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10章 悲劇の女神
08 ルーカス・ノリントンの話
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リリー・セイバーヘーゲンが家の中に入っていくのを二人は見届けると、マーニーは「それで次はどうする?」と訊いてきた。
「手掛かりはまだ見つかっていない凶器になると思う。それから、セイバーヘーゲンとラウンズベリーとでトラブルがなかったかも調べないと」
「なら、効率よく二手に分かれない? 私はその二人のトラブルがあるか調べるよ」
「それじゃ凶器は私が」
「でも、凶器見つかると思う?」
「実は訊いてみたい人がいるんだ」
「え? 誰?」
「殺人については殺人のプロに訊くよ」
「それって……」
二手に分かれジークは受付でルーカス・ノリントンに会った。両肘をつき、こちらをじっと冷徹な目線を向け、セミロングの黒髪にやや痩せ細った体。とても健康そうな顔色をしていないのに、どうしてか怖いと感じる。
「よぉ、探偵。あんたのこと知ってるぞ。俺に用だって話しじゃないか」
「ある事件の調査をしている」
「ああ、殺人か」
「いや、殺人未遂だ」
「なんだ」と男はつまらなさそうにした。
「それで、俺に用ってことは殺人鬼からアドバイスでも訊きたいのか?」
ジークはじっと彼を見た。彼もジークを見返した。そして、彼は鼻で笑った。
「俺にアドバイスを聞こうとする時点でたいした探偵じゃないんだな、あんた」
「使われた凶器はあんたが使用していた凶器と同じものだ」
「へぇー、今ので少し興味がわいたよ。それで?」
「だが、肝心の凶器が見つかっていない」
「犯人が誰なのかを知りたいんだろ? で、俺に言い当てさせたいなら事件の全てを俺に話せ」
「その必要はない。犯人は分かっている。ただ、問題の証拠が見当たらない」
「ああ、分かったよ。つまり、凶器を見つけたいわけだ。なら、とっとと処分した方がいいな」
「警察は徹底的に凶器を探している。周辺のゴミまで調べているんだ。でも、見つかっていない。川にも」
「なる程。警察は犯人を捕まえる為なら平気で泥だけになろうと汚く臭くなろうと必死になるんだな」
男はそう言って大笑いした。
「あんたは凶器を捨てなかった。何故だ?」
「愛着だよ。同じ凶器で殺そうと思ってね。爆弾魔が爆弾にこだわるのはそれがそいつの作品だからだよ。それと同じさ。でも、お前の言う犯人は俺とは同じ理由じゃないだろうな」
「そう思うか?」
「俺が殺人かと訊いた時に否定した。未遂だって。となると、事件はせいぜい一つしか起きていない。なら、俺の愛着とは違う。それに言っちゃあなんだが、あの凶器を使っておきながら人を殺せなかったなんてそんな失態は俺はしない」
「あなたは自分を特別だと思い込んでいるようだが、あなたは単なる殺人鬼だ。確かに世間はお前を恐れているだろう。だが、それはお前が特別だからではない。自分が殺されたくないから人は生にしがみつき恐れる。それは生物の本能でお前が特別だからじゃない。君のような人間は誰かにお前は狂っていると言われたがる。それが連中にとっては褒め言葉だからだ。それを言われることで心地よく感じる。たまらなくなる。自分が特別に感じるからだ。しかし、お前は特別なんかじゃない。ただのクズだ」
そこまで言われ男から笑いが消えた。
「そうだ。あまり下品な笑いはしない方がいい。品格を損なうだけだ。と、今更あなたに言ってもしょうがないけれど」
「いいか。俺をあんたは挑発しているが、それは逆効果だ。むしろ、俺はあんたのことが嫌いになった」
「私を殺したくなったか?」
「なに?」
「私を殺したくなったのかと訊いたんだ」
「……ハハ、ハハハハ!! 今ので分かったよ。お前の方がイカれ狂っているよ。それとも馬鹿なのか。俺とお前との間に隔てるガラスがなければ俺はこの両手でお前の喉を絞め殺しているよ。お前は守られているからそんなデカい口がきけるんだ」
「お前こそ勘違いしている。今のお前に何が出来る? いや、出来やしない。自分の立場をお前は分かっていないだけだ。殺されるのはお前の方だ。刑が執行され、あんたは縛り首だ。死ぬのは私ではない。ルーカス・ノリントン、君だ。君こそデカい口を叩いているが、私がまず死ぬことはあり得ない。君にはあってもね」
「本当にムカつく野郎だ。だが、もし挑発が目的なら見事だよ」
「交渉しないか?」
「あ?」
「私はここから出てお前が殺した警部から奪った捜査資料を私が調査してもう一度集める。実は君のいた孤児院には前に行ったことがあるんだ。違う事件の捜査でだけど」
「……」
「君にとって過去はトラウマでは? 誰にでもトラウマはある。君のトラウマが何なのかそれを言い当てよう。探偵として」
「分かった! いいだろう。だから人の傷口を抉るような真似はよせ。俺はあんたの方が怖いよ」
「では、ノリントン、君ならどう考える」
「凶器を捨てていなかったという前提なら、俺の時は凶器を普通に仕事場で使っていた。まぁ、今回は違うだろう。となると、凶器はまだ身近な場所、目に届く範囲にある可能性がある。かつ、安全な場所だ。例えば、警察でもそこは探さないだろうという場所だ」
