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第15話 王子様の告白と忍び寄る魔の手

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  一息で何だかすごい事を言い切ったリアム殿下は、はぁはぁ……と、肩で息をしていた。
  私はその様子をただ呆然と見つめる。

「……」
「……」

  (ええっと、今のは……)

  何だったの?
  と思わず首を傾げながら一つ一つ確認していく。

「常日頃から気になって……目が離せない?」
「あぁ」
「気付けば怪我をしていないか心配?」
「心配だろう?  現に今日は鼻血を出していた」
「うっ!」

  (それはその通りだけども)

「今は何をしているのかと頭の中で……」
「常に考えてる」

  (ひぇ!?)

「わ、たしの笑った顔が……見たい?  それも……」
「フェリは笑ったら、か、か、か、可愛い」

  リアム殿下はぎこちなく答える。
  ボンッ!
  そんな事を言われた私の顔は今にも沸騰しそう。

「えっと?  これまで私の近くにいた男性」
「あぁ、嫉妬している。こんなにも、か、可愛いフェリをずっと見て来てそばにいたであろう男共はいっそ闇討ちでもして全員今すぐ記憶喪失にさせたいくらいだ」
「や、闇討ち……記憶喪失!?」

  (な、なんて物騒な!  でも、記憶喪失になってもらいたい……というのは激しく同意したくなる)

  悪役王女フェリシティの記憶なんて消え去って欲しい。
  でも、リアム殿下のそれは要らぬ嫉妬だと思うわ。

  ────ではなくて!  今重要なのはそこではなくて!

「リ、リー様……」
「フェリ……」

  気になる、とか可愛いとか……嫉妬するとか……
  何これ何これ何これ…………!  恥ずかしくて顔が上げられない。

  こんなのまるで、リアム殿下が私の事を──── 

「フェリ。俺の名前は“リアム”だ」
「り、りあむ……」

  その言葉に私はそろっと顔を上げる。

  (知っていました、とはさすがに言えない)

  でも、打ち明けてくれたという事が嬉しい。

「なぁ、フェリ。リー様でもリーでもリアムでも呼び方は何でもいいが」
「?」
「何があっても“ご主人様”とだけ呼ぶ事だけは絶対にやめてくれ。フェリにそう呼ばれるのは……嫌だ」
「え?」

  (そう言えば、使用人として働く事になった時に、呼び方を改めた方が良いですか?  と聞いたら思いっ切り否定されたけど)

  あの意味は……

「フェリ、俺は」

  リアム殿下の真剣な瞳か私を射抜く。
  私の胸が大きく跳ねた。

  ───でもダメ!  この続きを聞いてはダメ……!

  追われる身の王女フェリシティである私が聞いていい言葉では無い。
  そう思った私は咄嗟に手を伸ばしてリアム殿下の口を塞ぐ。

「んんぐ!  んぐぐんぐ!?」
「……その続きは聞けません」
「ぐぐ!?  んんぐ、んぐぐんぐんぐ!」
「……私にはその言葉を聞く資格が無いのです」
「んんぐ!」
「きゃっ!?」

  リアム殿下は塞いでいた私の手を強引に退かす。
  そして、そのまま私を抱きしめた。

「……どうしてだ?  フェリ」
「だって、私は……私は」

  その先が言葉にならない。この期に及んで意気地のない私は真実が言えないでいる。

「フェリは俺が嫌いか?」
「まさか!」
「なら、好きか?」
「っっ!」

  ボンッと私の顔が赤くなった。
  質問が極端過ぎる!!

「……フェリはきっと俺に言いたくない事があるんだろう?」
「……」
「だが、それは俺も同じだ。こんな事を口にしておきながらまだ、フェリに言えていない事がある」
「!」
「知った後のフェリの反応を思うと怖くて仕方がない」

  ───それは、王子、しかも王太子だという事?

