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5章 呪いの海
06 推理
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「ヒーリーさんを殺した犯人はなんて恐ろしいことを考えつくのかしら! そうでしょ? あなた」
同意を求められたヘンリーは「あぁ、そうだな」と言った。だが、顔は困惑していた。
「しかしだな、こうして私達は船の中に取り残されてしまった。君の推理では犯人は私達の中にいると見ているようだが、これがいなくなった連中の仕業だとは思わないのか? でなければ、私達はずっとその殺人犯と一緒にいることになるぞ」
「そんなの嫌!」とロウェナは叫ぶ。
「救命ボートはないのか?」とラストが訊いてきたので警部がそれに答える。
「気にはしていたが、船をあちこち歩いた時にはそんなものは見当たらなかったな」
「救命ボートもないのか! おい、警察ならとっとと犯人を見つけないか! 探偵だっていいぞ」
「そもそもまだ殺人事件だと決まったわけじゃないでしょ」と医者は言う。
「でも、彼が毒殺だって」と、ロウェナはジークを指差して言う。それに対して医者は「いや、そもそも可能性の話しでしょ」と言った。
「何が違うって言うの!」とロウェナもむきになる。
また、混乱だ。
それを鎮めるかのようにずっと黙りだった少佐が咳払いをする。全員がそれで一瞬にして静まり返った。
「私はバーソロミュー・ムーアだ。知っている者もいるようだが、まずは彼の話しを皆は聞くべきだろう」
そう言って少佐はジークを見た。
どうしてこの人はこんな状況なのに冷静なんだ?
全員はジークの方へ振り向く。
「確かに、ブラウンさんの仰る通り可能性に過ぎません。ただ、まず皆さんに確認したいことがあります。この招待は皆さんは初めてではありませんよね? どうですか? 初めての方だけ挙手をお願いします」
そう言ってジークと警部が手をあげた。しかし、それ以外の全員は手はおろしたままだった。
「では、皆さんは初めてではないと言うことですね」
警部以外全員が頷いた。
「分かりました。では、次の質問です。皆さんはヒーリーさんとこれを除き直接会ったことがある人はいますか? 今度はあるという人は挙手をお願いします」
すると、自分と警部以外全員が挙手をした。
「では、皆さんはどこかでヒーリーさんが普段から内服薬があることを知れた可能性がある人物です。勿論、ラストさんの仰る通り、それは知らなかった人物もいたかもしれません。しかし、それは確かめようのない事実でしょう。訊かれてはいと犯人が素直に答えるとは思えませんし、それにそれ事態は分からなくても問題ないことです。重要なことは一つ。ただ、一点のみです。犯人はどうやって薬をすり替えることが出来たのか? その謎につきるのです。そして、その人物こそが今回の犯行の容疑者なのです。さて、犯人は事前にヒーリーさんが内服薬を持ち歩いていたことを知っていたという前提で考えると、私と警部は昨日ヒーリーさんとの会話で偶然知ることが出来ました。この招待も初めてでルールも知らない私と警部がこの事件を計画するのはまず不可能です」
「そもそもあんた達を疑ったことはないよ」とヘンリーは言う。
「話しを続けます。先程ラストさんが仰る通り、犯人が薬をすり替えるタイミングはとても限られた状況にあります。乗船して直ぐに私達は案内人によって食事の席へと案内されました。その場所から各自部屋に行くまでの間にすり替えられたと考えられます。しかし、それは実際にとても困難でしょう。何故ならば、あの食事の時間、席を立ったのはたったの二人だけ。しかも、その一人は殺害されたヒーリーさんなのです。もう一人はミラーさんですが、ミラーさんは私達の席に向かっただけで殺害されたヒーリーさんには近づかなかった。食事が全員終えるまで、ヒーリーさんに近づいた人は一人もいなかったんです」
「なら、尚更誰だろうと不可能じゃないか」
「正確には、食後の全員が自分達の部屋へ向かったその時か、食事の前の時しかありません」
「いや、ヒーリーは君達の到着する前に現れた。それ以降誰も彼に近づいた者はいなかった」とミラーが言った。
