溺愛されていると信じておりました──が。もう、どうでもいいです。

ふまさ

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 たった一人の親友であるジェマが、婚約者であるミックと楽しそうに会話するフィオナを哀しそうな目で見ている。それは、はじめてのことではなかった。

 けれどフィオナはいつだって、気付かないふりをしていた。




「おはよう、フィオナ」

 朝。晴天の空に、風が凪ぐ。いつものように屋敷まで迎えにきてくれた、幼馴染みであり、婚約者でもある伯爵令息──ミックに、フィオナが玄関ホームにて、微笑む。

「おはよう、ミック。毎朝迎えに来なくても、学園ですぐに会えるのに」

「駄目だよ。もし学園に向かう途中できみに何かあったら、ぼくは悔やんでも悔やみきれない。傍にいれば、いつでも守ってあげられるからね」

 ミックがフィオナを抱き締める。それはそれは、愛おしそうに。あらあら。ふいに背後から声をかけてきたのは、フィオナの母親だった。

「本当に仲の良いこと。ねえ、あなた」

 投げ掛けられた言葉に、フィオナの父親──アイン侯爵は、眉を寄せた。

「父親としては少々複雑な気分だが……まあ、大事な娘をこれほど想ってくれているのは、悪くはないかな」

「素直じゃないですわねえ。わたくしは今すぐにでも、二人に結婚してもらいたいぐらいですのに」

 クスクス。クスクス。
 母親が笑う。

「ぼくもです。学園を卒業するまでの期間がとても長く感じるほどに、待ちきれないです」

 真剣に答えるミックに、フィオナの頬が赤くなる。

「もう、ミックまで。ほら、もう行きましょう。遅刻してしまうわ」

 ミックの手をとり、引っ張る。ミックが「そんな弱い力じゃ、ぼくは動かせないよ」と穏やかに笑う。父親と、母親も。


 ──対して。

 傍に控える使用人たちに、笑顔はなかった。




 向かい合わせに座る馬車内で、ミックが小さな紙袋を手渡してきた。フィオナが「これは?」と訊ねると、ミックは「プレゼントだよ」と言った。

「でも、わたしの誕生日はまだ先よ?」

「そうだけど。きみに似合うかなと思って。そしたらもう、我慢できなくて」

「この前も貰ったばかりなのに……」

「ぼくはいつでもきみのことばかり考えているから。つい、ね」

 いたずらっぽく頬をゆるめるミック。フィオナは照れながら、紙袋の中の物を手に取った。そこに入っていたのは、赤薔薇が刺繍されているハンカチだった。

「きみの好きな赤薔薇だよ。どう? 気に入ってくれた?」

「ええ、とても。ありがとう、ミック」

「お礼を言うのは、ぼくだよ。喜んでくれてありがとう。さっそく、今日から使ってくれたら嬉しいな」

「でも、何だか使うのはもったいないわ」

「そんなこと言わないで。ぼくはね。できればきみが使用する物は全て、ぼくからの贈り物にしたいと思っているんだ」

 フィオナは「え。そうなの?」と目を丸くした。その様子に、ミックはしまったとばかりに口元を手でおさえた。それから、

「……ごめん。流石に気持ち悪かったかな?」

 と、子犬のような目を向けてきた。それが何だかおかしくて、フィオナは笑ってしまった。

「気持ち悪いだなんて、思うわけないわ。ただ少し驚いただけ。やけに贈り物が多いなと思っていた疑問も、これでとけたわ」

 ミックが「良かった」と、心からの安堵の息を吐いた。

「今度、ドレスを贈らせてほしいんだ。きみの大好きな赤色で、素敵なドレスを見つけてね」


 フィオナは「楽しみだわ」と幸せそうに微笑んだ。
 
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