聞いた所によると、お前達はベタベタとくっついては片時も離れず、常に甘い言葉を囁き合い、更にラファエル殿下は油断するとすぐお前に口付けをしていたとか……」
「まぁ!  お兄様ったらそんな事をどこで聞いたのです!?  恥ずかしいですわ!」

  ぶぉんぶぉん!
  ほら!  縦ロールも恥じらっておりますわよ!

  そんなわたくしに向かってお兄様が渋い顔をして仰います。

「お前たちの醸し出す雰囲気と行動が甘すぎてとにかく苦ーーいブラックコーヒーを口の中が求めてしまって大変だったって苦情が殺到してるんだが?」
「は?  ブラックコーヒーを?  なぜ、夜会で欲するのです?」

  コーヒーってカフェで飲む飲み物ではなくて??

  ぶぉん?
  ほら、お兄様ったら!  縦ロールも疑問に思ってますわよ?

「全部、お前達のイチャイチャのせいだろーー!」
「?」

  よく分かりませんが、お兄様の元には何やらそういったお手紙が届いている様子ですわね。

「まぁ、おかげさまでミュゼットとの縁談を……としつこかった奴らからは速攻で断りの手紙も来たさ……だが!  それ以上にコーヒーに関する苦情の手紙が多いんだよ……それと、お前の縦ロールについてもだ!」
「縦ロールですの?」
「あぁ、聞くところによると随分とその縦ロールが荒ぶっていたそうじゃないか!  あれは何だ?  危険だ!  という手紙も来ている」
「荒ぶる……はっ!」

  その言葉にわたくしの頬が赤く染まります。

「だってラファエル様ったら、すぐ可愛いとか今すぐ二人りっきりになってわたくしを愛でまくりたいというような事を息を吐くように仰るんですもの!  く、口付けも止まりませんでしたし……」

  あぁぁ、思い出すだけで恥ずかしいですわ!!

  ぶぉんぶぉん!
  わたくしが真っ赤な顔でそう説明すると、お兄様はため息を吐きながら言いました。

「……はぁ、もう頼むから一日も早く卒業して向こうに嫁に行って思う存分殿下に愛されてくれよ……」
「お兄様?」

  ぶぉん?  ぶぉん??

  何故かわかりませんが、お兄様はわたくしを早く追い出したいようですの。酷いですわ!


****


  その後……不思議なんですけれど……
  わたくしとラファエル様が参加するパーティーや夜会では必ずと言っていいほどコーヒーを見るようになったんですの。
  更にルフェルウス王太子殿下とリスティ様もいらっしゃるパーティーになりますと、かなりの量が用意されていたとか……

  (そんなに、皆様コーヒーがお好きなのかしら??)
  
  なんて疑問を抱きつつ毎日を過ごしておりましたら、あっという間に時は過ぎ、わたくし達は無事に卒業を迎えましたわ!





  そして、わたくしは今……


「わふぅ!」
「きゃぁぁぁ、マンディー様!  重いですわぁぁ!」

  何故、わたくしはマンディー様に抱き着かれて潰されてるんですのぉぉ!?

  ぶぉーん!?


────……



  卒業式を終えたら、そのままの足でラファエル様はわたくしを連れて帰国されましたの。もちろん準備を進めてはいましたが、ラファエル様の頼みでわたくしだけ少しの荷物を持って先行して、まるで攫われるかのようにやって来ましたわ。

  なので、馬車の中でなぜ、そんなに人攫いのように連れて行こうとするんですの?  と、訊ねました。

「だって、一日だってもう待ちたくなかったんだ!」
「ラファエル様……」
「結婚式は落ち着いてからになるが、婚姻の手続きに関しては、後はミュゼットがこれにサインすれば完了だ」
「へ?」

  ラファエル様は得意そうな顔でそう言って、婚姻誓約書なるものをわたくしに見せて来ます。
  確かに必要事項は全て記入済み。お兄様の許可もバッチリ。
  あとはわたくしがサインするだけになっていましたわ。

「ラファエル様は、王子様ですわよね?」
「そうだが?」
「そんな簡単に婚姻手続きを進めてしまってよろしいんですの?」

  ラファエル様のご両親、国王夫妻にはあのマンディー様と戯れた休暇に訪れた時に一度挨拶しただけでしてよ!?

「大丈夫だ。俺は留学中の毎月の定期便で、常にミュゼットへの愛を綴っていた」
「……え?」

  ぶぉん?

「ミュゼが、毎日毎日可愛すぎて可愛すぎて、誰かに取られたら困るので帰国と同時に結婚出来るように準備を進めるようお願いしておいた」
「えっと?」

  ぶぉ?

「つまり、国に帰ればミュゼットはもう俺の妃だ!」

  ぶぉーーーん!?

  ラファエル様はとてもとてもいい笑顔でそう言い切っておりました。



────……


  そんなわけで王宮に着いて、サイン済みの誓約書を渡した後は「マンディーに会いにいくぞ」と、言われて数年ぶりにマンディー様の元を訪ねたわけですがー……
  何故か突撃されて潰されております。

「わっふ、わん!  わぅん!」

  ぶぉ!?  ぶぉぉん!?

「えぇっ!?  わたくしが来るのを待っていたですって!?」
「ほらな、やっぱりミュゼットはマンディーに好かれてた」

「ぐるぅぅ……わぅん!」

  ぶぉ!

「何故、あの日以来全然来なかった……こんなに遅いとは聞いてない!  そう仰られましても……そんなご近所さんを訪ねるのとはわけが違いますし……」

  なんて事!  私を待っていたですって!?
  マンディー様が縦ロールもビックリな発言をしておりますわ!

「わふぅ!  わんわん!」

  ぶぉん!!

「そんなっ!  罰として3日後まで撫で撫で禁止だなんて酷いですわ!!」
「そうか、マンディー。ミュゼットに撫で撫でしてもらうのをどうにか我慢出来るのはその日数が限界か……」
「わふ!」
「ラファエル様!?  何をそんな納得してるんですの!  わたくしは今すぐ撫で撫でしたいのに!!」
「いや、マンディーはこうと決めたら絶対に譲らないからな。今日は諦めて3日後に堪能してくれ」
「わふ!」
「そんなぁぁ!  マンディー様ぁぁ!」

  マンディー様の元を訪ねてすぐに抱き着かれたので撫で撫で!?   と、大きく期待したのに、まさかのお預けをくらってしまったわたくしの悲鳴はとてもよく響いた……との事でしたわ。


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