「では、全員が食後に同じ階段をのぼって部屋のある通路へと向かったあのタイミングしかないことになります」
「なら、移動中にか」とラストは言った。
「いえ、タイミングはそこぐらいでしょうがやはり可能とは言えないでしょう。ヒーリーさんに気づかれずに薬を入れ替えるなんてことはね」
「それじゃ、やっぱり不可能じゃないか!」
「申し訳ありません、私は順に話しを追っているので、かなり遠回りに聞こえるかもしれませんが、一人だけ可能な人物がいるんです」
「待ってくれ! ということは犯人は分かったのか?」と警部は興奮気味に訊いた。
「はい」
「おお!」と声があがった。
「誰なんだ、そいつは」
「その前に説明しておくことがあります。それは、今回の事件で犯人にとって予定にない出来事が二つ起きています。犯行はいくら計画を練ったところでうまくいかないのは、犯人にとって理想な未来にいつだってならないからです。それが出来るのは未来が見える人物でしょう。さて、一つ目は、急遽一泊することになった件です。誰もが想定外。これにはあなた達も案内人に質問攻めをしたでしょ? 二つ目は案内人含め船長まで姿を消したことです。私達だけが取り残された。これも想定外なことです。さて、私は二つと言いましたが、実は三つ目が存在するのですが、それは後で話しましょう。さて、となると犯人にとって不都合は何か? 私は最初薬なら身体検査でも取り上げられないから犯人は凶器にそれを選んだと言いましたが、正確には別の可能性もあります。それは、薬なら他の凶器に比べ隠し通せるということです。流石に鼻の利く犬がいたら別でしょうが、私達がボディーチェックを受けた際は犬までは登場しませんでした。それは犯人も見込んでいたのです」
「だが、君の推理だと前者の説明の方が納得いくんじゃないのか? 薬なら流石に取り上げたりはしないだろ。それがないと死ぬとか言えば」とラストは言った。
「見つかれば犯行後に自分が疑われるからです」
「おお! 確かに」
「逆に見つからなければそれは証人になると犯人は考えたのです。念入りなチェックはポケットの中身、鞄の中身も調べられましたから。しかし、証人は消えました」
「あぁ、因みになんだが証人がいたとしても疑われない証拠にはならんことは一様付け加えさせてくれ」と警部は言った。
「あんなに念入りなボディーチェックだったのにか?」とラストは訊いた。
「どこまでやっていようと完璧とはならんだろう。素っ裸にでもしない限りな。まぁ、これも犯人の想定外に付け加えるか?」
ジークはクスッと笑った。
「いいでしょう。さて、犯人にとって想定外はもう一つあります。それは急遽決まった一泊です。犯人にとって想定外のことでした。しかし、ここに付け加えなければならないことはもう一つあります。被害者も同じく急遽決まった一泊に困惑したのです。被害者は血圧と糖尿の薬を内服していましたが、例えば血圧の薬は毎日内服しなければ効果は出ません。無論、一日ぐらい抜いたぐらいでは効果がゼロになるわけではないでしょう。しかし、もし薬があるならそれにこしたことはない。だから、被害者はダメもとである人物に頼んだんです」
「分かったぞ。犯人は医者のイアン・ブラウンだ!」とラストが言った。
皆がブラウンを見た。
「待ってくれ。動機は何だ?」
ジークは咳払いをした。
「彼ではありません。医者だからと言って血圧と糖尿の薬を普段から持ち歩くでしょうか? まぁ、処置道具とか救命に役立つものなら別でしょうが」
「え? 違うのか?」
「頼むとしたら自分と似た境遇の人物に頼むでしょう」
「境遇?」
「同じ糖尿で高血圧な人物、そうでしょ? ヘンリー・アービン」
皆が今度はヘンリーを見た。確かに、この中で高血圧で糖尿らしい見た目をしている。
「……」
「彼は人殺しをする人ではないわ! ねぇ、そうでしょ? 確かにヘンリーは高血圧だけど、どうして彼になるの?」
「その理由は先程言った三つ目の想定外ですよ、ロウェナさん。彼は親切心で薬を渡した。しかも余分にね。でも、その中に毒薬が含まれていたのです」
「つまり、事故だったのか。なら、犯人の狙いは本当はヘンリーだったと?」
