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属国の姫は皇帝に虐められたい

愛のある嗜虐

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 ジークハルト様が厩から帰ってくるのを待つ間、私は館の探索をすることにした。
 誰もいないと言っていたし、自由にしても怒られないだろうと思う。

 リュシーヌ王国の城の裏庭から出た先に深い森へと続く林があった。栗拾いをしたり、野草を拾ったり、その先の綺麗な水をたたえた湖で水浴びなどをしたものである。

 とても懐かしい。

 広いリビングを抜けて、きょろきょろしながら廊下を歩く。食堂や調理場があり、たっぷりとお湯が溜まり絶えずあふれているお風呂がある。

 後宮のお風呂の方が大きいけれど、負けず劣らず大きく豪華な白い石造りのお風呂場だった。
 どこもかしこも清潔で、掃除が行き届いている。お城もそうだし後宮もそうだけれど、建物が大きいので中は当たり前だけれどとても広い。

 かつて捕虜にされた時に入れられていた牢屋ぐらいが、私にとっては丁度よい大きさだと思っている。
 ベッドを二つおいたらいっぱいぐらいの大きさがあれば、十分生活できる気がする。
 立場を考えれば、そういうわけにもいかないのだろうけれど。

 奥に進むと、私が五人ぐらいは寝ることができそうなベッドのある寝室があった。
 天蓋のあるベッドである。
 重厚感のある木製の枠に、白い布がかけられている。

 シーツも白く、深い赤色の枕がたくさん置かれていて、横になったらそれはそれは気持ちよさそうだった。ベッドサイドにはランプが置かれている。

 リュシーヌでは蜜蠟の蝋燭が主流だったのだけれど、帝国にあるのはオイルランプと呼ばれるランプだそうだ。硝子の中に炎が燃えるような形が可愛らしく、いつまでも見ていられる。

 マッチで火をつけるルルの姿をじっと見ていたら、オイルランプは蜜蝋と一緒で熱いから触っては駄目ですよと言われた。私はあまり痛すぎることは好きじゃないので、積極的に炎に触りたいとは思わない。

 蝋燭を体に垂らすのも、結構痛そう。どうなのかしら、あれは。気持ち良いのかしら。
 そんなことを考えながらベッドの傍に寄ると、見たことのないものがベッドにいくつか並んでいた。
 何かしらと思って手に取ろうとしたところで、背後から手をぱしっと掴まれたので、私は驚いて背後を振り向く。

 野生の勘とでもいうのかしら。

 大体妄想するか何も考えていないかのどちらかの生活を送っているので、私はそういったものがとても鈍い。

 人の気配とか気づかないのよね。気配を感じることができる人は凄いと思う。
 いつの間にかジークハルト様が私の背後に立っていた。

「ジーク様、黒曜は厩に入りましたの? 私も、見た……っ」

 見知らぬ場所で過ごすことが嬉しくてにこにこしながらジークハルト様を見上げて、私は口を開いた。
 ジークハルト様は赤い瞳でじっと私を見据えていた。怒っているわけではなさそうだけれど、感情の読めない瞳が私を真っ直ぐ見下ろしている。
 言葉を奪うように強引に唇が合わせられた。

「ん……、んぅう」

 唐突に唇を割って入ってきた舌が、私のそれを絡めとりぬるぬるとこすり付けられる。

 食べられているかのように深く唇が合わさり、ジークハルト様の舌で私の口の中はすぐにいっぱいになった。

 ジークハルト様は私の口の中にある何かを探すように、隅々まで私の狭い粘膜を貪る。

 粘膜がこすれあい境界が曖昧になり、息苦しさと共に快楽がずくりと腰の奥から芽吹き始める。

 乱暴なぐらいきつく、ジークハルト様は私を抱き寄せた。
 衣擦れの音が耳に響く。窓の外はまだ明るくて、爽やかな日差しが差し込んでいる。

 清らかな水をたたえた湖と、木々が見える。

「ふ、ぁ、うぅ……」

 くちゅりと、舌の絡まる水音がする。

 ジークハルト様は私の足の間に自分の足を差し込んで、私の体を支えた。
 スカートの上から尻の肉を揉まれて、切なさに眉を寄せる。

 昨日のジークハルト様も素敵だったけれど、今日も素敵だわ……!

