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3章 クリスマスの夜
03 疑問
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「どうやら私はすっかり酔ってしまったようだ」
夕食を終えたエリックがそう言った。その顔は若干赤い。
「どうやらそのようですね」
ジークも一緒に部屋へ戻る。その途中、自分達の部屋がある通路で怖い顔をした背の高い男とすれ違った。
男はそのまま階段のある方へと向かっていった。
「あれはカーソン・パロットだ」とエリックは言った。
「知ってる人?」
「元大佐だよ。もう退役しているけど、そんな人がどうしてこんな場所に?」
「宿泊してるからじゃないの?」
「そりゃそうさ。僕が疑問に思ったのは何故このフロアに大佐がいたかだ。あの方ならもっとグレードの高い部屋に泊まっている筈だ。大佐ともあろうお方がまさか他に部屋がないからと言ってこのフロアの部屋に宿泊してるなんてことはないと思うんだけど」
「だったら知り合いに会いに来たんじゃないの?」
「ああ! きっとそれですね」
この日は何事もなく、一日を終えた。
すっかり熟睡できたのも、今回のクエストが諜報員を見つけることだからだ。
だから、まさかこんなことになるとはこの時点では予想していなかった。
翌朝。
朝食を終えたエリックはジークに「パーティーまで時間がありますし、観光なんてどうですか? ご案内しますよ」と提案した。
「是非と言いたいところですが、諜報員の情報が足りないので、少しでもパーティーに参加される人の情報を知りたいです」
「分かりました。協力します」
ジークとエリックは階段を降りて一階のロビーへと向かった。ロビーには相変わらず人が沢山出入りしており、鍵を預け外出をする人達の姿が見れた。
「しかし、ジークさん。どうやってその諜報員を探すつもりなんですか? 手掛かりは国籍だけですよね? それに、諜報員なら偽名を使っている可能性もあると思うんですが」
「私もそう思います。しかし、諜報員が今日の夜のパーティーに参加するとなると、諜報員はパーティーに紛れて誰かと会う可能性はあります。諜報員を探そうにもパーティー前に目立つような行動はしないと思うんです。ですから、その相手が誰かを探るんです」
「なる程、その人物にマークするんですね」
「例えば、情報を欲しがりそうな人物。政治家や軍人、もしくは身内にそれらがいる人物。そう考えると、昨日すれ違ったカーソン・パロットという人も怪しいことになる」
「あの方が!? まさか、あり得ないでしょう」
「スパイなら、むしろ疑われない人物が適任だと思いますけど」
「それなら沢山いそうですが。むしろ、有名人ではない人の方が目立たないと思いますよ」
「もし、そうであるなら、私達が宿泊する部屋のフロアにその人物がいそうですね」
「今日は満室ですから、宿泊客以外の外部がパーティーに参加することはないので、このホテルのどこかにいるっていうのは合っていると思いますけど、もっと絞り込まないと分かりませんね」
「ええ、そうですが一つ大事なことを忘れています」
「え?」
「分かりませんか? 従業員です。このホテルには宿泊客以外にも出入り出来る人達がいるんです」
「なる程……しかし、難しいのでは? パーティーの受付で名前を確認されます。部屋番号と照らし合わせて確認されますので、宿泊客にまず変装するのは不可能です。従業員のまま宿泊客とパーティー会場でその諜報員と会話でもしていたら怪しまれるでしょう」
「会話をするとは限りません。すれ違う際にメモを渡すだけかもしれません。まさか、パーティー会場に機密文書を持ち歩くことは流石にしないでしょう」
「それだと分かりませんね。なにせ、パーティーは立食式。しかも、イベントもあるとか」
ふと、エリックは興味を他に移しだした。
その目線の先には高級スーツに磨かれた靴、時計にはダイヤがついていた。
「あれはリッキー・スターンだ! 大富豪ですよ」
「彼に家族は?」
「いえ、彼は独身ですよ。年齢はもう60を過ぎてます。結婚には興味がないんじゃないですかね。でも、彼がドイツと繋がりがあるとは思えませんが。 ……いや、それこそあなたが言うスパイに相応しい人物か。しかし、一度疑い始めると全員疑わしいですね」
「そもそも気になることが一つだけある。どうしてこの場に自分達が追っている諜報員が現れるのか? 密会ならもっと場所を考えることもできた筈。あえてこの場所なのは何故? その必要は? そもそも、情報では諜報員について詳しくは分かっていない。ただ、盗まれたという事実だけ」
「ここに現れるというのも事実ですよ。信じて下さい、ヴェラ・ミラーの占いを」
別に疑ってはいない。この世界はゲームであって現実ではない。占いが当たっていたところで何も驚くことはない。これは謎解きにヒントを与えるシステムだ。
ヒントに間違いがあっては本末転倒だ。だから、諜報員は現れるだろう。だが、ヒントはこれだけだろうか? 何か、見落としてはいないだろうか? 例えば、エリックは言った。昨日の夜、何故カーソン・パロットがここにいるのかと。確かに、あの時は適当に自分は答えを出してしまったが、当たっているとは限らない。では、もし違っていたとしたらパロットは何をしに現れたのか?