「いいえ、違います。犯人はうまいこと自分に疑われないよう薬を主人のと混在させ隠したのです。よく言うでしょ、木を隠すなら森の中と。きっと、主人の薬はロウェナさんが管理していた筈です。自分には疑いの目を向けさせないように薬は自分は持っていないことにし、夫には完璧なアリバイを与えた上で本当に殺害したかった人物にその毒をもる予定だったのです。いったい誰を殺すつもりでいたのかは知りませんが、ロウェナさん」
「つまり、彼女が!?」
「待ってよ。証拠はあるの? 何で私が犯人なのよ」
「彼が証言者です。無論、ヘンリーさんが証言なさらなくても、被害者の部屋にある薬の袋からヘンリーさんの指紋が検出される筈です。どうです?」
「彼女は関係ない。私の仕業だ」
「ヘンリー!」
「あなたがそう言いきれば、彼女の犯行だと立証するのはほぼ不可能になりますね。しかし、あなたに出来ますか? 毒薬の入手の説明が」
「いいのよ、ヘンリー。私がちょっとミスったのよ。薬の管理は私がするから問題ないと思っていたの。彼はおっちょこちょいだから」
「ロウェナ!」
「でも、何で急に分かったの? そんなヒントあったかしら?」
「ええ、ありましたよ。私の推理はこうです。犯人は毒薬を用意した。この時点で衝動殺人はまず否定されます。また、自殺も否定されます。その説明は先程しましたので割愛します。さて、計画的な殺人の割にかなり犯人にとって想定外なことが連発したと思います。急なゲーム、宿泊。この招待は何度かあり、それを受けた犯人はこの状況を利用した犯行を計画した筈が状況が読めない事態になってしまった。多分、そうなったのは私達が招待されたからでしょう。犯人にとって計画は中止すべき状況でした。もしくは、偶然犯行のチャンスが訪れたのか? この二つでしょうが後者はあまりにもギャンブルに近いリスクがあります。計画にはないことをアドリブでやらねばならないからです。そんな度胸が犯人にはあったのでしょうか? では、前者はどうでしょうか? しかし、実際に死人が出てしまった。となれば、犯人は度胸のある人物だと当初は思いました。それで、後者であることを考え推理を組み立てました。そう考えると、犯人は急な一泊をむしろ利用して、薬に困った彼に彼が求めている薬を渡す口実に毒薬を渡せば計画はスムーズにいくと。ですが、それは賢いとは言えません。犯人は実行前に気づかないでしょうか? 例えば医者が犯人の場合、ラストさんのように疑いの目を向けられたかもしれない。ヘンリーさんも実際に血圧の薬を持っていた。彼も疑われる可能性はある。他の方はどうでしょうか? 高血圧でもなさそうな人物ばかりで、その人物が薬を渡してきたら不思議に思われるでしょう。いや、相手は酒も飲んでいたし気にせずありがたく受け取ったかもしれません。だとしたら本当に度胸のある犯人です! ですが、そこでふと気になることがあります。どうして今なのか? これは直ぐに分かりました。皆さん前にも似たような招待で会っていたので、むしろこういった状況ではないと中々会えない人物だったからでしょう。ならば、次でも良かった筈だと思ったんです。それとも次はなかったのか? 確かに必ずしも招待されるのか、私は正直まだここのルールは分かりません。しかし、もし次のチャンスが犯人にはあったとしたらどうか? その可能性を考えた時にふと、まだ考えていなかった道を見つけたのです。衝動的殺人でもなく、自殺でもなく、計画的でもなかった。事故という新たな可能性をです。しかし、そうなると毒薬は誰かを殺害する目的だったという可能性にいきつくのです。ですが、残念ながら私にはそれ以上先へは行けない。推理小説ならば、もっと先まで推理し、本当はこの人物を殺害する筈だったと言い当てられたでしょう」
ロウェナはクスッと笑った。
「全く、普通の人ならそこまで考えないわ。遺体があるだけでパニックになって何も考えられなくなるのが普通でしょ?」
「ええ、分かります」
「いいえ、分からない筈よ。だって、普通ではないもの、こんなのって」
いや、ロウェナの言う通り現実に目の前で殺人事件に遭遇したらパニックで頭は真っ白になって今みたいな推理を皆の前で披露することなんて出来ないだろう。そんな人物は存在しない。殺人事件に慣れた探偵なんてね。
そんな探偵は空想でしか生きられない。
