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「……クライブ殿下。どうしますか?」

 護衛役の男がデリアから目を逸らさず、クライブの意思を問う。クライブは、捕らえろ、と静かに告げた。

「はい」

 護衛役の男が、デリアに近付く。デリアが来ないでと叫ぶ中、護衛役の男はデリアの両腕を後ろに捻り、縄で一つ括りにした。

 クライブは階段をゆっくりとのぼり、デリアの前に立った。デリアが、酷いです、と目を潤ませるのに嫌悪し、クライブはまだ早鐘を打つ心臓に手を当てた。

「……きみのつけている特徴的な甘い匂いの香水が、突き落とされそうになったとき、微かに香った」

「そんなことであたしが犯人と決めつけるんですか?!」

「……息をするように嘘をつくんだな、きみは。恐ろしいよ」

「陛下と! 陛下とお話させてください! 陛下ならきっと、あたしを信じてくれるはずです!」

「父上にはこれからわたしが話に行くよ──聖女デリアを、地下牢に」

 護衛役の男に命じたクライブに、デリアが信じられないような双眸を向ける。

「……地下牢? そんなこと、陛下がお許しになるはずがありません。いいえ。神から天罰が下りますよ。いいんですか?」

「きみのような者をかばう神などいらない」

「なんてことを……きっと、逆にあなたが陛下に地下牢に入れられてしまいますよ? 本当に後悔しません? いまならまだ、許してあげますよ?」

「わたしが助かったのは、あくまで偶然にすぎない。下手をしたら、死んでいた。きみはそれだけのことをしたんだよ。それに対する罪悪感は欠片もないの?」

「だって、あたしはそんなことしていませんもの」

 揺るがない瞳に、いっそ、その場の全員がぞっとした。

「……わたしが責任をとる。聖女デリアを、早く地下牢に」

「……わかりました」

 抗うなら、担ぐしかない。護衛役の男はそう思っていたが、デリアは大人しく従い、歩き出した。国王が知れば、すぐに出してくれる。そんな自信があったからだろう。

 その背中が見えなくなり、ようやく大きく息を吐き出せたクライブは、メイドに「馬車の用意を頼む」と命じた。

「へ、陛下のところに行くのでは……?」

 控え目に聞き返すメイドに、クライブは小さく笑った。

「……行くよ。でもそのすぐ後に、行かなければならないところがあるんだ」

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