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25.南勢の鳳凰
25-1. 追憶
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二年前、蟹江の戦――。
滝川一益は、織田・徳川の水軍を相手に敗れ、蟹江城を失った。
その責を問われ、秀吉の命により追放の憂き目に遭った三九郎は、馴れ親しんだ伊勢を離れ、信濃の地へと落ち延びた。身を寄せた先は、真田昌幸のもと。
上野・信濃の地は、一益が関東を去って以来、絶えず戦乱に明け暮れていた。
真田、上杉、徳川、北条――幾つもの勢力が交錯し、争いを繰り広げるなか、三九郎もまた、真田の諸士とともに、幾度も徳川・北条と刃を交えた。
そのさなか、一益の縁もあって、昌幸はひそかに秀吉と結び、昨年の冬、次男を人質として大坂へ送り出した。これにより、秀吉の支援を取り付けることに成功したかに思われた。
しかし、今年の七月。
家康が秀吉との和睦を果たし、ついには甲府まで軍を進めたことで、戦火は再び燃え上がろうとしていた。
やがて、昌幸と三九郎の急報を受けた一益は、ただちに秀吉へ書を送り、和睦の調停を依頼する。
八月――。
秀吉自らが仲介に乗り出したことで、ついに徳川との和議は成立し、真田の領内から徳川勢の影は消えた。
だが、依然として北条の動きは不穏である。
信濃を離れることも叶わぬまま、三九郎は刻一刻と迫る戦の気配を見据えていた。
そんな折――。
越前より、一益の訃報が届く。
その知らせを聞いたとき、三九郎の胸を貫いたものは、怒りか、悲しみか、それともただ、ぽっかりと穿たれた虚無だったのか。
畏敬の対象であった父は、もはやこの世にいないのだ。
『今年に入ってから、殿の容態は思わしくなく、この九月に息を引き取られました』
滝川藤九郎の言葉に、三九郎の胸中は激しく波立った。
『今年に入ってから……?』
何故、もっと早く知らせなかったのだ。
『何故だ!何故、もっと早く知らせて来なんだ!』
抑えきれぬ怒りが、声となって噴き出す。
しかし、藤九郎は静かに首を振った。
『殿が――知らせてはならぬと、そう仰せられて……』
一益が知らせを禁じた理由は、三九郎にも分かっていた。
たとえ報せを受けたところで、自分がすぐに駆けつけられるはずがない。
戦況は依然として緊迫し、信濃を動くことすら叶わぬ日々が続いていた。
ようやく北条が兵を退いたのは、家康が上洛を果たした十月のことだった。
すでに、手を伸ばしても届かぬほどの時が過ぎ去っている。
その後、義太夫より書状が届いた。
十二月、暘谷庵にて会いたいと――。
三九郎は戦後処理を終え、一子・久助を真田昌幸の母・恭雲院に預けると、ついに上洛の途についた。
京の空は、すでに冬の色を帯びていた。
ところが暘谷庵に行ってみると、自分を呼び出した義太夫の姿はない。信濃にあって、長らく滝川家の消息を知らぬままにいた三九郎は、ここで初めて、一益の最期と、滝川家の家臣たちの行く末を知ることとなる。
「葉月や八郎を盾に――なんと汚い手を使うてくるのか。天の下において、このような所業が許されてよいものか……!」
怒りに震える三九郎が問い詰めると、今は蒲生家に仕える谷崎忠右衛門が詳細を話して聞かせた。
「して、義太夫はいずこに?」
忠右衛門は深く息を吐き、静かに答えた。
「姫様を取り戻すと申して、飛び出していかれました。向かった先は、大坂の蒲生邸かと」
大坂、蒲生忠三郎のもと――。
三九郎の眉間に深い皺が寄る。
「忠三郎の元にいるのであれば、奪い返すのは造作もない。あやつは常より隙だらけじゃ。……その方、何故に葉月をここへ連れて来なんだのか」
三九郎の鋭い叱責に、忠右衛門は平伏しつつも、慎重な口調で答えた。
「忠三郎様は関白と話をつけ、姫様を取り戻すと約束してくだされた。未だ戻されぬ八郎様のこともありまする。ここで事を荒立てるのは如何なものかと……今少し、辛抱してくだされ」
