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【23】刈り取り-ディアヘル近郊-2

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「……さて、やりますか」

「さぁ、やるぜぇ」

「すぐに終わらせます」

 3体の悪魔の後ろに巨大な魔法陣が現れる。

「な、なんだ、あれは……」

 突然現れた魔法陣に驚き、軍勢の足は徐々に止まる。そして、次の瞬間、魔法陣から下級悪魔や悪霊といった者達が次々と出現していく。

 軍勢の前には数百体もの下級悪魔と悪霊が立ちふさがる形となった。

「目の前の敵を殺しつくしなさい」

 アシスの言葉と共に下級悪魔と悪霊は人間の軍勢に向かって突撃していく。ノックとアレリエの所でも同様に戦闘が開始された。

「えーと、あそこですかね」

 アレリエは1人の兵士に狙いを定めると、魔力でできた矢を放った。放たれた矢は真っすぐ飛んでいき、兵士に刺さる。

「ぐぅぅ……え、衛生兵!!」

 矢が刺さった兵士の元に衛生兵が駆け寄り、治癒魔法を唱えるが、

「まだ治らんのか!?」

「そ、それが、傷が全然癒えないんです!!」

「な、なんだと……」

 衛生兵が一生懸命治癒魔法を掛けてはいるが、治癒魔法の効きが悪く、少しづつしか傷が治っていかない。その間にもアレリエの矢が兵士に刺さっていき、怪我人が増えていく一方であった。

「次は……あそこですか」

 アレリエは下級悪魔に向かって矢を放つと下級悪魔に刺さる。しかし、その矢は下級悪魔の体を傷つけることなく体の中に消えていき、それまでに負っていた傷が徐々にえていく。

 アレリエの軍勢は徐々に人間の軍勢を押し込んでいく。

「ほぉ、中々やるじゃないか」

 ノックはアレリエ軍の方を見ながらそう言うと、

「次は俺の番だな」

 武器を構えて敵軍の中に突っ込んでいく。両手で持った大剣で敵を切りつけたかと思うと、次の瞬間には棍棒を持っており、それでおもいっきり敵の頭を叩き割る。側面から振り下ろされた剣を鉤爪かぎづめで受け流して、体制の崩した敵の体を大槍で貫く。

「え、遠距離から攻撃をしろ!!」

 ノック目掛けて魔法が放たれるが、大盾でそれを難なく受け止めると、思いっきり息を吸い込み、叫んだ。

「もっと楽しませろ!!」

 ノックの雄たけびを受けた兵士の中には腰を抜かす者までいた。

 アシスは狼の姿になり、敵の中を縦横無尽に走り回って、敵の命を刈り取っていく。

「……2人ともさすがですね」

 そう呟く口からは高温の炎が吐き出され、周辺の兵士達を焦がしていく。

 3体悪魔の活躍もあり、人間の軍勢を徐々に押し込んでいき、戦況はディアヘル勢が優勢であった。

 ラシウールはそんな様子を遥か後方から眺めていた。

「どうしたものか……」

 頬に一筋の汗がタラーっと流れる。

 徐々に押し込まれていく自分の軍勢を見ていたラシウールは、

「……各街の代表を集めろ」

 絞り出すように伝令係にそう伝えた。

 伝令を出してから数分後、各街の代表2名と副官数名がラシウールの元に集まった。

「よくぞ集まってくれた」

 ラシウールは集まった者たちを見渡す。

「現状、我々は非常にまずい状態だ。誰か打開策を持っている者はいるか?」

 集まった者達は考えるそぶりを見せてはいるが、大したことを考えてはいないということがラシウールの目から明らかであった。

 それでも、何かしらの案が出るかと待っていたラシウールであったが、これ以上待っても出てこないと考え、ゆっくりと口を開く。

「このままでは、全滅するまで戦うか、撤退するしかないだろう」

 代表の1人が撤退という言葉に反応した。

「ウルア共和国の1員として、撤退など考えられませぬ!!」

 その言葉と共に、周りにいる者達もそうだそうだと声を上げる。

「では、全滅するまで戦うというのか?」

「それは……」

 撤退することには猛烈に反発したが、全滅するまで戦うとなると黙ってしまう各街の代表に呆れと怒りという感情が湧き上がったラシウールであったが、その感情を表には出さず、極めて落ち着いた口調で続けた。

「……壊滅することは私も望んではいない。だが、現状の戦力では勝つ見込みは限りなく0だ」

 ラシウールの言うことに反論する者はいなかった。

「そこでだ、我々は今すぐ撤退して、戦力を温存するべきだと考える」

「しかし……!!」

 ラシウールは片手で兵士が反論しようとするのを静止する。

「確かに撤退は不名誉な負けなのかもしれないが、次勝つ確率を上げるためには撤退するしかあるまい」

 前線で戦っている兵士達の方を向いた。

「……今すぐ決めなくてはならない。今こうしている間も兵士達は死んでいるのだ!!」

 ジリジリと前線は下がっており、軍全体の3分の1ほどの兵士が死んでいる。

「相手の戦力は底知れん……。ウルア会議を開いて、全ての街で攻めるしかないだろう……」

 しばらくの沈黙が流れた後、代表の1人は大きく息を吐くと、目をゆっくりと開いて真っすぐラシウールを見つめる。

「……了解した。今すぐ撤退するように号令をかけよう」

 もう1人の代表はその言葉に驚いたが、しばらくの沈黙の後、唇をかみしめ、撤退することをラシウールに伝えた。

「勇気ある決断感謝する!!ぐに行動に移してくれ」

 その言葉と共に、代表達は自身の軍へと戻っていく。その様子を眺めていたラシウールは、頃合いを見て号令をかけると共に撤退を開始した。

「……どうやら撤退し始めたようですね」

 アシスは兵士達が撤退していくのを確認すると、人間の姿に戻った。

「追いかけねぇのか?」

 血を浴びて真っ赤に染まった体を揺らしながらノックがアシスに近づいていく。

「はい。空阿様が無理に追う必要はないと仰ってました」

「じゃあ、無理しなかったら追いかけてもいいってことだよな?」

 アレリエも戻ってきていたようで、やれやれといったように、ため息をついた。

「あなたは馬鹿なんですか?敵が撤退したら追いかけるなって意味が含まれているに決まっているでしょう」

「ば、馬鹿だと!?」

 ギャーギャーとアレリエとノックは言い争いを始めた。

「……はぁ」

 アシスはため息を吐きながらも、アレリエとノックの元に近づき、

「そこまでです!!まだやることがあるんですよ!!」

 2体の間に割って入った。アレリエとノックは何かを言いたそうにしていたが、フンと言うとスタスタとお互いの持ち場に歩いて行った。

「まったく……」

 アレリエとノックが作業を開始したのを確認すると、アシスはも下級悪魔に命令して、死体の処理を開始した。

「……空阿様も無事終わっておられると良いのだが」

 アシスは遠くを眺めながらそう呟いた。
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