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 魔道具師キャスの成り上がり人生 2

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 ぽんっと、私の膝の上に丸い物体が現れる。丸い物体は、大きく伸びをした。

「きゅー」
「これはクイールちゃんです。護身用の魔道具です。大きくなって空も飛べます」

 白くて丸いクイールちゃんが体をのばすと、それは小さな獅子の姿になった。
 額に青い五芒星があるところがとっても可愛いクイールちゃんは、私が命じれば大きくなって私を守ってくれる。空を飛ぶこともできるので、屋根裏から抜け出すことが格段に楽になった。

「安心してください、シェイド様。あなたのキャスは、誰にも穢されていません。ちゃんと、清い身です」
「――それが、どうした。どのみち私はお前には触れられん」
「触りたいですか?」
「……どうでもいい。続けろ」

 さっきまで凄く心配してくれたのに、シェイド様は投げやりに言った。
 クイールちゃんはマリちゃんの隣で、大人しく丸くなった。

「そんなわけで、ある程度の自由を手に入れた私は、こっそりと家を抜け出しては、最初は黒の書に書いてあった通り、呪物や魔女たちの残した呪具の収集をはじめました。趣味です」
「黒の魔女の残したものも?」
「ええ。私のコレクションにあった気がします。といっても、魔女の残した呪具はそんなに数が多くありません。私は次に、街で情報をあつめはじめました。珍しい呪物を探すためです」
「……珍しい、呪物」
「はい。本にのっていないものもあるんじゃないかな、ということで。怖い話や、不思議な話、人々の噂などを集めては、その場所に赴いて探索する日々。でも、結構ただの噂だったり、空振りだったりすることが多くて……早々、本当の呪いには出会えないものなのです」
「物好きだな」
「はい。まぁ、そんな生活を続けていると、先立つものが必要になります。無一文では生活ができませんので。それで――商業都市グランベルトに行きました。地味で目立たない魔道具を売ろうと思いまして」

 私は鏡に視線を向ける。
 魔道具師とは、私一人ではない。数は多くないけれど、商業都市グランベルトともなれば、魔道具は少しは流通している。
 
 私は他の魔道具師に会ったことはない。
 魔道具師は特殊だから――皆、隠れて生活しているらしい。
 表に出ることがあれば、その特殊性から、貴族に飼われたり、王家に飼われたりする可能性があるのだ。
 皆それを嫌って隠れているのだと、ジルスティート商会の若き会長であるアベル・ジルスティート様に教えて貰った。

 アベル様は私の取引相手だ。
 せっかくなら一番大きなお店で商品を取り扱って欲しいなと思い、ジルスティート商会の門戸を叩いた。
 アベル様はとても気さくな方で「呪物を集めてるって? 面白いお嬢ちゃんだな。そういや、海にも呪われた船が沈んでるんじゃなかったか?」と、商品を取り扱う約束をしながら、そんな噂も教えてくれた。

「……そこで、呪われた沈没船が出てくるわけか。……キャス。そのアベルという男は」
「取引相手です。でも、結構お金は稼ぎましたし、シェイド様を養えるぐらいには稼ぎましたので、もう商売はしません」
「……そうか。それで」
「それだけです。そんな生活をこっそりしていた私は、ルディク様の婚約者でした。ルディク様は私を大層お嫌いになっていて、まさしく婚礼の儀式の日、私は叔父夫婦と義理の妹に冤罪の罪をきせられて、ルディク様はそれを信じて、私に婚約破棄を突きつけて、シェイド様との結婚を命じられました。私、運がいいです。おかげで憧れのシェイド様に会えましたから」

 私が話し終えると、今度は塔全体ががたがたと震えて、窓という窓がバリンバリンと割れた。

 

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