「忠右衛門……」
三九郎はじろりと忠右衛門を睨みつけた。
「その方、いつからかような腑抜けたことを申すようになった。忠三郎の元にいて毒されたのではないか?」
忠右衛門が何か言いかけるよりも早く、三九郎はきっぱりと言い放つ。
「であれば、わしが行って奪い返すのみよ」
その言葉を聞いた瞬間、忠右衛門の顔がみるみる青ざめた。
「若殿――」
必死の形相で三九郎の袖を掴む。
「若殿は、忠三郎様と顔を合わせぬほうがよろしゅうござります!」
その場に居合わせた者たちの空気が、一気に張り詰めた。
二人が相まみえれば、刃傷沙汰は避けられぬ。
それを聞いていた風花も、眉をひそめた。
「三九郎殿……忠右衛門の申す通りじゃ。若し、三九郎殿の身に何かあれば、殿に申し開きが立たぬ」
家臣たちは口々に三九郎を引き止める。
だが、三九郎はその手を振り払い、迷うことなく踵を返した。
「止めるな。わしは行く」
義太夫が単身、姫を奪い返しに行ったというならば――。
ならば、三九郎もまた、何をためらう理由があるというのか。
三九郎はそのまま、大坂へと向かった。
しかし、三九郎がたどり着いたとき、すでに肝心の葉月の姿はなかった。
大坂城へと移された後だったのだ。
それを知った瞬間、三九郎の胸には、どうしようもない苛立ちと焦燥が込み上げた。
忠三郎――。
もはや、まともな会話など成り立たぬ。
彼の前に立ったところで、何の打開策も見いだせぬことは明白だった。
――打つ手なし。
三九郎は、拳を握りしめながら、大坂を後にするしかなかった。
暘谷庵へと戻る道すがら、彼の脳裏を駆け巡るのは、己の運命への慟哭だった。
――妻子を奪われ、伊勢を追われた。
信濃に身を寄せてからの二年、ただ戦に明け暮れるばかりだった。
父・一益。
あの人の背を見て戦国武将としての生き方を学び、その采配のもとで兵をまとめ、先を見据えて生きてきた。
だが、一益はおらず、信頼していた家臣たちとも引き離され、見知らぬ土地でただ独り、死に物狂いで剣を振るうばかりの年月。
己の運命を呪い、秀吉を恨み、忠三郎を憎んだ。
怒りの行き場すらなく、戦に身を投じるしかなかった。
幾度、死の淵を彷徨ったことか。
それでも、ぎりぎりのところで踏みとどまり、ここまで生き延びることができたのは――
久助がいたからだ。
忠三郎の元から奪い返した、小さな命。
あの幼い手のぬくもりだけが、己が滅びることを許さなかった。
いまやすべてを失った身――
それでも、ただひとつ残されたものが、三九郎をこの世に繋ぎとめていた。
そして都に戻り、初めて知る事実――。
三九郎の知らぬところで、父・一益も、滝川の家臣たちも、秀吉に都合よく利用され、そして捨てられた。
(父上の無念はいかばかりか……)
己の無力を噛みしめ、何をするでもなく、ただ塞ぎ込む日々。
それを、不安げに見守る弟たち。
やがて、心配した風花が、そっと声をかけた。
「三九郎殿。ちと使いを頼まれてくれぬか」
「はい……使い、とは……?」
自分に何の用かと怪訝に思いながらも、頷く。
風花は小さな包みを手渡しながら言った。
「これを三条にいる雪に届けてたもれ。伊勢より参った者たちが持ってきたものじゃ」
三条――。
三九郎の眉がぴくりと動いた。
「三条……? それは、忠三郎の……」
風花は笑みを浮かべた。
「左様。吹雪がおる三条の屋敷じゃ」
三条の屋敷。
それは、秀吉の来訪に備え、忠三郎が建てた、都でも評判の華やかなる邸宅。
かつてそこには、三九郎の元正室・お虎がいた。
――秀吉の側室として。
あの日、三九郎はあの屋敷に忍び込み、お虎と久助を奪い返そうとした。
だが、お虎は同行を拒み、久助だけを三九郎に託した。
その記憶が蘇り、三九郎は思わず眉をひそめる。
風花は、そんな彼の表情を見て、くすりと笑った。
