【完結】私は落ちこぼれで構いません! ~未来の大魔術師様が今日も私を困らせて来ます~

Rohdea

文字の大きさ
19 / 25

19. 人はそれを恋と呼ぶ

しおりを挟む


「……フィーリーさん。それは惚気ととって良いのかしら?」
「はい!?」

  本日、私はラモニーグ公爵家にお邪魔してリシェリエ様との打ち合わせ。
  ちなみに、ルシアンとは別行動。

「の、惚気ですか!?  ち、違います!  わ、私はただ、ルシアンが最近優しくて変なんです……と言いたかっただけで!」

  リシェリエ様の指摘に、私は思いっきりブンブンと首を横に振って答える。

  (惚気ですって!?)

「……どうして、そんな反応になるのかしらね」

  リシェリエ様が非常に困惑した顔で見つめてくる。私は最近感じた事を素直に口にしただけなのに!

「……前から聞きたかったのだけれど宜しいかしら?」
「え?  はい」
「フィーリーさんとルシアン様はお付き合いしているのではなくて?」
「………………は!?  お付き合い?」

  リシェリエ様はいったい何を言い出したの?
  お付き合いって、アレよね?  えっと、恋人!
  思わず耳を疑ってしまう。

「私とルシアンがですか!?  リシェリエ様ったら何を……そんな事あるわけないじゃないですか。あははー……」
「でも、よく2人でいるし、仲が良いでしょう?」

  私は慌てて笑いながら否定するけれど、リシェリエ様の表情は全然納得していない。

「それは、私に友人がいないからですよ!  ルシアンの性格的に独りぼっちの私を放っておけなかっただけで、単なる入学式に絡まれてからの腐れ縁です!」
「…………」
「それでなくても、あちらは侯爵家の令息ですよ?  だって私は平民……です、し」

  ……そうよ。  自分で口にして気付いた。
  たまに忘れそうになるけれど、私とルシアンの身分差は大きい。
  本来なら、軽々しく口を聞く事だって出来ないくらいの壁がある。

  (ルシアンがそんな事を思わせない素振りだったからすっかり忘れていた)

  それに、最近のルシアンの私を見る目が───……

  (ドキドキするの)

  ルシアンはルシアンなのに、昔と違って見える時があって困惑している。

  (こんな規格外な私を守りたいって言ってくれた……)

「……」
「そんなに、顔を赤くして恋する乙女みたいな顔をして何を言っているんですの?」
「え!?  こ、恋?」
「恋ですわ。さすがのフィーリーさんも恋は分かりますわよね?」

  グイッとリシェリエ様が詰め寄って来る。
  ちょっと目が据わっている気がする。リシェリエ様は目が覚めてから別人みたいだ。

「ち、知識としてなら……でも、私は誰かに恋をした事が……無いので」
「恋をした事が無いから、分からない?」

  私はコクリと頷く。

「……ふぅ、ルシアン様が気の毒に思えて来ましたわー……」
「?  何か仰いましたか?  リシェリエ様」

  リシェリエ様は余りにも小さな声で呟かれたので聞き取れなかった。

「フィーリーさん!  よくお考えになってご覧なさいな」
「?」
「あのピンク色の髪をした迷惑な女にルシアン様が魅了されてしまったらどう思います?」

  (エリィ様に?  ルシアンが?)

  ──ルシアンが、エリィ様に愛を囁いている場面が頭に浮かんだ。
  私に時折見せてくれる、真っ赤な顔をした子犬の表情で……

「……い、嫌ですっ!!  ……あっ!」

  深く考える事も無いまま私の口からそんな言葉が飛び出す。
  私は自分で自分の言葉に驚いた。

「リシェ……リシェリエ様、私……」
「あのね、フィーリーさん。不思議よね?  頭の中だけだとごちゃごちゃと色々考えてしまうけれど、人の心って正直なのよ」
「……心」

  戸惑う私にリシェリエ様はふふっと、微笑む。

「あんな女に取られるくらいなら私が!  そう思わなかった?」
「…………お、思いました」

  浅ましくも思ってしまった。
  ルシアンが、あの子犬の顔をするのは私の前だけであって欲しいと。

  (ずっと、側でが、ルシアンのそんな顔を見ていたいって)