「それに、あなたは本当は頭の中で分かっている筈だわ。だってあなた、自分で言ったじゃない。中々会えない人物って」
「少佐ですか?」
「ほら、当たった」
同意を求められたヘンリーは「あぁ、そうだな」と言った。だが、顔は困惑していた。
「しかしだな、こうして私達は船の中に取り残されてしまった。君の推理では犯人は私達の中にいると見ているようだが、これがいなくなった連中の仕業だとは思わないのか? でなければ、私達はずっとその殺人犯と一緒にいることになるぞ」
「そんなの嫌!」とロウェナは叫ぶ。
「救命ボートはないのか?」とラストが訊いてきたので警部がそれに答える。
「気にはしていたが、船をあちこち歩いた時にはそんなものは見当たらなかったな」
「救命ボートもないのか! おい、警察ならとっとと犯人を見つけないか! 探偵だっていいぞ」
「そもそもまだ殺人事件だと決まったわけじゃないでしょ」と医者は言う。
「でも、彼が毒殺だって」と、ロウェナはジークを指差して言う。それに対して医者は「いや、そもそも可能性の話しでしょ」と言った。
「何が違うって言うの!」とロウェナもむきになる。
また、混乱だ。
それを鎮めるかのようにずっと黙りだった少佐が咳払いをする。全員がそれで一瞬にして静まり返った。
「私はバーソロミュー・ムーアだ。知っている者もいるようだが、まずは彼の話しを皆は聞くべきだろう」
そう言って少佐はジークを見た。
どうしてこの人はこんな状況なのに冷静なんだ?
全員はジークの方へ振り向く。
「確かに、ブラウンさんの仰る通り可能性に過ぎません。ただ、まず皆さんに確認したいことがあります。この招待は皆さんは初めてではありませんよね? どうですか? 初めての方だけ挙手をお願いします」
そう言ってジークと警部が手をあげた。しかし、それ以外の全員は手はおろしたままだった。
「では、皆さんは初めてではないと言うことですね」
警部以外全員が頷いた。
「分かりました。では、次の質問です。皆さんはヒーリーさんとこれを除き直接会ったことがある人はいますか? 今度はあるという人は挙手をお願いします」
すると、自分と警部以外全員が挙手をした。
「では、皆さんはどこかでヒーリーさんが普段から内服薬があることを知れた可能性がある人物です。勿論、ラストさんの仰る通り、それは知らなかった人物もいたかもしれません。しかし、それは確かめようのない事実でしょう。訊かれてはいと犯人が素直に答えるとは思えませんし、それにそれ事態は分からなくても問題ないことです。重要なことは一つ。ただ、一点のみです。犯人はどうやって薬をすり替えることが出来たのか? その謎につきるのです。そして、その人物こそが今回の犯行の容疑者なのです。さて、犯人は事前にヒーリーさんが内服薬を持ち歩いていたことを知っていたという前提で考えると、私と警部は昨日ヒーリーさんとの会話で偶然知ることが出来ました。この招待も初めてでルールも知らない私と警部がこの事件を計画するのはまず不可能です」
「そもそもあんた達を疑ったことはないよ」とヘンリーは言う。
「話しを続けます。先程ラストさんが仰る通り、犯人が薬をすり替えるタイミングはとても限られた状況にあります。乗船して直ぐに私達は案内人によって食事の席へと案内されました。その場所から各自部屋に行くまでの間にすり替えられたと考えられます。しかし、それは実際にとても困難でしょう。何故ならば、あの食事の時間、席を立ったのはたったの二人だけ。しかも、その一人は殺害されたヒーリーさんなのです。もう一人はミラーさんですが、ミラーさんは私達の席に向かっただけで殺害されたヒーリーさんには近づかなかった。食事が全員終えるまで、ヒーリーさんに近づいた人は一人もいなかったんです」
「なら、尚更誰だろうと不可能じゃないか」
「正確には、食後の全員が自分達の部屋へ向かったその時か、食事の前の時しかありません」
「いや、ヒーリーは君達の到着する前に現れた。それ以降誰も彼に近づいた者はいなかった」とミラーが言った。
「では、全員が食後に同じ階段をのぼって部屋のある通路へと向かったあのタイミングしかないことになります」
「なら、移動中にか」とラストは言った。
