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支配の蠱毒
放課後の呼び出し
しおりを挟む朝は送るし、学校が終わったら迎えに行くという呂希さんの申し出を丁重に断って、いつものように高校に向かった。
授業料の高い私立高校に通う学生なら送迎付きでも違和感はないけれど、私の通っている高校はこの学区内の中でも一番安価な場所である。
その上、事情があるので私の場合は授業料が免除されている。
そんな私が呂希さんに送迎をされるというのは、悪目立ちしすぎてしまう気がする。
人の目ばかりを気にしてしまうのは、情けない気がするけれど。
でも、やっぱりあんまりよくないと思う。
誰に対して言い訳しているのか分からないけれど、そんなことを考えながら校門をくぐった。
私のことはともかく、昨日から何度も鳴っている電話に、呂希さんは出たほうが良いのではないかと伝えると「えー、嫌」と返事をされてしまった。
それから良いことを思いついたように「ご飯作って待ってるね」と言われたので、それも丁重にお断りさせてもらった。
今日もアルバイトがある。夕飯は雛菊さんのお店で食べることができる。
そんなやりとりをしたあと、「いってらっしゃい」と見送って貰った。
(そういえば、鍵、呂希さんに預けたままだ……)
いってらっしゃいと誰かに見送ってもらうのなんて――いつぶりだろう。
胸の中があたたかい。
昨日からずっと、ふわふわした浮ついた気持ちが続いている。
もしかしたらずっと、私は自分で思っている以上に、寂しかったのかもしれない。
自分のことを思うと、舵を失った寄る辺のない小舟が脳裏に思い浮かぶ。
私はずっとその船の上で、両手を組んで空を見上げている。
どこに行くのかは分からない。ただ、流されるままに船に揺られているだけだ。
まるで――七夕に、子供が川に流した笹船みたいに。
不安を不安とも思わずに、日々をいたずらに浪費している。
ただ、生きるために。
そこに、理由なんてなかった。
(急に消えてしまう気がするのに。まるで、甘い毒みたい……)
出会ったときと同じように、呂希さんはふらりといなくなってしまう気がする。
それなのに、その甘さは私の生活を、じわじわと浸食しはじめている。
私は――このままで良いのだろうか。
流されるだけ流されて、その甘さに浸りきってしまえば、呂希さんを失ってしまったときに、その先には深い奈落が待っているようで恐ろしい。
誰かと深く関わるのは苦手だ。
それはいつか、消えてしまうものだから。
「……二逢杏樹さん。放課後、進路指導室に来てください」
一日心ここにあらずで過ごしていた。
担任から話しかけられたのは、午前中の授業が終わり終了のチャイムが響いた後のこと。
お弁当とお茶の準備は、今日はちゃんとしてきた。
呂希さんの朝ごはんを作るついでに自分の分の準備もできた。
いつも必要最低限のものしか入っていない冷蔵庫には、潤沢な食料や飲み物が取り揃えられていたので、少しばかり驚いた。
「辰爾先生が、二逢さんの生活について話があるみたいなの」
「はい……」
辰爾先生とは、社会の先生だ。
生徒の進路指導や、生活指導も行っている、まだ三十代そこそこの若い先生である。
個人的に話をしたことは一度もない。
断るわけにもいかずに、私は頷いた。
担任が居なくなると、茜が心配そうな表情を浮かべて私の元へやってきた。
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