「案ずるな。雪がおる故、忠三郎殿は都へは寄り付かぬ」
それを最後に、強引に三九郎を三条の屋敷へと向かわせた。
行く先には、またしても過去が待っている。
(義母上は何を考えて、わしを使者に立てたのであろう)
風花の真意が伺いしれない。心配してくれているのは分かるが、よりにもよって忠三郎の屋敷に行けとは。
(虎は今、大坂か)
どうしているだろうか。別れ際に見た、虎の涙を堪えた顔を忘れたことはない。巷の噂では、秀吉は今、信長の妹・お市の生んだ姫に入れあげており、側室にして傍に置こうと画策しているらしい。その話が本当であれば、たとえ虎が大坂城にいたとしても、秀吉が虎と顔をあわせることはほぼないだろう。
それが、救いであるのか、虚しさであるのか――。
三九郎は深く息を吐き、都の中心を横切る三条大路へと足を進めた。
通り沿いには、義太夫行きつけの饅頭屋がある。かつて、義太夫が「ここの饅頭は絶品よ」と言いながら、事あるごとに足を運んでいた日々を思い出す。
あれから、どれほどの時が流れたか。
その先に、蒲生邸が見えてきた。門前に立ち、番の者に声をかけると、すぐに中へと通される。
三九郎は長い廊下を渡り、蒲生邸の広間へと通された。
室内は豪奢な装飾が施され、まさしく都でも評判の邸宅にふさわしい佇まいを見せている。
広間の空気は静寂に満ち、しばしの後――。
吹雪が現れた。
「三九郎殿、久方ぶりじゃ」
ゆったりとした所作で歩み寄る吹雪を見つめながら、三九郎は「ハハッ」と軽く頭を垂れた。
「義母上から、これを……」
持たされた包みを取り出す。
吹雪は、その中身を確認し、ふっと微笑んだ。
「おぉ、餅か。風は未だ、餅好きじゃなぁ」
可笑しそうに笑うその表情は、確かに風花とよく似ている。
だが、そこに風花が持つ鋭さは微塵も感じられなかった。
「風や子らは変わりないか?」
吹雪が静かに耳を傾ける。
「はい。父上を亡くし、気落ちしてはおられますが、弟たちの前では気丈にふるまっておいででござります」
吹雪は、「さもあろう」と頷いた。
そして、ふと三九郎を見つめ、こう続けた。
「三九郎殿。すまぬが、これから風に渡す土産の支度をする。夕暮れ時まで待ってはくれぬか」
「は……それは構いませぬが……」
まだ朝だというのに、何を用意するのか。
そんなに時間がかかるものなのか。
疑問を抱きつつも、三九郎は断る理由もなく、侍女に案内された別室で待つことにした。
(義母上もよう分からぬお人じゃが、あの吹雪というお方も、それ以上に分からぬお人じゃな……)
室内に目を向けると、襖絵には鳳凰が描かれていた。
有名な絵師の手によるものなのだろうが、三九郎にはその価値は分からない。
ただ、豪奢であることだけは理解できた。
――しかし、この広間に、そしてこの屋敷に、どれほどの意味があるのか。
三九郎は、ぼんやりと天井を仰ぎながら、吹雪の意図を測りかねていた。
襖の向こうから、人の声が聞こえた。
やがて静かに襖が開く――。
(夕暮れと申していたが……随分と早いな)
不思議に思いながら顔を上げた三九郎は、息を飲んだ。
「虎……」
そこにいたのは、まぎれもなく、お虎だった。
驚いたように三九郎を見つめるお虎。
彼女の唇が震え、かすれた声が漏れる。
「若殿……まことに、滝川の若殿か?」
亡霊でも見たかのような顔だった。
次の瞬間、お虎は部屋に足を踏み入れ、そのまま膝をつき、顔を覆って泣き伏した。
当然、虎は別の場所へ移されたものと思っていた。
――それが、未だにこの三条の屋敷に置かれたままとは。
「義母上は、我らを会わせようとして……」
吹雪と風花、二人が示し合わせ、こうなるよう仕組んだのだろう。
三九郎は、お虎の肩にそっと触れ、静かに言った。
「久助は無事じゃ。よう食べ、よう遊び、逞しく育っておる。それゆえ、もう泣くな」
お虎は涙を拭い、ようやく顔を上げた。
(随分とやつれた……)
最後に見たときよりも、頬はこけ、肌は青白い。