「いえ、タイミングはそこぐらいでしょうがやはり可能とは言えないでしょう。ヒーリーさんに気づかれずに薬を入れ替えるなんてことはね」
「それじゃ、やっぱり不可能じゃないか!」
「申し訳ありません、私は順に話しを追っているので、かなり遠回りに聞こえるかもしれませんが、一人だけ可能な人物がいるんです」
「待ってくれ! ということは犯人は分かったのか?」と警部は興奮気味に訊いた。
「はい」
「おお!」と声があがった。
「誰なんだ、そいつは」
「その前に説明しておくことがあります。それは、今回の事件で犯人にとって予定にない出来事が二つ起きています。犯行はいくら計画を練ったところでうまくいかないのは、犯人にとって理想な未来にいつだってならないからです。それが出来るのは未来が見える人物でしょう。さて、一つ目は、急遽一泊することになった件です。誰もが想定外。これにはあなた達も案内人に質問攻めをしたでしょ? 二つ目は案内人含め船長まで姿を消したことです。私達だけが取り残された。これも想定外なことです。さて、私は二つと言いましたが、実は三つ目が存在するのですが、それは後で話しましょう。さて、となると犯人にとって不都合は何か? 私は最初薬なら身体検査でも取り上げられないから犯人は凶器にそれを選んだと言いましたが、正確には別の可能性もあります。それは、薬なら他の凶器に比べ隠し通せるということです。流石に鼻の利く犬がいたら別でしょうが、私達がボディーチェックを受けた際は犬までは登場しませんでした。それは犯人も見込んでいたのです」
「だが、君の推理だと前者の説明の方が納得いくんじゃないのか? 薬なら流石に取り上げたりはしないだろ。それがないと死ぬとか言えば」とラストは言った。
「見つかれば犯行後に自分が疑われるからです」
「おお! 確かに」
「逆に見つからなければそれは証人になると犯人は考えたのです。念入りなチェックはポケットの中身、鞄の中身も調べられましたから。しかし、証人は消えました」
「あぁ、因みになんだが証人がいたとしても疑われない証拠にはならんことは一様付け加えさせてくれ」と警部は言った。
「あんなに念入りなボディーチェックだったのにか?」とラストは訊いた。
「どこまでやっていようと完璧とはならんだろう。素っ裸にでもしない限りな。まぁ、これも犯人の想定外に付け加えるか?」
ジークはクスッと笑った。
「いいでしょう。さて、犯人にとって想定外はもう一つあります。それは急遽決まった一泊です。犯人にとって想定外のことでした。しかし、ここに付け加えなければならないことはもう一つあります。被害者も同じく急遽決まった一泊に困惑したのです。被害者は血圧と糖尿の薬を内服していましたが、例えば血圧の薬は毎日内服しなければ効果は出ません。無論、一日ぐらい抜いたぐらいでは効果がゼロになるわけではないでしょう。しかし、もし薬があるならそれにこしたことはない。だから、被害者はダメもとである人物に頼んだんです」
「分かったぞ。犯人は医者のイアン・ブラウンだ!」とラストが言った。
皆がブラウンを見た。
「待ってくれ。動機は何だ?」
ジークは咳払いをした。
「彼ではありません。医者だからと言って血圧と糖尿の薬を普段から持ち歩くでしょうか? まぁ、処置道具とか救命に役立つものなら別でしょうが」
「え? 違うのか?」
「頼むとしたら自分と似た境遇の人物に頼むでしょう」
「境遇?」
「同じ糖尿で高血圧な人物、そうでしょ? ヘンリー・アービン」
皆が今度はヘンリーを見た。確かに、この中で高血圧で糖尿らしい見た目をしている。
「……」
「彼は人殺しをする人ではないわ! ねぇ、そうでしょ? 確かにヘンリーは高血圧だけど、どうして彼になるの?」
「その理由は先程言った三つ目の想定外ですよ、ロウェナさん。彼は親切心で薬を渡した。しかも余分にね。でも、その中に毒薬が含まれていたのです」
「つまり、事故だったのか。なら、犯人の狙いは本当はヘンリーだったと?」
「いいえ、違います。犯人はうまいこと自分に疑われないよう薬を主人のと混在させ隠したのです。よく言うでしょ、木を隠すなら森の中と。きっと、主人の薬はロウェナさんが管理していた筈です。自分には疑いの目を向けさせないように薬は自分は持っていないことにし、夫には完璧なアリバイを与えた上で本当に殺害したかった人物にその毒をもる予定だったのです。いったい誰を殺すつもりでいたのかは知りませんが、ロウェナさん」