「カーソン・パロットと話しは出来ないかな?」
「え?」
「昨日会ったでしょ? 確かに何故あのフロアにいたのか気になって」
「いや、流石に無理じゃないかな。でも、カルメンさんにお願いしたらもしかすると話せるかも」
「それじゃ、カルメンさんに会いに行こう」
しかし、カルメンは外出をしており、結局日中に会うことは出来なかった。
夕食を終えたエリックがそう言った。その顔は若干赤い。
「どうやらそのようですね」
ジークも一緒に部屋へ戻る。その途中、自分達の部屋がある通路で怖い顔をした背の高い男とすれ違った。
男はそのまま階段のある方へと向かっていった。
「あれはカーソン・パロットだ」とエリックは言った。
「知ってる人?」
「元大佐だよ。もう退役しているけど、そんな人がどうしてこんな場所に?」
「宿泊してるからじゃないの?」
「そりゃそうさ。僕が疑問に思ったのは何故このフロアに大佐がいたかだ。あの方ならもっとグレードの高い部屋に泊まっている筈だ。大佐ともあろうお方がまさか他に部屋がないからと言ってこのフロアの部屋に宿泊してるなんてことはないと思うんだけど」
「だったら知り合いに会いに来たんじゃないの?」
「ああ! きっとそれですね」
この日は何事もなく、一日を終えた。
すっかり熟睡できたのも、今回のクエストが諜報員を見つけることだからだ。
だから、まさかこんなことになるとはこの時点では予想していなかった。
翌朝。
朝食を終えたエリックはジークに「パーティーまで時間がありますし、観光なんてどうですか? ご案内しますよ」と提案した。
「是非と言いたいところですが、諜報員の情報が足りないので、少しでもパーティーに参加される人の情報を知りたいです」
「分かりました。協力します」
ジークとエリックは階段を降りて一階のロビーへと向かった。ロビーには相変わらず人が沢山出入りしており、鍵を預け外出をする人達の姿が見れた。
「しかし、ジークさん。どうやってその諜報員を探すつもりなんですか? 手掛かりは国籍だけですよね? それに、諜報員なら偽名を使っている可能性もあると思うんですが」
「私もそう思います。しかし、諜報員が今日の夜のパーティーに参加するとなると、諜報員はパーティーに紛れて誰かと会う可能性はあります。諜報員を探そうにもパーティー前に目立つような行動はしないと思うんです。ですから、その相手が誰かを探るんです」
「なる程、その人物にマークするんですね」
「例えば、情報を欲しがりそうな人物。政治家や軍人、もしくは身内にそれらがいる人物。そう考えると、昨日すれ違ったカーソン・パロットという人も怪しいことになる」
「あの方が!? まさか、あり得ないでしょう」
「スパイなら、むしろ疑われない人物が適任だと思いますけど」
「それなら沢山いそうですが。むしろ、有名人ではない人の方が目立たないと思いますよ」
「もし、そうであるなら、私達が宿泊する部屋のフロアにその人物がいそうですね」
「今日は満室ですから、宿泊客以外の外部がパーティーに参加することはないので、このホテルのどこかにいるっていうのは合っていると思いますけど、もっと絞り込まないと分かりませんね」
「ええ、そうですが一つ大事なことを忘れています」
「え?」
「分かりませんか? 従業員です。このホテルには宿泊客以外にも出入り出来る人達がいるんです」
「なる程……しかし、難しいのでは? パーティーの受付で名前を確認されます。部屋番号と照らし合わせて確認されますので、宿泊客にまず変装するのは不可能です。従業員のまま宿泊客とパーティー会場でその諜報員と会話でもしていたら怪しまれるでしょう」
「会話をするとは限りません。すれ違う際にメモを渡すだけかもしれません。まさか、パーティー会場に機密文書を持ち歩くことは流石にしないでしょう」
「それだと分かりませんね。なにせ、パーティーは立食式。しかも、イベントもあるとか」
ふと、エリックは興味を他に移しだした。
その目線の先には高級スーツに磨かれた靴、時計にはダイヤがついていた。
「あれはリッキー・スターンだ! 大富豪ですよ」
「彼に家族は?」
「いえ、彼は独身ですよ。年齢はもう60を過ぎてます。結婚には興味がないんじゃないですかね。でも、彼がドイツと繋がりがあるとは思えませんが。 ……いや、それこそあなたが言うスパイに相応しい人物か。しかし、一度疑い始めると全員疑わしいですね」
「そもそも気になることが一つだけある。どうしてこの場に自分達が追っている諜報員が現れるのか? 密会ならもっと場所を考えることもできた筈。あえてこの場所なのは何故? その必要は? そもそも、情報では諜報員について詳しくは分かっていない。ただ、盗まれたという事実だけ」
「ここに現れるというのも事実ですよ。信じて下さい、ヴェラ・ミラーの占いを」
別に疑ってはいない。この世界はゲームであって現実ではない。占いが当たっていたところで何も驚くことはない。これは謎解きにヒントを与えるシステムだ。
ヒントに間違いがあっては本末転倒だ。だから、諜報員は現れるだろう。だが、ヒントはこれだけだろうか? 何か、見落としてはいないだろうか? 例えば、エリックは言った。昨日の夜、何故カーソン・パロットがここにいるのかと。確かに、あの時は適当に自分は答えを出してしまったが、当たっているとは限らない。では、もし違っていたとしたらパロットは何をしに現れたのか?
「カーソン・パロットと話しは出来ないかな?」
「え?」
「昨日会ったでしょ? 確かに何故あのフロアにいたのか気になって」
「いや、流石に無理じゃないかな。でも、カルメンさんにお願いしたらもしかすると話せるかも」
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しかし、カルメンは外出をしており、結局日中に会うことは出来なかった。
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