わたしの愛しい人を傷付けた、愛する婚約者様へ。わたしはあなたを絶対に許しません。

ふまさ

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 エルシーは足を滑らせて、テーブルの角に頭をぶつけた。スペンサーの言い分は、こうだった。朝から雨が降り、靴は濡れていたので、みなはあっけないほどあっさりとそれを信じた。けれど、カミラだけは違った。カミラだけは、スペンサーを疑っていた。

 とはいえ、証拠は何もない。そのうえ、エルシーが記憶喪失となれば、その場のことを知るのは、スペンサーのみ。

 どうするか。悩み、迷うカミラだったが、対してエルシーの記憶喪失からくる不安は、日に日に薄くなっていくようだった。

 その理由は、優しい両親に、学友。そして──婚約者の存在があったからだろう。

 着替えを手伝うさいに、エルシーの身体を観察する。けれど新しいアザは見当たらない。エルシーの笑顔にも、以前のような陰りはない。

 流石に、この状態のエルシーに手をあげることはできないようで、スペンサーは優しい婚約者を見事に演じているようだ。

 幸せそうなエルシーを見て、カミラは思う。

 スペンサーは最低だ──けれど。このまま、スペンサーが死ぬまで優しい婚約者を演じ続ければ。いや、どころか改心した可能性すらあるのに、今さら口を出していいものか。

 毎日、毎日、自問自答する。


 そんな日々に終止符が打たれたのは、エルシーが一冊のノートを見つけた日だった。
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