「警察でもそこは探さない場所……」
ジークは席を立った。
「分かったようだな」
「手掛かりはまだ見つかっていない凶器になると思う。それから、セイバーヘーゲンとラウンズベリーとでトラブルがなかったかも調べないと」
「なら、効率よく二手に分かれない? 私はその二人のトラブルがあるか調べるよ」
「それじゃ凶器は私が」
「でも、凶器見つかると思う?」
「実は訊いてみたい人がいるんだ」
「え? 誰?」
「殺人については殺人のプロに訊くよ」
「それって……」
二手に分かれジークは受付でルーカス・ノリントンに会った。両肘をつき、こちらをじっと冷徹な目線を向け、セミロングの黒髪にやや痩せ細った体。とても健康そうな顔色をしていないのに、どうしてか怖いと感じる。
「よぉ、探偵。あんたのこと知ってるぞ。俺に用だって話しじゃないか」
「ある事件の調査をしている」
「ああ、殺人か」
「いや、殺人未遂だ」
「なんだ」と男はつまらなさそうにした。
「それで、俺に用ってことは殺人鬼からアドバイスでも訊きたいのか?」
ジークはじっと彼を見た。彼もジークを見返した。そして、彼は鼻で笑った。
「俺にアドバイスを聞こうとする時点でたいした探偵じゃないんだな、あんた」
「使われた凶器はあんたが使用していた凶器と同じものだ」
「へぇー、今ので少し興味がわいたよ。それで?」
「だが、肝心の凶器が見つかっていない」
「犯人が誰なのかを知りたいんだろ? で、俺に言い当てさせたいなら事件の全てを俺に話せ」
「その必要はない。犯人は分かっている。ただ、問題の証拠が見当たらない」
「ああ、分かったよ。つまり、凶器を見つけたいわけだ。なら、とっとと処分した方がいいな」
「警察は徹底的に凶器を探している。周辺のゴミまで調べているんだ。でも、見つかっていない。川にも」
「なる程。警察は犯人を捕まえる為なら平気で泥だけになろうと汚く臭くなろうと必死になるんだな」
男はそう言って大笑いした。
「あんたは凶器を捨てなかった。何故だ?」
「愛着だよ。同じ凶器で殺そうと思ってね。爆弾魔が爆弾にこだわるのはそれがそいつの作品だからだよ。それと同じさ。でも、お前の言う犯人は俺とは同じ理由じゃないだろうな」
「そう思うか?」
「俺が殺人かと訊いた時に否定した。未遂だって。となると、事件はせいぜい一つしか起きていない。なら、俺の愛着とは違う。それに言っちゃあなんだが、あの凶器を使っておきながら人を殺せなかったなんてそんな失態は俺はしない」
「あなたは自分を特別だと思い込んでいるようだが、あなたは単なる殺人鬼だ。確かに世間はお前を恐れているだろう。だが、それはお前が特別だからではない。自分が殺されたくないから人は生にしがみつき恐れる。それは生物の本能でお前が特別だからじゃない。君のような人間は誰かにお前は狂っていると言われたがる。それが連中にとっては褒め言葉だからだ。それを言われることで心地よく感じる。たまらなくなる。自分が特別に感じるからだ。しかし、お前は特別なんかじゃない。ただのクズだ」
そこまで言われ男から笑いが消えた。
「そうだ。あまり下品な笑いはしない方がいい。品格を損なうだけだ。と、今更あなたに言ってもしょうがないけれど」
「いいか。俺をあんたは挑発しているが、それは逆効果だ。むしろ、俺はあんたのことが嫌いになった」
「私を殺したくなったか?」
「なに?」
「私を殺したくなったのかと訊いたんだ」
「……ハハ、ハハハハ!! 今ので分かったよ。お前の方がイカれ狂っているよ。それとも馬鹿なのか。俺とお前との間に隔てるガラスがなければ俺はこの両手でお前の喉を絞め殺しているよ。お前は守られているからそんなデカい口がきけるんだ」
「お前こそ勘違いしている。今のお前に何が出来る? いや、出来やしない。自分の立場をお前は分かっていないだけだ。殺されるのはお前の方だ。刑が執行され、あんたは縛り首だ。死ぬのは私ではない。ルーカス・ノリントン、君だ。君こそデカい口を叩いているが、私がまず死ぬことはあり得ない。君にはあってもね」
「本当にムカつく野郎だ。だが、もし挑発が目的なら見事だよ」
「交渉しないか?」
「あ?」
「私はここから出てお前が殺した警部から奪った捜査資料を私が調査してもう一度集める。実は君のいた孤児院には前に行ったことがあるんだ。違う事件の捜査でだけど」
「……」
「君にとって過去はトラウマでは? 誰にでもトラウマはある。君のトラウマが何なのかそれを言い当てよう。探偵として」
「分かった! いいだろう。だから人の傷口を抉るような真似はよせ。俺はあんたの方が怖いよ」
「では、ノリントン、君ならどう考える」
「凶器を捨てていなかったという前提なら、俺の時は凶器を普通に仕事場で使っていた。まぁ、今回は違うだろう。となると、凶器はまだ身近な場所、目に届く範囲にある可能性がある。かつ、安全な場所だ。例えば、警察でもそこは探さないだろうという場所だ」
「警察でもそこは探さない場所……」
ジークは席を立った。
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