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第1章

第251話 船の人形

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 さすがに敵の数が多い。
 無尽蔵かと思えるほどに、続々と異界の甲胄人形が現れて攻撃をしてくる。

 異界の甲胄人形は、徹底してルドラ・ナイトを狙って動いていた。茶系の色をした甲胄人形だけでなく、白い細身の甲冑人形も混じっている。
 一方、地上を進むデック・ドールは、あっさりと移民船に辿り着いて外壁を破壊し、内部への侵入を開始している。

「ボッス、おかしい」

「向こうの頭がおかしい」

 ユアとユナが首を傾げている。
 シュンとユア、ユナは、ナイトを出さず、デック・ドールに紛れて移民船の一つに潜入していた。

「ここは囮か? 別の拠点は見つからなかったが・・」

 異界の神がどれほど巧妙に隠蔽をしようと、ムジェリ製の観測器を使いこなすユキシラの"眼"を完全に逃れられるとは思えない。

 結界を使えば結界を見つける。
 視覚的なまやかしなら、それを・・。
 わずかな風の揺らぎや、神力や魔力、霊力の名残のようなものまで見つける"眼"なのだ。
 少なくとも、この世界には、他に異界神の拠点は存在していない。

「囮というより罠?」

「わざと中に入れた?」

 ユアとユナがシュンを見た。あっさりと迎え入れられた感じである。もちろん、こちらはデック・ドールの戦闘に隠れて移動して来たのだが、いくらなんでも簡単過ぎた。

 今歩いているのは、移民船の中。人間が歩くには広すぎる大きな通路の中だ。
 3人は特に身を隠すことをせず、通路の中央を歩いていた。

 5つあった移民船それぞれにデック・ドールが取り付いて攻撃を加えている。
 中央に建造中だった塔のような物は破壊した。
 敵ドールによる外での迎撃は熾烈だったが、移民船の内部では一切の妨害、攻撃を受けていない。
 平穏そのものだった。

「罠か・・だとすると、移民船自体は破壊されても構わないということになる」

 仮に、相応の強敵が待ち伏せていれば、応戦するシュン達との戦闘で、移民船は破壊されるだろう。

「船ごと爆発?」

「どこか別の空間に飛ばすとか?」

 ユアとユナが数十メートル上の天井を見上げながら言った。口から出任せのようだが、無いとは言い切れない。

「あるかも知れないが、どちらも脅威では無いな」

「確かに~」

「無意味~」

 ユアとユナが腕組みをして首を傾げた。この3人にとっては、移民船が吹き飛ぼうが、異空間に飛ばされようが、さしたる問題にならない。

「じゃあ、私達を洗脳する?」

「霊虫をつける?」

「霊虫や・・リセッタ・バグの類か?」

 確かに、ああいう眼で捉えにくい相手は脅威だが、すでにマーブル主神が対策をしてくれたはずだ。
 万が一、マーブル主神がうっかり忘れていた時のために、ムジェリ製の対抗バグが世界に放たれている。既知のバグは、完全に無力化できると、ムジェリが確約してくれた。

 ムジェリは嘘をつかない。
 自信が無ければ自信が無いと明言する。
 出来ないものは出来ないと・・。
 そのムジェリが確約してくれたのだ。リセッタ・バグと霊虫を心配する必要は無いと。

「じゃ、力尽くで捕まえて脳味を入れ替える?」

「マッドなサイエンティスト?」

 ユアとユナが物騒なことを言う。

「アレク達を排除し、俺達3人だけを中へ招き入れる・・俺達を捕まえる用意があるということか」

 他の者を排除し、シュン達3人の侵入は阻まない。
 それが、今の状況だ。
 脳を入れ替える云々はともかく、何らかの勝算があるのだろう。

「単なる時間稼ぎということも・・」

 シュンは、通路前方へ眼を凝らした。

「いや・・俺達を殺す自信があるということか」

 行く手に、細身の人影が立ち塞がっていた。
 シュン達の知る人間とは姿が異なる。

「機械の人間?」

「サイボーグ?」

 ユアとユナが露骨に警戒しながら、シュンの背中へ隠れる。

「さいぼーぐ?」

 耳慣れない言葉だ。

 人に似た姿だが、体付きからは男とも女とも判別できない。首から上はツルリとした球体が付いており、球形の頭部の内側に緑色をした光点が8個灯っていた。全身が鏡のように磨かれた硬質な何かで包まれている。

「生き物・・では無いな」

 シュンは相手を見つめたまま呟いた。

『仮初めの命があるです』

 カーミュが姿を消したまま囁いた。

「仮初め・・偽物の命が宿っているのか」

『作り物の体に、作り物の魂が宿っているです』

「・・なるほど」

 シュンは、カーミュの言葉をユアとユナにも伝えた。

「・・アンドロイド?」

「・・アンドロイド?」

 ユアとユナが、姿の見えないカーミュに向かって訊ねた。

『あんどろいど?』

「あんどろいど?」

 シュンが2人を見る。

「改造人間ならサイボーグ」

「作り物にちょっぴり人間を足したらアンドロイド」

「・・ふむ?」

 訳が解らないが、ユアとユナは自信ありげに断言している。ニホンでは常識なのだろうか。

「カーミュ?」

『よく分からないのです。でも、あれは完全な作り物なのです』

「・・らしいぞ?」

「じゃ、ロボット?」

「でも、魂ある?」

 ユアとユナが腕組みをして唸った。

 直後、分類が曖昧な人型の何かから光弾が放たれた。 正確にユアとユナを捉える弾道だったが、シュンが展張している水楯に阻まれて消失する。

「水楯3枚か。悪く無い威力だな」

 人型の何かから放たれた光弾は、シュンの水楯を3枚撃ち抜き、4枚目で消えていた。

 次はどうするのかと見守っていると、人型の何かが身を翻して通路の向こうへと飛翔を開始した。

「露骨な挑発?」

「釣り餌?」

 ユアとユナがシュンを見る。

「カーミュ、方向は?」

『前なのです』

「行こう」

 シュンは2人を促して歩き始めた。

 闇雲に歩いて来た訳では無い。
 この移民船を選んだのも、ここまで内部を歩いて来たのも、すべて導きがあればこそだ。

 以前、マーブル主神に創ってもらい、夢幻の回廊で使用した"探知ちゃん"・・魔王種の生きた霊を使って神具を探知する魔法の杖に、今度は異界神の魂を封じて、異界神の所在を探知する道具として創り変えてもらったのだ。
 色々と技術的に難しかったらしく、杖としての実体を失ってしまい、霊体であるカーミュにしか扱えない代物になってしまったが・・。

 機械の人間・・機人。
 その機人を生み出したのは、カーミュの操る杖に封じられた異界神だ。機人の神もまた、異界神が創造したものだという。
 シュンに囚われた異界神が、死と蘇生を繰り返す中で語ったことだ。

「案外、嘘では無いのかも知れないな」

 シュンは前方を遠ざかる"人形"を見ながら呟いた。

「ボッス?」

「何が嘘?」

「異界神を尋問した時の話だ。この世界への移民を諦めると言っていただろう?」

 囚われた異界の主神は、もう嫌だ、他の世界へ行くから許してくれ・・と泣いていた。

「言ってた」

「確かに言った」

 2人が頷く。

「あの時は、嘘だと決めつけたが・・」

 この地に残された者達の他は、すでに別の世界へ入植しているのかも知れない。

「どうであれ、罠である確率が一番高い。その他の可能性は考えなくて良い」

「アイアイ」

「ラジャー」

 シュンの言葉に、ユアとユナが敬礼をした。

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