あなたがわたしを捨てた理由。

ふまさ

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 クラレンスの悪夢は、王立学園の入学式からはじまった。入学式が終わり、それぞれの教室に向かうとき、クラレンスは一人の令嬢とぶつかった。倒れそうになる令嬢を、クラレンスが右手で支え、受け止める。

「すみません、大丈夫ですか?」

「え、ええ。申し訳ありません」

「いえ、こちらこそ」

 にっこりと、クラレンスが笑う。そう。はじまりは、こんな些細な出来事だった。



 数日後。

 クラレンスは、侯爵令嬢のグロリアに呼び出された。指定された場所に行ってみると、入学式にぶつかった令嬢が、そこにいた。

(彼女がグロリア・クロメントだったのか……)

 頬を赤く染め、俯く彼女。これは、と思っていたら、予想通り、告白をされた。クラレンスは、婚約者がいるからと、丁重にお断りをした。

「……そうですか。もう、婚約者様がおられたのですね」

 残念そうに、それでも、お手間を取らせて申し訳ありませんでした、と彼女は去って行った。

 少しの罪悪感はあったが、素直に納得してくれたことに、安堵した。

 
 けれど。

 それから、わずかひと月後。

「あの、あたし、どうしてもあなたが諦められなくて……」

 また呼び出しをされたと思ったら、そう告げられた。

「けれど、僕には婚約者がいますから……」

 グロリアは「そのことなんですが」と、顔を上げた。

「貴族の結婚は、家のためにするもの……ですよね? バートランド伯爵家より、クロメント侯爵家と繋がりが持てた方が、よりマース伯爵家のためになると思いませんか?」

「えと……」

「お父様に相談したら、あたしの初恋を実らせるためなら、婚約破棄に伴う慰謝料を、全額支払ってくれると約束してくださいました」

「ま、待ってください! どうしてそこまで僕にこだわるのですか」

「……初恋、だからです」

「言葉を交わしたのは、たった一度きり。それも、会話らしい会話でもなかったですよね?」

「……一目惚れに近い状態でしたので」

 はじめての恋に、気持ちが浮かれている状態なのだろうか。いずれにしても、アーリンと別れるつもりなど微塵もなかったクラレンスは、きっぱりと告げることにした。

「気持ちは嬉しいのですが、僕は、家のためだけにアーリンと婚約したわけではないのです。僕は、アーリンを愛している。だから、別れるつもりはありません」

「……愛?」

「はい。あなたにも、愛し合う誰かと出会えること、陰ながら祈っています」

「……あたしは、あなたがよいです」

 ぽつりと吐露された思いに、クラレンスは、すみません、できません、と頭を下げることしかできなかった。

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