手足は棒のように細く、かつての面影は薄れつつあった。
胸の奥にわずかに疼くものを感じながら尋ねる。
「……あれから如何しておった。関白はここへはよう参るか?」
分かりきった問いだったが、それでも確かめたかった。
お虎は、静かに首を横に振る。
「ただ、時折、花見の宴などに呼ばれまする」
その話は耳にしていた。
秀吉は季節ごとに宴を催し、側室たちを並べ、さながら手に入れた戦利品を愛でるかのように悦に浸る――そんな評判が都に広まっている。
(あの者にとって、側室などはただの戦利品にすぎぬ……)
腹立たしいのは、そんな秀吉の在り様もそうだが、何より、その秀吉に妹を差し出した忠三郎のことだ。
(あぁ、そうか。あやつにとっては、妹など、大事でも何でもないのか)
――所詮、秀吉と同じ。
家を守るための道具の一つとして、妹を差し出したに過ぎぬのだ。
その考えに至ったとき、三九郎はふと気づく。
自分と忠三郎は、根本的に違うのだ。
忠三郎は、大名の子として育ち、家を存続させることを第一としている。
だが、自分は――。
己の身一つで、すべてを背負い、生き抜かねばならぬ身だった。
その差は、埋めようもなく、永遠に交わることはない。
「若殿は……」
お虎が何か言いかけて、ふと口をつぐんだ。
三九郎はその表情を見て、あぁ、と気づく。そして、苦笑交じりに答えた。
「真田の食客とはいえ、浪人暮らしに変わりはなし。未だ独り身じゃ」
真田昌幸からは何度も縁談の話が持ちかけられていた。
だが、今さら大名に返り咲こうという気力もなければ、どこかに仕官する意欲もない。
――迷った末に、一益に相談もせず、すべて断ってしまった。
「然様で……」
お虎は、どこか安堵したような表情を浮かべた。
その横顔を見ながら、三九郎は複雑な思いを抱く。
(久助と、三人でどこかで暮らすことができたら……)
だが、それは叶わぬ夢だ。
お虎は風花のように馬を乗り回す女ではない。
どこまでも古式ゆかしい姫であり、目と鼻の先へ行くにも輿に乗り、少し歩かせると息切れしてしまうほどの体の弱さ――。
信濃までの長い旅路を、ともに歩めるとは思えなかった。
(わしに、関白を凌ぐ力があれば……)
父・一益が、秀吉に劣っていたとは思わない。
しかし、自分はどうだろうか。
一益のような器量が、自分にあるのか?
秀吉はもとより、忠三郎にさえも及ばぬのではないか?
戦国の世を生き抜く「器」ではないのではないか――。
「若殿……かように、刀傷が増えて……」
お虎の細い指が、そっと三九郎の腕に触れる。
三九郎は、かすかに笑った。
「そなたこそ、随分とやつれておるではないか。どこか具合でも悪いのか。飯は食べておるか?」
問いかけに、お虎は頷きもせず、ただ手元を見つめている。
その顔は、思いつめたように沈んでいた。
(妹がこんな状態だというに、あやつは都の町屋を壊して喜び、屋敷に遊女を連れ込んで遊び惚けておる)
忠三郎への怒りが、沸々とこみ上げてくる。
虎はそんな三九郎の思いを知ってか知らずか、ぽつりと呟いた。
「このまま死んでしまいたいと、そう思ておりました」
三九郎は息を呑んだ。
「虎、何を申すか!」
声を荒げる。
虎はただ、かすかに揺れる瞳で三九郎を見つめる。
「生きておれば、いつかは久助の顔を見ることも叶うであろう。久助のためにも、生きねばならぬ」
それは、三九郎自身にも言い聞かせるような言葉だった。
しかし――。
「若殿は、酷いことを仰せになる……」
虎はまた俯き、さめざめと涙を零した。
三九郎は、たまらず虎を抱きしめた。
「どうかわしのためにも、生きてくれ、虎」
虎の肩が、細かく震えた。
「若殿……」
三九郎の腕の中で嗚咽する虎を、慰めるすべはない。
何もしてやれぬ。何も言えぬ。
虎はおろか、妹の葉月さえも救えぬ己の無力が、ただ胸を抉るばかりだった。
それでも――。
この腕の中にある命が、消えてしまわぬように。
