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7回目。手が、記憶している感触
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七回目の壁越しプレイ、
涼真の「手」に揺さぶられ、
俺の理性は、ますます崩れていく。
◆
午後のオフィス。
エアコンの風の音だけが静かに響いている。
俺は、涼真の手を見ていた。
ペンを持つ手。
細い指で、ささっとメモを取る姿。
袖からのぞく手首、白くて、血管が薄く浮いている。
(……あの手に、触れた……気がする)
無意識に、見てしまう。思い出してしまう。
(壁の向こうで、俺の指を、ぎゅっと握ったあの――)
パチパチとキーボードを打つ音。
タイピングが早い。手の動きが滑らかで、癖がある。
(あの指、見たことある)
からめたことがある。握ったことがある。
(あのときは薄暗くて、今ほど見えてない。けど、あのときは、もっと、感触で――その温度まで、その指の強さまで、皮膚の滑らかさ、骨のかたさ、筋肉の弾力まで、知っている)
書類を渡すとき、手が触れる。
軽く俺の指に触れただけなのに、心臓が跳ねる。
(この温度。質感。反応のしかた……)
頭が勝手に、あの部屋を思い出す。
柔らかい乳首。
なめらかな肌。
ピクンと跳ねる腹筋。
――そして、絡んだ指先。
「どうしたんですか?」
涼真が、不意に俺の横にしゃがみこんでくる。
「せ・ん・ぱ・い」
耳元にそっと、ささやかれた。
「俺の手なんか見つめて。さては、もう溜まっちゃったんですかぁ?」
(う……)
「行きますか? 今日の帰り。あの店。いいんですよ? 遠慮しなくても。俺も行きたいですから」
のどが渇いて、ごくりと唾を飲んだ。
言葉が出ない。でも、目が合ったまま――
「うん」と頷いてしまう。
それだけで、涼真が嬉しそうに笑った。
そして、仕事終わり。
俺たちはまた、あの「壁のある部屋」に向かっていた。
📘プレイルーム:七回目
俺はW-87を指名すると、
もう習慣のように脱いで、壁の前に立った。
すぐに壁のカバーが開き、
乳首、そして少し下の肌、腹部、手――が現れる。
今日は最初から、相手の手が出ていた。
俺の方に、手のひらを上に向けて、差し出すように。
(……触ってこい、ってことか?)
そっと指を重ねると、向こうがすぐに反応して、
俺の手を包み込むように絡めてくる。
指先がゆっくり撫でる。
俺の甲を、掌を、甘くくすぐるように。
(やっぱり、涼真――お前だろ)
昼間見た手を思い出しながら、その感触を味わう。
(はぁ。気持ちいいな)
ただ手を触れているだけなのに、心がほどけていく。
乳首に舌を這わせながら、
もう片方の手で、お腹の肌をなぞっていく。
しっとりした肌。
熱を帯びた体温。
指で軽く撫でただけで、腹筋がピクッと跳ねた。
(この反応……やっぱり、いい)
ゆっくり、ゆっくり、
指先をへその近くまで滑らせる。
向こうの手が、ぎゅっと力をこめて、俺の手を引いた。
少しだけ上体を前に乗り出して、
壁越しに、肌と肌がぶつかりそうな距離になる。
「……ん、っ」
小さな吐息がもれた。
触れた指先。
震える腹。
絡んだ手。
濡れた乳首。
目の前には壁がある。
でも、もう気持ちはつながっている。
終了のランプが点灯しても、手は、なかなか離されなかった。
蓋が閉まりかけて、やっと、仕方なさげに、名残惜しそうに手が離れていく。
(なあ……お前、本当に……)
口に出したいが、まだ言えなかった。
📘脱衣室に戻って
いつものように、服を着て出ると――
涼真が待っていた。
「あっ、おつかれさまですっ。今日も……すっごく、よかった」
「……そうかよ」
「先輩は、どうです? “相性”いいと思いません? 俺は、けっこういいと思ってるんですよ。このまま回数重ねたら、下も……解禁、ですよね? 先輩は、どうします? もちろん、しますよね?」
ふと見た涼真の手。
指の関節の形、爪の色――
(やっぱり、あのときの……)
確信が、もう崩れない。
でも、俺はまだ、言葉にできなかった。
俺は――
「壁の向こうの誰か」じゃなくて、お前に、触れたいのに。
📘次回:8回目:触れるたびに、恋が深まる
涼真の手が、俺の手を引いてくる。
