聖と魔の名を持つ者 ~その娘、聖女か魔女か。剣を手にした令嬢は、やがて国家最強の守護者となる~

草沢一臨

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第一部:第五章 ラーソルバールの休暇(後編)

(一)メイドとドレス②

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 浴槽の端や、壁には細やかな装飾が施され、所々に竜や鳥などの彫刻が飾られている。それに合わせたような、湖畔を描いた壁画も美しい。
 だがやはり、慣れないせいか落ち着かない。
 そわそわしていると、脱衣所に人影が見えた。湯煙で分かりにくいが、先程のメイドで間違い無さそうだった。
 居心地の悪さからそそくさと風呂から出ると、メイドが待ち構えていたように、ラーソルバールの元にやって来て、あっという間に全身を拭き終える。流れるような動きでラーソルバールが抵抗する間も与えず、手際良く下着、内衣まで着せ終えると、髪を乾かし始めた。
 呆気に取られていたラーソルバールだったが、我に返ると、下着等は新品を着せられていることに気付く。
「これ、新品……ですよね。」
「ええ、そうですよ。伯爵様のご指示で。ドレスも併せて買って参りました」
「ん?」
 買ってきた? ドレス? 
 一瞬、理解が出来なかった。
 突然押し掛けた自分の為に、食事だけでなく、衣服まで揃えたということか。
 伯爵には娘が居ないので、年頃の娘が着るような服が無いのは分かる。だが、わざわざメイドに買いに行かせるというのは、やりすぎではないか。とりあえず部屋着を着せられ、部屋に連れ戻される。今着ているこの部屋着も、一緒に買ってきたに違いない。
 そう考えている横で、メイドの目が妖しい光を放っているのが見えた。
「うふふふふ……ラーソルバールお嬢様…」
「う…」
 多少後退りしながら距離をとる。
 思い出した。この感じは、隊商の女性に着せかえをされた時と同じだ。
 旅の道中、娯楽の少ない彼女達にとって、絶好のオモチャだったのだろう。旅装以外の服までいくつ着せられたことか。
「………はぁ……」
 その瞬間、抵抗しても無駄だと悟った。
 暫しの後、ラーソルバールは幼い頃にしか着た事が無いような、豪奢な深紅のドレスを着せられていた。
「おぉー!」
 メイドが歓喜の声を上げた。ドレスと後ろ髪をかき揚げ、ばっちり決められたであろう髪型、そしてティアラと首飾り。余程満足したのだろう。メイドは手を腰にあて、鼻息荒くしながら、満面の笑みを浮かべている。
 ラーソルバールは、自分の姿を鏡で見るのが怖くなった。
「最高でございます、お嬢様! ドレスがオーダーメイドでは無い事が残念ですが、このエレノール会心の出来でございます」
 自信満々に、ラーソルバールを大鏡の前へと誘う。
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