せめて、今だけは、この温もりを離すまいと、三九郎は静かに目を閉じた。
滝川一益は、織田・徳川の水軍を相手に敗れ、蟹江城を失った。
その責を問われ、秀吉の命により追放の憂き目に遭った三九郎は、馴れ親しんだ伊勢を離れ、信濃の地へと落ち延びた。身を寄せた先は、真田昌幸のもと。
上野・信濃の地は、一益が関東を去って以来、絶えず戦乱に明け暮れていた。
真田、上杉、徳川、北条――幾つもの勢力が交錯し、争いを繰り広げるなか、三九郎もまた、真田の諸士とともに、幾度も徳川・北条と刃を交えた。
そのさなか、一益の縁もあって、昌幸はひそかに秀吉と結び、昨年の冬、次男を人質として大坂へ送り出した。これにより、秀吉の支援を取り付けることに成功したかに思われた。
しかし、今年の七月。
家康が秀吉との和睦を果たし、ついには甲府まで軍を進めたことで、戦火は再び燃え上がろうとしていた。
やがて、昌幸と三九郎の急報を受けた一益は、ただちに秀吉へ書を送り、和睦の調停を依頼する。
八月――。
秀吉自らが仲介に乗り出したことで、ついに徳川との和議は成立し、真田の領内から徳川勢の影は消えた。
だが、依然として北条の動きは不穏である。
信濃を離れることも叶わぬまま、三九郎は刻一刻と迫る戦の気配を見据えていた。
そんな折――。
越前より、一益の訃報が届く。
その知らせを聞いたとき、三九郎の胸を貫いたものは、怒りか、悲しみか、それともただ、ぽっかりと穿たれた虚無だったのか。
畏敬の対象であった父は、もはやこの世にいないのだ。
『今年に入ってから、殿の容態は思わしくなく、この九月に息を引き取られました』
滝川藤九郎の言葉に、三九郎の胸中は激しく波立った。
『今年に入ってから……?』
何故、もっと早く知らせなかったのだ。
『何故だ!何故、もっと早く知らせて来なんだ!』
抑えきれぬ怒りが、声となって噴き出す。
しかし、藤九郎は静かに首を振った。
『殿が――知らせてはならぬと、そう仰せられて……』
一益が知らせを禁じた理由は、三九郎にも分かっていた。
たとえ報せを受けたところで、自分がすぐに駆けつけられるはずがない。
戦況は依然として緊迫し、信濃を動くことすら叶わぬ日々が続いていた。
ようやく北条が兵を退いたのは、家康が上洛を果たした十月のことだった。
すでに、手を伸ばしても届かぬほどの時が過ぎ去っている。
その後、義太夫より書状が届いた。
十二月、暘谷庵にて会いたいと――。
三九郎は戦後処理を終え、一子・久助を真田昌幸の母・恭雲院に預けると、ついに上洛の途についた。
京の空は、すでに冬の色を帯びていた。
ところが暘谷庵に行ってみると、自分を呼び出した義太夫の姿はない。信濃にあって、長らく滝川家の消息を知らぬままにいた三九郎は、ここで初めて、一益の最期と、滝川家の家臣たちの行く末を知ることとなる。
「葉月や八郎を盾に――なんと汚い手を使うてくるのか。天の下において、このような所業が許されてよいものか……!」
怒りに震える三九郎が問い詰めると、今は蒲生家に仕える谷崎忠右衛門が詳細を話して聞かせた。
「して、義太夫はいずこに?」
忠右衛門は深く息を吐き、静かに答えた。
「姫様を取り戻すと申して、飛び出していかれました。向かった先は、大坂の蒲生邸かと」
大坂、蒲生忠三郎のもと――。
三九郎の眉間に深い皺が寄る。
「忠三郎の元にいるのであれば、奪い返すのは造作もない。あやつは常より隙だらけじゃ。……その方、何故に葉月をここへ連れて来なんだのか」
三九郎の鋭い叱責に、忠右衛門は平伏しつつも、慎重な口調で答えた。
「忠三郎様は関白と話をつけ、姫様を取り戻すと約束してくだされた。未だ戻されぬ八郎様のこともありまする。ここで事を荒立てるのは如何なものかと……今少し、辛抱してくだされ」
「忠右衛門……」
三九郎はじろりと忠右衛門を睨みつけた。
