聖女の婚約者と妹は、聖女の死を望んでいる。

ふまさ

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「実は、友人から話しを聞いたあと、アントン・ゴーサンスが書いた報告書を読ませてもらっていたんだ。そこには、聖女エリノアは賊に攫われそうになったが、無事救出した、としか書かれていなかった。つまりは、自分の失態を隠したんだ。それだけでも充分、罪に問えるけれど──もし彼が、聖女を守る隊の隊長という立場にもかかわらず、賊にきみの殺害を依頼していたとなれば、処刑すらありえるね」

「……処刑、ですか……?」

 驚愕するエリノアに、クリフは小さく笑った。

「そこまでは望んでない?」

「……いえ、その……そこまで考えが至ってなかったというのが、正直なところで……きっと誰にも信じてもらえないと思っていましたから……証拠もなにもないですし……」

 それはこれから、わたしが探すよ。そう言い、クリフはエリノアを横抱きに抱えた。突然のことに、エリノアがぴしっと固まる。

「ああ、やっぱり。随分と軽い。顔も青白いし、目の下に隈もあるね」

「あ、の。わ、わたし、自分で歩けますのでっ」

「でも、さっきめまいを起こしたばかりだろう? それに、心身共にかなり弱っているみたいだし」
 
 心配そうに告げると、クリフはエリノアを抱いたまま、歩き出した。

「しばらく、王族が居住する宮の中にある客室を使うといい」

「……え?」

「そこなら、きみの妹も、アントン・ゴーサンスも、簡単には入ってこれない」

 エリノアは小さく、あ、と口を開いた。

 そして。

「……もう、あの二人の顔を見なくてもいいんですか?」
 
 縋るように、クリフに問うた。クリフが、ああ、と答えると、エリノアは、声をあげて泣きはじめた。


 エリノアの心は、自身でも気付かないほどに、限界寸前だった。

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