もう止められない。
もう、誰かじゃ意味がない。
「お前」だから、触れたい。
涼真の「手」に揺さぶられ、
俺の理性は、ますます崩れていく。
◆
午後のオフィス。
エアコンの風の音だけが静かに響いている。
俺は、涼真の手を見ていた。
ペンを持つ手。
細い指で、ささっとメモを取る姿。
袖からのぞく手首、白くて、血管が薄く浮いている。
(……あの手に、触れた……気がする)
無意識に、見てしまう。思い出してしまう。
(壁の向こうで、俺の指を、ぎゅっと握ったあの――)
パチパチとキーボードを打つ音。
タイピングが早い。手の動きが滑らかで、癖がある。
(あの指、見たことある)
からめたことがある。握ったことがある。
(あのときは薄暗くて、今ほど見えてない。けど、あのときは、もっと、感触で――その温度まで、その指の強さまで、皮膚の滑らかさ、骨のかたさ、筋肉の弾力まで、知っている)
書類を渡すとき、手が触れる。
軽く俺の指に触れただけなのに、心臓が跳ねる。
(この温度。質感。反応のしかた……)
頭が勝手に、あの部屋を思い出す。
柔らかい乳首。
なめらかな肌。
ピクンと跳ねる腹筋。
――そして、絡んだ指先。
「どうしたんですか?」
涼真が、不意に俺の横にしゃがみこんでくる。
「せ・ん・ぱ・い」
耳元にそっと、ささやかれた。
「俺の手なんか見つめて。さては、もう溜まっちゃったんですかぁ?」
(う……)
「行きますか? 今日の帰り。あの店。いいんですよ? 遠慮しなくても。俺も行きたいですから」
のどが渇いて、ごくりと唾を飲んだ。
言葉が出ない。でも、目が合ったまま――
「うん」と頷いてしまう。
それだけで、涼真が嬉しそうに笑った。
そして、仕事終わり。
俺たちはまた、あの「壁のある部屋」に向かっていた。
📘プレイルーム:七回目
俺はW-87を指名すると、
もう習慣のように脱いで、壁の前に立った。
すぐに壁のカバーが開き、
乳首、そして少し下の肌、腹部、手――が現れる。
今日は最初から、相手の手が出ていた。
俺の方に、手のひらを上に向けて、差し出すように。
(……触ってこい、ってことか?)
そっと指を重ねると、向こうがすぐに反応して、
俺の手を包み込むように絡めてくる。
指先がゆっくり撫でる。
俺の甲を、掌を、甘くくすぐるように。
(やっぱり、涼真――お前だろ)
昼間見た手を思い出しながら、その感触を味わう。
(はぁ。気持ちいいな)
ただ手を触れているだけなのに、心がほどけていく。
乳首に舌を這わせながら、
もう片方の手で、お腹の肌をなぞっていく。
しっとりした肌。
熱を帯びた体温。
指で軽く撫でただけで、腹筋がピクッと跳ねた。
(この反応……やっぱり、いい)
ゆっくり、ゆっくり、
指先をへその近くまで滑らせる。
向こうの手が、ぎゅっと力をこめて、俺の手を引いた。
少しだけ上体を前に乗り出して、
壁越しに、肌と肌がぶつかりそうな距離になる。
「……ん、っ」
小さな吐息がもれた。
触れた指先。
震える腹。
絡んだ手。
濡れた乳首。
目の前には壁がある。
でも、もう気持ちはつながっている。
終了のランプが点灯しても、手は、なかなか離されなかった。
蓋が閉まりかけて、やっと、仕方なさげに、名残惜しそうに手が離れていく。
(なあ……お前、本当に……)
口に出したいが、まだ言えなかった。
📘脱衣室に戻って
いつものように、服を着て出ると――
涼真が待っていた。
「あっ、おつかれさまですっ。今日も……すっごく、よかった」
「……そうかよ」
「先輩は、どうです? “相性”いいと思いません? 俺は、けっこういいと思ってるんですよ。このまま回数重ねたら、下も……解禁、ですよね? 先輩は、どうします? もちろん、しますよね?」
ふと見た涼真の手。
指の関節の形、爪の色――
(やっぱり、あのときの……)
確信が、もう崩れない。
でも、俺はまだ、言葉にできなかった。
俺は――
「壁の向こうの誰か」じゃなくて、お前に、触れたいのに。
📘次回:8回目:触れるたびに、恋が深まる
涼真の手が、俺の手を引いてくる。
もう止められない。
もう、誰かじゃ意味がない。
「お前」だから、触れたい。
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