「つまり、彼女が!?」
「待ってよ。証拠はあるの? 何で私が犯人なのよ」
「彼が証言者です。無論、ヘンリーさんが証言なさらなくても、被害者の部屋にある薬の袋からヘンリーさんの指紋が検出される筈です。どうです?」
「彼女は関係ない。私の仕業だ」
「ヘンリー!」
「あなたがそう言いきれば、彼女の犯行だと立証するのはほぼ不可能になりますね。しかし、あなたに出来ますか? 毒薬の入手の説明が」
「いいのよ、ヘンリー。私がちょっとミスったのよ。薬の管理は私がするから問題ないと思っていたの。彼はおっちょこちょいだから」
「ロウェナ!」
「でも、何で急に分かったの? そんなヒントあったかしら?」
「ええ、ありましたよ。私の推理はこうです。犯人は毒薬を用意した。この時点で衝動殺人はまず否定されます。また、自殺も否定されます。その説明は先程しましたので割愛します。さて、計画的な殺人の割にかなり犯人にとって想定外なことが連発したと思います。急なゲーム、宿泊。この招待は何度かあり、それを受けた犯人はこの状況を利用した犯行を計画した筈が状況が読めない事態になってしまった。多分、そうなったのは私達が招待されたからでしょう。犯人にとって計画は中止すべき状況でした。もしくは、偶然犯行のチャンスが訪れたのか? この二つでしょうが後者はあまりにもギャンブルに近いリスクがあります。計画にはないことをアドリブでやらねばならないからです。そんな度胸が犯人にはあったのでしょうか? では、前者はどうでしょうか? しかし、実際に死人が出てしまった。となれば、犯人は度胸のある人物だと当初は思いました。それで、後者であることを考え推理を組み立てました。そう考えると、犯人は急な一泊をむしろ利用して、薬に困った彼に彼が求めている薬を渡す口実に毒薬を渡せば計画はスムーズにいくと。ですが、それは賢いとは言えません。犯人は実行前に気づかないでしょうか? 例えば医者が犯人の場合、ラストさんのように疑いの目を向けられたかもしれない。ヘンリーさんも実際に血圧の薬を持っていた。彼も疑われる可能性はある。他の方はどうでしょうか? 高血圧でもなさそうな人物ばかりで、その人物が薬を渡してきたら不思議に思われるでしょう。いや、相手は酒も飲んでいたし気にせずありがたく受け取ったかもしれません。だとしたら本当に度胸のある犯人です! ですが、そこでふと気になることがあります。どうして今なのか? これは直ぐに分かりました。皆さん前にも似たような招待で会っていたので、むしろこういった状況ではないと中々会えない人物だったからでしょう。ならば、次でも良かった筈だと思ったんです。それとも次はなかったのか? 確かに必ずしも招待されるのか、私は正直まだここのルールは分かりません。しかし、もし次のチャンスが犯人にはあったとしたらどうか? その可能性を考えた時にふと、まだ考えていなかった道を見つけたのです。衝動的殺人でもなく、自殺でもなく、計画的でもなかった。事故という新たな可能性をです。しかし、そうなると毒薬は誰かを殺害する目的だったという可能性にいきつくのです。ですが、残念ながら私にはそれ以上先へは行けない。推理小説ならば、もっと先まで推理し、本当はこの人物を殺害する筈だったと言い当てられたでしょう」
ロウェナはクスッと笑った。
「全く、普通の人ならそこまで考えないわ。遺体があるだけでパニックになって何も考えられなくなるのが普通でしょ?」
「ええ、分かります」
「いいえ、分からない筈よ。だって、普通ではないもの、こんなのって」
いや、ロウェナの言う通り現実に目の前で殺人事件に遭遇したらパニックで頭は真っ白になって今みたいな推理を皆の前で披露することなんて出来ないだろう。そんな人物は存在しない。殺人事件に慣れた探偵なんてね。
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「ほら、当たった」
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