「その方、いつからかような腑抜けたことを申すようになった。忠三郎の元にいて毒されたのではないか?」
忠右衛門が何か言いかけるよりも早く、三九郎はきっぱりと言い放つ。
「であれば、わしが行って奪い返すのみよ」
その言葉を聞いた瞬間、忠右衛門の顔がみるみる青ざめた。
「若殿――」
必死の形相で三九郎の袖を掴む。
「若殿は、忠三郎様と顔を合わせぬほうがよろしゅうござります!」
その場に居合わせた者たちの空気が、一気に張り詰めた。
二人が相まみえれば、刃傷沙汰は避けられぬ。
それを聞いていた風花も、眉をひそめた。
「三九郎殿……忠右衛門の申す通りじゃ。若し、三九郎殿の身に何かあれば、殿に申し開きが立たぬ」
家臣たちは口々に三九郎を引き止める。
だが、三九郎はその手を振り払い、迷うことなく踵を返した。
「止めるな。わしは行く」
義太夫が単身、姫を奪い返しに行ったというならば――。
ならば、三九郎もまた、何をためらう理由があるというのか。
三九郎はそのまま、大坂へと向かった。
しかし、三九郎がたどり着いたとき、すでに肝心の葉月の姿はなかった。
大坂城へと移された後だったのだ。
それを知った瞬間、三九郎の胸には、どうしようもない苛立ちと焦燥が込み上げた。
忠三郎――。
もはや、まともな会話など成り立たぬ。
彼の前に立ったところで、何の打開策も見いだせぬことは明白だった。
――打つ手なし。
三九郎は、拳を握りしめながら、大坂を後にするしかなかった。
暘谷庵へと戻る道すがら、彼の脳裏を駆け巡るのは、己の運命への慟哭だった。
――妻子を奪われ、伊勢を追われた。
信濃に身を寄せてからの二年、ただ戦に明け暮れるばかりだった。
父・一益。
あの人の背を見て戦国武将としての生き方を学び、その采配のもとで兵をまとめ、先を見据えて生きてきた。
だが、一益はおらず、信頼していた家臣たちとも引き離され、見知らぬ土地でただ独り、死に物狂いで剣を振るうばかりの年月。
己の運命を呪い、秀吉を恨み、忠三郎を憎んだ。
怒りの行き場すらなく、戦に身を投じるしかなかった。
幾度、死の淵を彷徨ったことか。
それでも、ぎりぎりのところで踏みとどまり、ここまで生き延びることができたのは――
久助がいたからだ。
忠三郎の元から奪い返した、小さな命。
あの幼い手のぬくもりだけが、己が滅びることを許さなかった。
いまやすべてを失った身――
それでも、ただひとつ残されたものが、三九郎をこの世に繋ぎとめていた。
そして都に戻り、初めて知る事実――。
三九郎の知らぬところで、父・一益も、滝川の家臣たちも、秀吉に都合よく利用され、そして捨てられた。
(父上の無念はいかばかりか……)
己の無力を噛みしめ、何をするでもなく、ただ塞ぎ込む日々。
それを、不安げに見守る弟たち。
やがて、心配した風花が、そっと声をかけた。
「三九郎殿。ちと使いを頼まれてくれぬか」
「はい……使い、とは……?」
自分に何の用かと怪訝に思いながらも、頷く。
風花は小さな包みを手渡しながら言った。
「これを三条にいる雪に届けてたもれ。伊勢より参った者たちが持ってきたものじゃ」
三条――。
三九郎の眉がぴくりと動いた。
「三条……? それは、忠三郎の……」
風花は笑みを浮かべた。
「左様。吹雪がおる三条の屋敷じゃ」
三条の屋敷。
それは、秀吉の来訪に備え、忠三郎が建てた、都でも評判の華やかなる邸宅。
かつてそこには、三九郎の元正室・お虎がいた。
――秀吉の側室として。
あの日、三九郎はあの屋敷に忍び込み、お虎と久助を奪い返そうとした。
だが、お虎は同行を拒み、久助だけを三九郎に託した。
その記憶が蘇り、三九郎は思わず眉をひそめる。
風花は、そんな彼の表情を見て、くすりと笑った。
「案ずるな。雪がおる故、忠三郎殿は都へは寄り付かぬ」
それを最後に、強引に三九郎を三条の屋敷へと向かわせた。
行く先には、またしても過去が待っている。
(義母上は何を考えて、わしを使者に立てたのであろう)
