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決戦の地は晩餐会
しおりを挟む越冬の祭典の晩餐会は、毎年城の大広間で行われている。
夕方から数刻。豪華な料理と、音楽と、ダンスで半獣族と人族の友好を祝うものだ。
招待状は国中の貴族に届けられる。だからその日は国の貴族たちは皆王都に集まる。王都の上流階級の方々むけの宿がいっぱいになってしまうぐらいに、賑わう日だ。
街は街で活気にあふれていて、昼から屋台並び、屋外劇場では人獣戦争を題材とした歌劇が催される。
お祭りの締めくくりには、夜空に花火があがる。
私はフィオルとミレニアと共に、馬車で城へと向かった。
フィオルは宣言通り、黒い体にぴったりとしたタキシードを着ている。
男装なのかと思ったけれど、そうではない。それは体のラインが協調されていて、男性的かつ女性的な、見たことのない服だった。
すらりとしたフィオルの体をより魅力的に魅せているようだった。
首までのふわりとした柔らかい金色の髪は結ばずにそのままで、飾りもつけていない。
そのかわり、耳に大きな緑色の宝石の耳飾りが揺れていた。
フィオルの服は、実を言えば今後エンバート商会が売り出していきたい女性用の衣服なのだという。
王国の女性は基本的にスカートを履いている。ズボンを履いている女性というのは見たことがないし、そもそも売っていない。
だからかなりの挑戦だと思うのだけれど、フィオルにその服は違和感もなくその体に良く馴染んでいる。
エンバート商会の跡取りのアーサーさんには、晩餐会に着ていくのはやめておけと何度か言われたらしい。
けれど、どうしてもと押し切ったのだそうだ。「そもそもドレスとか着たくなかったから、ちょうど良いわ」と悪戯っぽく言って、フィオルは笑っていた。
ミレニアは、薄い水色のドレスを着ている。シグルーンの髪の色に合わせたようだ。
ふわふわしたミレニアの印象とは違い、ドレスはあまりふわふわしていない。胸が大きいせいで、ふわりと広がるドレスを着ると太って見えるのだと、悩ましそうに言っていた。そんなことはないと思うけれど。
私はクロヴィス様の瞳の色に合わせた紫色のドレスにした。
ドレスの足元には、ライラックの花を模した花飾りがあしらわれている。
むき出しの肩が心もとない。私の今の立場で、紫色のドレスを着るとか、とんだお笑い種になってしまうかもしれない。
それでも――最後かもしれないから、きちんと着飾った私の姿を見て欲しかった。
クロヴィス様に距離を置かれてからの私は、ドレスや髪型についても手を抜きがちだった。
今日は、違う。
ルシアナが全身全霊を込めて、私を綺麗にしてくれた。
綺麗に着飾ると、少しだけ自信と勇気が湧いてくる。
今度こそ逃げないで、クロヴィス様に向き合おう。話をして、それで駄目なら、仕方ない。
辛いだろうけれど、何もしないで逃げるよりはずっと良い。
私にはフィオルとミレニアがいる。ルシアナだっているし、私を大切にしてくれる家族もいる。
だから、大丈夫。
そう思いながら、会場に足を踏み入れる。
堂々とした立ち振る舞いのフィオルの片腕にミレニアがしがみつくようにしながら、いつも通りにこにこしている。
私はフィオルの腕にそっと手を添えていた。「リラ、嫁にしたい。嫁来ない? 兄たちがたくさんいるわよ、うちには。独身の」と、フィオルは馬車の中からずっと、何度も私に言っていた。
お父様とお母様は、本日の参加は辞退するようだった。
年も年だから、そろそろ二人きりでゆっくりとお祭りを祝いたいのだと言っていた。
私の状況は知っているのかもしれないけれど、二人とも何も言わなかった。
お父様たちは私に甘いけれど――盲目に甘いというわけではないのだと、最近思い始めている。
私の問題はある程度、私の力で解決するべきだと思っているようだ。
もちろん助けを求めれば、助けてくれるのだろうけれど。
私が何も話さないから、何も言わないのだろう。
その代わり、ドレス姿の私を二人とも大袈裟なぐらいに褒めたたえてくれた。わざと明るく振舞ってくれているようにも感じられた。
今日はそれが、とても有難く思えた。
「さぁ、リラ。気を引き締めていくわよ。私がついているんだから、心配ないわ」
「そうですわ、リラ様。リラ様に何か言ってくるような方が居たら、私が氷魔法でお仕置きしてさしあげますわ」
フィオルの頼もしい声のあと、ミレニアも私を覗き込むようにして言った。
おどおどしているとばかり思っていたミレニアだけれど――今は、私の方がよほど臆病になっているわね。
私は大きく息を吸い込んだ。
どんな結果になっても、大丈夫。
クロヴィス様が私を要らないと言うのなら、――それなら、一言文句を言ってやらなくてはいけないわ。
入学してから散々私の邪魔をしてくれたのだ。
おかげで私には男友達の一人もできなかった。
皆範囲三メートル以内に近づいてきてくれなかったからだ。
私を捨てることが確定している癖に、私の恋愛の邪魔をしまくっていたクロヴィス様の脛を、蹴ってやらないと気が済まない。
胸の痛みから目を背けて、私は「よし」と、気合を入れた。
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