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すりおろされたい系男子の会
しおりを挟む学園長の挨拶にはじまり、各学年の担任のご挨拶が終わった。
私の一組の担任は、褐色の肌に刻まれた赤い紋様が色っぽい、銀色の大きめの狐っぽい耳を持った半獣族のサミュエル先生だった。強力な魔力を所持するひとは大抵貴族であり、高位貴族になるほどその傾向は強くなる。
サミュエル先生おそらくは身分の高い方なのだろう。教師の方々は生徒たちに余計な気をつかわせない為か、出自を隠している場合が多いので、良くは知らない。
「シグ、クロヴィス様をなんとかしなさい。昨日から様子がおかしいのよ。あと私はツンデレとかじゃないわ。次に言ったら眼鏡を剥ぎ取るわよ」
「相変わらず可愛らしいですね、リラ様。是非、眼鏡を剥ぎ取ってください。私の方が背丈がありますので、私の目の前でうさぎのように跳ねながら、悔しさに歯噛みするリラ様が目に浮かぶようです。あぁ、可愛い」
うっとりと頬を染めながら、シグルーンが言った。
なんだこいつ。相変わらず変態だわ。
シグルーンはクロヴィス様と同い年で、私よりもひとつ年上だ。私の口調が気安いのは、シグルーンのアロイス宰相家は宮内卿として古くから王家に仕える家で、シグルーンも次期宰相としてよく城に来ていたからである。
つまり、私とクロヴィス様とシグルーンは幼馴染、ということになる。
とはいえ、一緒に遊んではいたけれど、おままごとには入れてあげなかった。
シグルーンはクロヴィス様を犬扱いする私を見ながら、静かに本ばかり読んでいるような子供だった。
「……シグ、まさかお前が俺からリラを奪う、良い男なのか……!?」
私たちのやり取りを見て、クロヴィス様が青ざめる。
私はシグルーンの長い髪を引っ張りながら、クロヴィス様を睨んだ。
「クロヴィス様は黙っていてください。ややこしくなるから」
「それはあり得ませんのでご安心を、クロヴィス様。ツンデレとは遠くから眺めて楽しむもので、私自身はツンデレの恋人が欲しい、という欲求はありません。できれば、常にデレが良い。ツンはいりません。それにご承知の通り私には婚約者もいますので、ご安心を」
「次にツンデレとか言ったら、すりおろすわよ」
シグルーンをすりおろしたい私による私の為の会を発足するしかない。
「それは、魅力的な気がしてきましたね……」
口元に手を当てて荒くなった息を隠しながら、シグルーンが艶っぽい声で言う。
昔から結構気持悪かったけど、今も結構気持ち悪い。
久々に会ったけれど、昨日も一昨日も会っていたような気安い気持ち悪さを感じる。
「リラ……、俺も、すりおろしてくれないか……」
クロヴィス様が私の制服を遠慮がちに引っ張りながら、小さな声で言った。
不安そうに耳が垂れているのが不覚にも可愛らしかった。言っている事はろくでもないけど、可愛かった。
シグルーンの堂々とした変態ぶりに比べたら、クロヴィス様は健気だわ。
健気な変態。
どちらにしろ、変態。
「記念すべき新一年生の入学式の日に、舞台袖ですりおろすとかすりおろさないとか、冒涜的だわ」
「そもそもリラ様が、そのようなことを言い出したのですよ。男をすりおろすご趣味でもあるのですか? 是非、詳しく聞かせて下さい。どこを、なにで、すりおろすのです?」
「黙りなさい、眼鏡」
私はシグルーンの髪を再び引っ張った。シグルーンは「眼鏡、というのは悪口にはなりえませんよ」などと冷静に言っていた。
「リラ、俺も多少興味が……、どこをどう、すりおろすのかを今度、実践などしてくれると、非常に嬉しい」
「クロヴィス様の逞しい腹筋で、大根をすりおろすのよ。焼き魚の付け合わせにして食べてあげるわ」
「……っ、それは、凄いな……!」
「どこがどう凄いのよ! 冗談に決まってるでしょう……!」
苛々しながら適当な事を私が言うと、何故かクロヴィス様は喜んだ。
ふさふさの尻尾がぱたぱた揺れている。激しく喜んでいる。腹筋で大根をすりおろされたい願望が前々からあったのかもしれない。どうかと思う。
「リラ様、素晴らしい、素晴らしいです……」
シグルーンもはあはあしていた。
どうして私は入学式の日に変態に囲まれているのだろう。おかしい。完全におかしい。
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