風花の真意が伺いしれない。心配してくれているのは分かるが、よりにもよって忠三郎の屋敷に行けとは。
(虎は今、大坂か)
どうしているだろうか。別れ際に見た、虎の涙を堪えた顔を忘れたことはない。巷の噂では、秀吉は今、信長の妹・お市の生んだ姫に入れあげており、側室にして傍に置こうと画策しているらしい。その話が本当であれば、たとえ虎が大坂城にいたとしても、秀吉が虎と顔をあわせることはほぼないだろう。
それが、救いであるのか、虚しさであるのか――。
三九郎は深く息を吐き、都の中心を横切る三条大路へと足を進めた。
通り沿いには、義太夫行きつけの饅頭屋がある。かつて、義太夫が「ここの饅頭は絶品よ」と言いながら、事あるごとに足を運んでいた日々を思い出す。
あれから、どれほどの時が流れたか。
その先に、蒲生邸が見えてきた。門前に立ち、番の者に声をかけると、すぐに中へと通される。
三九郎は長い廊下を渡り、蒲生邸の広間へと通された。
室内は豪奢な装飾が施され、まさしく都でも評判の邸宅にふさわしい佇まいを見せている。
広間の空気は静寂に満ち、しばしの後――。
吹雪が現れた。
「三九郎殿、久方ぶりじゃ」
ゆったりとした所作で歩み寄る吹雪を見つめながら、三九郎は「ハハッ」と軽く頭を垂れた。
「義母上から、これを……」
持たされた包みを取り出す。
吹雪は、その中身を確認し、ふっと微笑んだ。
「おぉ、餅か。風は未だ、餅好きじゃなぁ」
可笑しそうに笑うその表情は、確かに風花とよく似ている。
だが、そこに風花が持つ鋭さは微塵も感じられなかった。
「風や子らは変わりないか?」
吹雪が静かに耳を傾ける。
「はい。父上を亡くし、気落ちしてはおられますが、弟たちの前では気丈にふるまっておいででござります」
吹雪は、「さもあろう」と頷いた。
そして、ふと三九郎を見つめ、こう続けた。
「三九郎殿。すまぬが、これから風に渡す土産の支度をする。夕暮れ時まで待ってはくれぬか」
「は……それは構いませぬが……」
まだ朝だというのに、何を用意するのか。
そんなに時間がかかるものなのか。
疑問を抱きつつも、三九郎は断る理由もなく、侍女に案内された別室で待つことにした。
(義母上もよう分からぬお人じゃが、あの吹雪というお方も、それ以上に分からぬお人じゃな……)
室内に目を向けると、襖絵には鳳凰が描かれていた。
有名な絵師の手によるものなのだろうが、三九郎にはその価値は分からない。
ただ、豪奢であることだけは理解できた。
――しかし、この広間に、そしてこの屋敷に、どれほどの意味があるのか。
三九郎は、ぼんやりと天井を仰ぎながら、吹雪の意図を測りかねていた。
襖の向こうから、人の声が聞こえた。
やがて静かに襖が開く――。
(夕暮れと申していたが……随分と早いな)
不思議に思いながら顔を上げた三九郎は、息を飲んだ。
「虎……」
そこにいたのは、まぎれもなく、お虎だった。
驚いたように三九郎を見つめるお虎。
彼女の唇が震え、かすれた声が漏れる。
「若殿……まことに、滝川の若殿か?」
亡霊でも見たかのような顔だった。
次の瞬間、お虎は部屋に足を踏み入れ、そのまま膝をつき、顔を覆って泣き伏した。
当然、虎は別の場所へ移されたものと思っていた。
――それが、未だにこの三条の屋敷に置かれたままとは。
「義母上は、我らを会わせようとして……」
吹雪と風花、二人が示し合わせ、こうなるよう仕組んだのだろう。
三九郎は、お虎の肩にそっと触れ、静かに言った。
「久助は無事じゃ。よう食べ、よう遊び、逞しく育っておる。それゆえ、もう泣くな」
お虎は涙を拭い、ようやく顔を上げた。
(随分とやつれた……)
最後に見たときよりも、頬はこけ、肌は青白い。
手足は棒のように細く、かつての面影は薄れつつあった。
胸の奥にわずかに疼くものを感じながら尋ねる。
「……あれから如何しておった。関白はここへはよう参るか?」