  ───あぁ、そっか。
  この気持ち。この気持ちが───

  これまで、ごちゃごちゃ考えていた事がストンっと胸の中に落ちて来た。

「……ふふ、答えは出たかしら?」
「…………ありがとうございます、リシェリエ様」
   
  私はリシェリエ様にお礼を言う。

「ルシアンにとって私は、あくまでもライバルのような存在で、仕方が無いから面倒を見てやろうくらいの気持ちの存在かもしれませんが、私は──……」
「ちょーーーっと待ってぇぇー!?」
「?」
「何でそこは斜め上の解釈に走っているんですのーー!?」
「え?」

───……

  リシェリエ様に、
  フィーリーさんは鈍いです。激にぶって奴ですわ!
  ルシアン様、不憫すぎて泣いてしまいますわよ!?

  (ルシアンが泣く?)

  と、よく分からない理由で散々、お説教をされた後、私からもリシェリエ様に確認しておきたい事があったので訊ねる事にした。

「あの、リシェリエ様……」
「何ですの?」
「……リシェリエ様は、今回のエリィ様による魅了の力を解いた後はどうされるおつもりなのでしょうか?」
「どう、とは?」
「その……アレンディス殿下の事です」

  ──そう。
  リシェリエ様の婚約者であるアレンディス殿下はただ今、絶賛魅了の影響を受けている1人だ。
  元々、以前から不仲説のあった2人だけど、殿下がエリィ様に魅了されてしまってからはますます2人の距離は酷いものとなっている。

「殿下は……それなりのお咎めをくらうでしょうね」

  リシェリエ様は落ち着気払った様子で口を開くけれど、その目が何処か寂しそうにも感じる。

  (そうよね、だってリシェリエ様は私にだって牽制してくるくらいアレンディス殿下の事を……)

  しかし、王族として王子として、1人の女性の魅了という力に翻弄されてしまっている今の状態は、アレンディス殿下の今後に暗い影しか落とさない。
  何より、パーティーで浄化をするという事は、大勢の前でアレンディス殿下の痴態を晒す事にもなる。

「……私は婚約解消するつもりは無いのだけどね」
「え!?」

  リシェリエ様のその言葉に私は本気で驚いてしまった。
  そんな私の様子を見てリシェリエ様はクスリと笑った。

「あら?  そんなに意外だったかしら?」
「はい……」
「お父様や王家が色々と口を出してくるとは思うけれど、私の気持ちは変わらないわ」
「リシェリエ様の気持ち?」

  私がよく分からない顔をしていたのを感じたリシェリエ様は、更に笑みを深くして言った。

「私は王子妃になりたかったわけではないの。アレンディス様の妃になりたいの。だから、あの方が今後、どんな立場になったとしても側にいたいのよ」
「リシェリエ様……」

  ───そうか。
  リシェリエ様は、王子とかそんな肩書きは関係なくて、アレンディス殿下ご自身の事をお好きなんだ。

  (今ならその気持ちが分かるわ……私だってルシアンが未来の大魔術師だから、なんて事は関係ないもの)

「まぁ、殿下がどう思うかは分からないけれど……ね」

  そう呟くリシェリエ様の表情はどこか寂し気だった。

  アレンディス殿下とリシェリエ様。二人の間にあるものを私は知らない。
  二人の婚約期間は幼い時からなので長いと聞いている。きっと、二人だけにしか分からない何かあるのだと思う。
  魅了から解放された殿下がその時何を思うかも分からない。

  それでも、リシェリエ様の想いが目が覚めた殿下に届けばいいな、と私は心から思った。



*****


  そして、とうとうパーティー当日がやって来た。


「フィーリー?  大丈夫か?」
「……」
「ははは、お前でも緊張する事があるんだな」
「し、失礼ね!  ひ、人を何だと思っているのよ!!」
「フィーリー」
「~~!」

  ルシアンが気を紛らわせようと話しかけてくれるけどやはり落ち着かない。

  (人の気も知らないでぇぇーー)

