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【18】襲撃の処理

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 部屋から出た空阿は、領主館から少し離れた空き地に来ていた。

「ふぅ……」

 その空き地は街が管理している土地であり、長年使われていなかったため、雑草も生えっぱなしになっていた。

「さて、どうするかな」

 空阿の手にはシャベルが握られており、足元にはガレスの死体が綺麗にされた状態で置かれていた。

「……とりあえず掘るか」

 空阿はシャベルをしっかりと持つと、地面を掘りだした。

(……埋めるのか?)

「あぁ、そうだよ」

(へー、何でこいつだけなんだ?)

「……こいつは、強かったからな」

(それだけ?)

 空阿は掘る手をいったん止めると、

「そうだなぁ……」

 遠くを眺めながら、ガレスとの戦闘を思い出していた。

「……こいつは、戦士として最後まで戦っていたからな」

 実際、空阿が戦場で暴れていたとき、ほとんどの兵士は逃げるか、何もできないでいたか、遠距離から攻撃をしていただけであった。

「俺がすごいなと思ったやつは、せめてちゃんと埋葬してやりたい」

(ふーん)

 カブルはそれほど興味がないといった様子であったが、特に空阿の行動に対して、何かいう訳ではなかった。しばらくボーっとした後に、空阿は穴掘りを開始した。

 穴を掘り終わると、ガレスの死体の方を向いて手をかざした。

「……火炎フレイム

 そう唱えると、空阿の手から放たれた炎がガレスの体に燃え移り、ガレスの体を燃やしていく。

 ガレスを燃やしている間、空阿は下級悪魔と同化して、用意していた膝ほどの高さがある岩に爪で何やら掘り始めた。

(何してんだ?)

「ここに誰が埋められているのか分かるようにしておかないといけないからな」

 空阿は尖った爪で器用に掘っていき、十数分が経った。

「……よし、こんなもんかな」

 岩には、少し不格好ぶかっこうではあるが、ガレスの名前、没年月日がしっかりと刻まれていた。刻み終わると、すでにガレスの死体もしっかりと焼かれていたようで、そこには灰と骨だけが残っていた。

 それらを拾い集められるだけ拾い集めてツボの中へと入れていく。入れ終わると、ツボにふたをして穴の中にそっと置いた。

「ふぅ……」

 少し休憩した後、空阿はシャベルを持って穴に土を入れていき、入れ終わると、その上に先ほどの岩とガレスの装備を置いていく。

「……疲れたぁ」

 全て置き終わると、空阿は大きく伸びをしてその場に座った。

(お疲れ)

「あぁ」

 空阿はその場で寝ころんで目をつぶった。街の騒音から隔絶かくぜつされたその場所は、風によって揺れる草の音だけが聞こえる。

 ……静かだな。

 その空き地は広いこともあり近くに建物がないため、とても平穏な空気がそこには流れていた。

 この世界で初めて人を殺したな……。

 召喚されてから魔物ではなく、人間を殺したことについて考えていた空阿であったが、その心に後悔や罪悪感といった感情はなく、極めて落ち着いていた。

 ウトウトし始めた頃、

「空阿様よろしいでしょうか?」

 空阿が目を開けると、タリオンが顔を覗き込んでいた。

「タリオンか……どうした?」

「全員から情報を聞き出せたので、報告にうかがいました」

「おー、もう終わったのか」

 空阿は立ち上がると、服についた草や土を払った。

「とりあえず中に入ろうか」

「かしこまりました」

 空阿とタリオンは屋敷の中に入り、談話室に向かうことにした。

「必要以上に痛めつけていないか?」

「真実を話していただくために、多少痛めつける必要はありましたが、必要以上には行っておりませんのでご安心ください」

「そうか、ならいいんだ」

 そんなことを話していると、談話室にたどり着いた。談話室に入ってソファーに座ると、タリオンは数枚の書類を空阿に渡した。

「今回の内容を紙にまとめてみました」

 書類を見てみると兵士の名前、身長や体重、質問とそれに対する答えが綺麗にまとめられていた。

「すごいな。タリオン」

「お褒め頂きありがとうございます」

 空阿はレベルの上昇に伴い、本に書かれている悪魔の情報をある程度読めるようになっており、そのおかげで、どの悪魔を召喚するか選ぶときに、全く情報が無いということがなくなっていた。

 そして、今回タリオンを選んだ理由は、そのタリオンの能力が関係していた。タリオンの能力の1つには、人の発言が真実なのか虚偽きょぎなのかを判断することができるというものがあった。

「ふむふむ」

 書類を見ていくと、今回侵攻してきた軍勢の情報が明らかになっていく。

「……なるほどな。近くの街か」

 今回侵攻してきたのは、近隣にあるゲセベリヌの街からの軍勢であったが、内通者からの報告で空阿の戦力を舐めていたのか、街の軍隊のほんの一部しか派遣していなかった。

「ほんの一部ということは、軍隊の本体は数倍あるってことか……」

 書類をペラペラとめくっていく。

「……特に重要な情報はなさそうか」

 捕らえた兵士達はある程度上の階級の者達であったが、内通者に関する情報や軍に関する機密情報などは知らなかった。

「内通者はどうしたものかなぁ……」

「私が1人1人調べましょうか?」

「うーん……そうだなぁ……」

 クルスハとタリオンの能力を使えばすぐに見つけられるだろうけど……。

「いや、しばらく泳がせておこう」

「それは……何故ですか?」

「現状内通者を泳がしておいて大して困ることは無いし、あんまりこっちの手の内を見せたくないからなぁ……。それに、領主館関係者にはいないみたいだし、正確な情報は把握できていないようだしね」

「なるほど……」

「それに、ゲセベリヌの街からの内通者以外にもいるかもし、ここで捕まえて警戒させるよりも油断させておきたいからな」

 空阿はソファーから立ち上がり、

「タリオン。お疲れ、戻ってくれ」

「いつでもお呼びください」

 タリオンはその場から消えると、空阿は談話室を出て書類を自室に置いた後に、街の外へと向かった。

 街の外では、サムフラが下級悪魔に指示を出していた。

「サムフラ」

「これはこれは、空阿様。御覧の通り、死体の処理を行いつつ、街の周りを下級悪魔に警戒させております」

 サムフラが示す先には兵士達の死体が積みあがって、激しく燃えている。そして、近くにいる下級悪魔が頃合いを見ながら、死体を炎の中に放り込むという作業を行っていた。

「警備の方はどうなってる?」

「街の周囲1km以内を下級悪魔に調べさせておりますが、残党はおりませんでしたので、今はもう少し離れた範囲を調べさせております」

「分かった。引き続き警戒は頼む」

「お任せください」

 サムフラは頭を下げてしわがれた声でそう答えると、衣服についた宝石がキラキラと光っていた。

「……そういえば、兵士達の装備はどうしたんだ?」

 燃やされている兵士達は装備を脱がされていたが、その装備が見当たらないため空阿は疑問に思ってサムフラに聞いてみた。

「装備でしたら、集めて私が持っていますが、お使いになられますか?」

「いや、今のところ使う予定はないけど、サムフラは何かに使うのか?」

「いえ、私もいずれ使うかもしれないと思い、集めておいただけです」

「なるほどね。それじゃあ、そのまま持っておいてもらえる?」

「かしこまりました。お使いになられる際には、いつでもお声がけください」

「あぁ、必要になったら言うね。……それじゃあ、俺は行くけど、引き続き警戒よろしく」

「お任せください」

 空阿はサムフラと別れると、領主館に戻った。
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