分かりきった問いだったが、それでも確かめたかった。
お虎は、静かに首を横に振る。
「ただ、時折、花見の宴などに呼ばれまする」
その話は耳にしていた。
秀吉は季節ごとに宴を催し、側室たちを並べ、さながら手に入れた戦利品を愛でるかのように悦に浸る――そんな評判が都に広まっている。
(あの者にとって、側室などはただの戦利品にすぎぬ……)
腹立たしいのは、そんな秀吉の在り様もそうだが、何より、その秀吉に妹を差し出した忠三郎のことだ。
(あぁ、そうか。あやつにとっては、妹など、大事でも何でもないのか)
――所詮、秀吉と同じ。
家を守るための道具の一つとして、妹を差し出したに過ぎぬのだ。
その考えに至ったとき、三九郎はふと気づく。
自分と忠三郎は、根本的に違うのだ。
忠三郎は、大名の子として育ち、家を存続させることを第一としている。
だが、自分は――。
己の身一つで、すべてを背負い、生き抜かねばならぬ身だった。
その差は、埋めようもなく、永遠に交わることはない。
「若殿は……」
お虎が何か言いかけて、ふと口をつぐんだ。
三九郎はその表情を見て、あぁ、と気づく。そして、苦笑交じりに答えた。
「真田の食客とはいえ、浪人暮らしに変わりはなし。未だ独り身じゃ」
真田昌幸からは何度も縁談の話が持ちかけられていた。
だが、今さら大名に返り咲こうという気力もなければ、どこかに仕官する意欲もない。
――迷った末に、一益に相談もせず、すべて断ってしまった。
「然様で……」
お虎は、どこか安堵したような表情を浮かべた。
その横顔を見ながら、三九郎は複雑な思いを抱く。
(久助と、三人でどこかで暮らすことができたら……)
だが、それは叶わぬ夢だ。
お虎は風花のように馬を乗り回す女ではない。
どこまでも古式ゆかしい姫であり、目と鼻の先へ行くにも輿に乗り、少し歩かせると息切れしてしまうほどの体の弱さ――。
信濃までの長い旅路を、ともに歩めるとは思えなかった。
(わしに、関白を凌ぐ力があれば……)
父・一益が、秀吉に劣っていたとは思わない。
しかし、自分はどうだろうか。
一益のような器量が、自分にあるのか?
秀吉はもとより、忠三郎にさえも及ばぬのではないか?
戦国の世を生き抜く「器」ではないのではないか――。
「若殿……かように、刀傷が増えて……」
お虎の細い指が、そっと三九郎の腕に触れる。
三九郎は、かすかに笑った。
「そなたこそ、随分とやつれておるではないか。どこか具合でも悪いのか。飯は食べておるか?」
問いかけに、お虎は頷きもせず、ただ手元を見つめている。
その顔は、思いつめたように沈んでいた。
(妹がこんな状態だというに、あやつは都の町屋を壊して喜び、屋敷に遊女を連れ込んで遊び惚けておる)
忠三郎への怒りが、沸々とこみ上げてくる。
虎はそんな三九郎の思いを知ってか知らずか、ぽつりと呟いた。
「このまま死んでしまいたいと、そう思ておりました」
三九郎は息を呑んだ。
「虎、何を申すか!」
声を荒げる。
虎はただ、かすかに揺れる瞳で三九郎を見つめる。
「生きておれば、いつかは久助の顔を見ることも叶うであろう。久助のためにも、生きねばならぬ」
それは、三九郎自身にも言い聞かせるような言葉だった。
しかし――。
「若殿は、酷いことを仰せになる……」
虎はまた俯き、さめざめと涙を零した。
三九郎は、たまらず虎を抱きしめた。
「どうかわしのためにも、生きてくれ、虎」
虎の肩が、細かく震えた。
「若殿……」
三九郎の腕の中で嗚咽する虎を、慰めるすべはない。
何もしてやれぬ。何も言えぬ。
虎はおろか、妹の葉月さえも救えぬ己の無力が、ただ胸を抉るばかりだった。
それでも――。
この腕の中にある命が、消えてしまわぬように。
せめて、今だけは、この温もりを離すまいと、三九郎は静かに目を閉じた。
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