 あれは、夢ではなかったのね。ジークハルト様は、私のために強引な男性を演じてくださっている。

 そう思うと、胸の鼓動が更に早くなる。

 ジークハルト様は私を愛してくださろうとしている。それがとても、嬉しい。
 いじめられることが好きだと思っていた私だけれど、それ以上に――ジークハルト様の感情が嬉しい。

 そして、そのジークハルト様にこれから酷いことをして頂けるのだと思うと、ときめきが止まらない。

「ふ、ぁあ……っ」

 暴虐に口腔内を貪っていた舌が、口蓋を舐め上げ、歯列をなぞる。

 混ざりあった唾液が口角から流れる。両手で尻を揉みしだかれて、じくじくとした快楽が胎の底に溜まっていく。

 たっぷりとしたレースのドロワーズの下の下着に、じわりと愛液が染みるのを感じる。
 ジークハルト様は揶揄うように、私の足の間に自らの硬い太腿を擦りつけた。

「あ、あぁ……」

 呼吸をする暇もないほど重ねられていた唇が離れ、私は新鮮な空気を吸い込むために浅く速い呼吸を繰り返す。

 ジークハルト様は、昨日とは違って冷たく私を見据えているわけではなかった。
 愛情のたっぷり籠った優しい瞳で、熱心に私の顔を見ている。

「口付けだけでこんなにも蕩けて。……あなたは随分と、敏感だな」

「ジーク様……」

 声音も、いつもどおり優しい。
 けれど、手つきや口づけには強引さがある。昨日と似ているのに、昨日とは違う。
 微かな混乱を感じた。

「昨日からずっと考えていた。あなたを満たすと言うことは、どういうことなのか。……残酷なことを行うのは簡単だが、私はそれが正しいとは思えない。私にとっても、あなたにとっても」

「ごめんなさい、ジーク様……、我儘を言ってしまった私が全て悪いのです。ジーク様は、私を大切にしてくださっているのに」

「それは構わない。私はあなたの望みは全てかなえたいと思っている。ティアが正直に気持ちを伝えてくれることは嬉しい」

「でも……、困らせてしまいましたわ」

「困っていたのは、自分の欲望についてだ。……あなたを愛している。愛しいと思うほど、そして、あなたが許してくれるほどに、私の残酷さの箍が外れてしまいそうで。だが、――あなたを愛しているからこそ、己の欲望に正直になって良いのだと、気付いた」

「ジーク様の、欲望……?」

 ジークハルト様には性欲がないのかしらとまで思っていたし、普段のジークハルト様は清廉潔白そのものという感じがして、そういった欲求はあまりなさそうに見える。
 首を傾げる私に、ジークハルト様は微笑んだ。

「あぁ。……あなたの色々な顔が見たい。恥ずかしい姿も、淫らな姿も全て。私はあなたを愛している。貶めるような演技をすることには多少蟠りがあった。だが、愛しているからこそ残酷なことをしたいと感じるのだと、そういう感情があるということが理解できた」

「ご無理なさっておりませんか? 私、ジーク様にお辛い思いをさせるのは嫌ですわ。私の愚かな性癖をかなえてくださらなくても、ごく普通の性行為でも、ごく普通に気持ちが良いので、大丈夫です」

 私は一生懸命大丈夫だと伝えた。
 余計なことを言ったせいでジークハルト様を苦しめてしまったのが心苦しい。

 私は虐められたいのだけれど、ジークハルト様を苦しめたいわけではないのだ。

 私の趣味が、こんなにジークハルト様を悩ませ困らせてしまうとは思わなかった。

 だって、私の知る艶本の中の男性たちは、嬉々として愛する女性に酷いことをするものだったのだから。頼んでもいないのに縛ったし、頼んでもいないのに媚薬とかを使うのである。

 男性というのは愛する女性にはついついそういった趣味に走ってしまうものだと考えていた。

 どうにも私の認識が良くなかった。ジークハルト様はそういった類の方ではないのだ。

 これからは大人しい、普通の性行為をしていきましょう。私はもうすでにジークハルト様が好き。だから、それはそれで大丈夫だ。むしろ、好きになってしまったのに――私の性癖のせいで、こんな女は要らないと捨てられてしまうのは、悲しい気がする。

「ティア……、気に病む必要はない。私はあなたを抱くことができて、とても嬉しい。そして、……あなたを快楽で堕として良いというのなら、それも、とても嬉しい」

 ジークハルト様は、蠱惑的な笑みを浮かべて言った。
 それから私をベッドにやや乱暴に押し倒すと、ベッドの上に転がっていた良く分からない道具に手を伸ばした。


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