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湯上がりと謎と、言えない気持ち
しおりを挟む湯上がり、脱衣所に戻ったとき。
涼真が何気なく言った。
「そういえば、今週末空いてます?」
「……ん、まあ……」
「じゃあ、また壁乳、行きません?」
「っ……!」
俺はタオルを握る手に力が入った。
(やっぱ、あいつ……何か、わかってて言ってる?)
俺が、ひそかに壁乳にハマりつつあること。そして、壁の向こうの相手が、涼真であることを気づきつつあること。にもかかわらず、壁乳通いがやめられなくなりつつあること。そのせいで涼真のことを意識しつつあること。しかし、そのことに躊躇いも感じていること。それら、全てをわかったうえで、俺の狼狽を楽しんでいるのか!? なんのために!? 先輩をおちょくることが、涼真のストレス解消なのか!?
「なんか最近、先輩、仕事楽しそうだから。ストレス解消、うまくいってるのかな~と思って」
意味深に笑う涼真。
そのくせ、左胸を隠すような仕草も特に見せない。
(……こいつ、本当に“あの相手”なのか……?)
いや。きっとそうだ。
それなら、あのときの声も。甘えた吐息も――全部、涼真のだったってことになる。
もし、バイトしてるなら、あんな声を俺以外にも聞かせてるってことになる。
「あのさ、お前、なんか悩みとか、困ったこととかあったら、いつでも俺に相談しろよな」
俺は言った。
「え?」
涼真は、きょとんとした顔をする。
「いや、だからさ、例えば、生活に……金に困ってるとかあっても……俺は貸すことはできないが、そういうのは良くないからな、でも、相談にはのるから」
「あー、時々、そういうのありますもんね。会社のお金を使いこんだとか? 大丈夫ですよ。俺、慎ましく暮らしてるんで。娯楽は、時々あの店で遊ぶくらいで。酒もタバコもやりませんから。彼女もいないですしね」
彼女いないって、ほんとかよ? なんで、こんな、好青年が……。しかし、どこか、ほっとしている俺がいる。ほっとしているどころか、それが確認できて、嬉しいとさえ思っている。まあ、自分が彼女にふられたばかりだから、仲間って思えるからかもしれないが。
「ならいいんだけどさ……」
「もう、先輩ったら、心配性だなあ。でも嬉しいですよ。そんな風に言ってくれるの先輩だけですし。今は特に困ってることないですけど、何かあったら相談させてください」
まっすぐな目で、見つめて、にっこり笑う涼真が、不特定多数に乳首を弄らせたり、舐めさせたり……やばっ……。それはそれで、くるものがあるが……。ダメだ。そんなこと。
困ってないということは。あれは趣味でやってるバイトなのか? どういうこと?
まあ、本人が困ってないと言う以上、これ以上は踏み込めない。
その夜。ベッドに寝転がっても、心臓の音だけがうるさかった。
あのほくろ。
あの反応。
あの声。
(あいつが……俺に、あんな……)
まぶたを閉じると、舌に残った感触がよみがえる。
先輩、と喘ぐ、掠れた声。
甘く揺れる、柔らかな乳首。
(……俺、ほんと、何してんだ……)
冷静になろうとするが、もう無理そうだった。
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