  (私が正体を知っているという事をリアム殿下は知らないから……)

「それに、すまないが、俺がこの国ここでの目的を達成するまで全ては話せそうにない」
「……?」
「それでも……フェリには俺のそばにいて欲しいんだ、これからもずっと」
「!」

  そんなまっすぐな言葉に私の胸がキュンッとなり、リアム殿下の私を抱きしめる力が強くなった。

「そうでないと俺は心配で心配で、気が狂いそうだ」
「リー様」
「それに、フェリは絶対に一人で生きていけるとは思えない」
「くっ……ポンコツですみません」

  私がそう答えると、リアム殿下が小さく笑った気配がした。

「そんな所も愛しくて可愛いと思ってしまうんだから、恋心とは本当に恐ろしいものなんだな。フェリに出会うまで知らなかったよ」
「!!」

  ──恋心!

  (聞けないと言ったのに!)

「……だから、ソネットも……」
「リー様?」

  リアム殿下が一瞬辛そうな顔をしたから、私が腕の中から顔を上げて聞き返すと「何でもない」と首を横に振って笑った。

  (……何かしら?)

「フェリ」

  チュッ

「!!」

  再び私の額にキスが降ってくる。
  驚いて固まる私の様子を見たリアム殿下がニンマリと笑う。

「フェリ。俺は諦めが悪い男なんだ」
「リー様」
「そうだな……フェリが俺の事を顔も見たくないくらい嫌いにならない限りは諦めないから覚えておいて」
「なっ!」

  真っ赤になった私を見たリアム殿下は満足そうな顔で私の部屋から出て行った。

「~~~……」

  再び力の抜けた私はそのままベッドに突っ伏しながら呟いた。

「……嫌いになんて、なるわけないじゃない」





✣✣✣✣✣✣✣✣


「フェリシティはまだ、見つからないのか!?」

  その頃、王宮では大々的に捜索の幅を広げているにも関わらず全く見つからない王女に業を煮やしていた。

「アーロン殿下……これだけ探しても見つからないのは、どこかに匿われているとしか思えません!」
「ネイサン!  お前なら分かるだろう?  あのフェリシティだぞ!?  匿う人間がどこにいる!」
「そうですが……」

  少なくともこの国の貴族でフェリシティを匿う……それは有り得ない!  
  そもそも、フェリシティは嫌われていたし、王太子自分に不満があり蹴落とそうと考えているような輩がいても、処刑が決まっている王女フェリシティの味方についた所で泥船に乗るのと同じだろう。

  (すると、フェリシティは平民に紛れているか……もしくは他国に救いを求めた、か?)

  ──そういえば今、リュキアード国の王太子がうるさいくらい抗議を上げて来ているがまさか……な。

  (だが、あの何かと煩い王太子ならフェリシティの味方につく可能性はある……か?)

「おい!  リュキアード国の王太子と王女を調べろ!」
「リュキアード国?  アーロン殿下。これ以上、彼国を刺激するのはあまり得策では無……」
「いいから、調べるんだ!」

  アーロンはネイサンに向かってそう怒鳴る。
  そこへ、呑気な顔をしてペトラがやって来た。

「あら、アーロン様達、どうかしたのですか?」
「あぁペトラ。今日も可愛いね」
「ふふふ、アーロン様。ありがとうございます。ところで今、リュキアード国と聞こえましたが?」

  (リュキアード国って隠し攻略キャラのリアム様の国よね?)

  ゲームは終わったはずなのに、何故その国の名前が?
  私は隠しキャラのルートの開放はしていないわよ?
  と、ペトラは疑問に思う。

「何でもないよ、フェリシティの捜索の件でね、ちょっと」
「あぁ……まだ、見つからないのですね。どうしているのでしょう。心配だわ」

  ペトラは慈愛に満ちた表情を浮かべる。
  だが、もちろん内心は……

  (本当にしぶとい悪役王女ね。何でなの?  いい加減にしなさいよ)

「大丈夫。フェリシティは必ず見つけるさ」
「……ええ」

  (早くして頂戴!  私の幸せの為にも!)


  ──フェリシティ王女の逃亡劇の終わり──……
  “その時”はもうすぐそこまで迫っていた。


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