  とうとうこの日がやって来たという緊張と、気付いてしまったルシアンへの気持ちのせいで私の頭の中は爆発しそうになっている。

「それと、フィーリー」
「何?」
「……似合ってる……よ」
「!!」

  ルシアンが頬を赤く染め、照れ臭そうに私に言った。

「わ、私は今までみたいに制服でいいって言ったのに、ル、ルシアンが……」

  私は今日、生まれて初めてドレスというものを着た。
  なんと、この日の為にとルシアンから贈られたものだ。かなり強引に押し付けられた……気がする。

「フィーリーのドレス姿、見てみたいとずっと思ってた。いつもフィーリーは制服だったから」
「ルシアン……」
「見れて良かったよ。贈って良かった……」
「!」

  ルシアンのその笑顔に胸がきゅんってした。
  私は照れ臭くなってしまい、ルシアンの顔がまともに見れない。

「あ、ありがとう……わ、私……このドレスに見合う分の働きはしてみせるわ!」
「……」

  そう伝えたら、何故かルシアンがじとっとした目で私を見てため息を吐く。

「はぁ、フィーリーだもんな…………だけど全部、終わったなら……」
「ルシアン?」

  ルシアンが小さな声で何かを呟いた。

「いや、何でもない。行くぞ、ほら」
「う、うん」

  ルシアンが手を差し出したので、私はそっとその手を取る。

  (ドキドキする。でも、心強い……)

  そんな事を思いながら私達は会場に向かって歩き出した。

 
しおりを挟む
感想 131

あなたにおすすめの小説

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

【完】出来損ない令嬢は、双子の娘を持つ公爵様と契約結婚する~いつの間にか公爵様と7歳のかわいい双子たちに、めいっぱい溺愛されていました~

夏芽空
恋愛
子爵令嬢のエレナは、常に優秀な妹と比較され家族からひどい扱いを受けてきた。 しかし彼女は7歳の双子の娘を持つ公爵――ジオルトと契約結婚したことで、最低な家族の元を離れることができた。 しかも、条件は最高。公の場で妻を演じる以外は自由に過ごしていい上に、さらには給料までも出してくてれるという。 夢のような生活を手に入れた――と、思ったのもつかの間。 いきなり事件が発生してしまう。 結婚したその翌日に、双子の姉が令嬢教育の教育係をやめさせてしまった。 しかもジオルトは仕事で出かけていて、帰ってくるのはなんと一週間後だ。 (こうなったら、私がなんとかするしかないわ!) 腹をくくったエレナは、おもいきった行動を起こす。 それがきっかけとなり、ちょっと癖のある美少女双子義娘と、彼女たちよりもさらに癖の強いジオルトとの距離が縮まっていくのだった――。

記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?

ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」 バシッ!! わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。 目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの? 最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故? ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない…… 前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた…… 前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。 転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?

「君は有能すぎて可愛げがない」と婚約破棄されたので、一晩で全ての魔法結界を撤去して隣国へ行きます。あ、維持マニュアルは燃やしました。

しょくぱん
恋愛
「君の完璧主義には反吐が出る」――婚約者の第一王子にそう告げられ、国外追放を命じられた聖女エルゼ。彼女は微笑み、一晩で国中の魔法結界を撤去。さらに「素人でも直せる」と嘘を吐かれた維持マニュアルを全て焼却処分した。守護を失いパニックに陥る母国を背に、彼女は隣国の軍事帝国へ。そこでは、彼女の「可愛くない」技術を渇望する皇帝が待っていた。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

結婚して5年、冷たい夫に離縁を申し立てたらみんなに止められています。

真田どんぐり
恋愛
ー5年前、ストレイ伯爵家の美しい令嬢、アルヴィラ・ストレイはアレンベル侯爵家の侯爵、ダリウス・アレンベルと結婚してアルヴィラ・アレンベルへとなった。 親同士に決められた政略結婚だったが、アルヴィラは旦那様とちゃんと愛し合ってやっていこうと決意していたのに……。 そんな決意を打ち砕くかのように旦那様の態度はずっと冷たかった。 (しかも私にだけ!!) 社交界に行っても、使用人の前でもどんな時でも冷たい態度を取られた私は周りの噂の恰好の的。 最初こそ我慢していたが、ある日、偶然旦那様とその幼馴染の不倫疑惑を耳にする。 (((こんな仕打ち、あんまりよーー!!))) 旦那様の態度にとうとう耐えられなくなった私は、ついに離縁を決意したーーーー。

処理中です...