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第2部 大帝国のヤンデレ皇子に囚われたりなんてしない!
第16章 アリーシャ、闇属性の力を手にする
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「我がジリアーティ家には真偽の定かでないユウェンタスの伝承が幾つも残されています。そのうちのひとつが、最終兵器 "布都之御霊" 。持つ者に神の如き力を与えるという伝説の剣です」
「その話……私も母上から聞いたことがある。ただし "資格無き者" が手にすれば、怒り狂った御霊に取り憑かれて自我を失い、最終的には敵味方の区別なく無差別に破壊を行う狂戦士となる。使用者があまりに限られていたために、実際にはほとんど使われることなく、触れてはならぬ "呪われし剣" として封じられていた……。それを、父上が解き放ってしまったと言うのか……?」
クリアの問いに、ヴィオランドは重々しく頷く。
「このままでは帝都は狂戦士と化した皇帝陛下とケリュネイアの聖霊戦士たちにより滅亡してしまいます。択れる手段はひとつのみ。陛下を倒し、 "呪われし剣" をジリアーティの血を引く者の手で封じることです。ジリアーティ家はユウェンタスで祭祀を司っていた一族の末裔。剣に触れても荒ぶる御霊に精神を侵されることはないはず……」
クリアは無表情にそれを聞いていたが、やがて静かに顔を上げた。
「……ならばその役目、この私が引き受けよう。皇帝の不始末は皇子が方をつけるべきだろう」
「父殺しの重荷を自ら背負うおつもりですか」
「……それが私の運命なのだろう。私はこれより皇帝……いや、狂戦士討伐へ向かう。ヴィオランド将軍。私の代わりに彼女を保護し、安全な場所へお連れしてくれないか?今はこのような姿をしているが、この方はシェリーロワールのアリーシャ王女殿下。くれぐれも失礼のないように」
「この方が……!」
ヴィオランドが目を見開いて私を見る。
「皇子、くれぐれもお気をつけて。それと、狂戦士の元へはシェリーロワールから来たという英雄志願の青年も向かっています。なかなかの実力者のようでしたから、皇子のお力となるでしょう」
クリアはひとつ頷くと、宮殿の奥へと走り去っていった。
……どうしよう。このままではオリジナルのシナリオ通りの展開だ。
クリアはレッドと共に皇帝を倒す。だが、父をその手にかけてしまったという罪の意識を一生背負っていくことに……。
「ダメ!やっぱりこんな展開、哀し過ぎるよ!」
クリアの後を追って駆け出そうとするが、ヴィオランド一行に止められる。
「おやめください、アリーシャ殿下!宮殿の中と言えど、今は危険な状況!御身に何かあっては困ります!」
……確かに、今回はセイクリッド・シザーもあまり役には立たない。
私が行ったところで何の戦力にもならないかも知れない。
でも、じっとしているのも辛過ぎる。
「あぁ……。光属性の敵に有効な、闇属性の力でもあればいいのに……っ!」
誰かに助けを求めるように叫びを上げたその時、私の脚にするりと何か柔らかいものが触れた。
「闇属性の力?ならば此処にあるではないか。我の力を求めているのか?アリーシャ姫」
見下ろすと、私の脚にすり寄るようにして1匹の灰色の猫が立っていた。
「アッシュたん!」
「遅れてすまぬ。あの目付役、意外な剛腕の持ち主でな。本当に魔界に飛ばされてしまったゆえ、戻って来るのに手間取ったのだ」
「ううん!ナイス・タイミングだよ!来てくれてありがとう、アッシュたん!」
私はアッシュを抱き上げ、頬をスリスリする。
「ね……猫がしゃべった……!?」
「王女殿下!何なのですか、その猫は!? モンスターではないのですか!?」
……惜しい。モンスターじゃなくて魔王なんだけど。
「このコは私のボディーガード。すっごく強いので、もう皆さんの護衛は必要ありません。どうか皇子の援護に向かうか、町で逃げ遅れた人がいないか見て回るかしてください」
「そんなわけには参りません!そんな猫一匹に何ができると仰るのですか!」
「そうですよ!我々を揶揄わないでください!」
兵士たちはアッシュの実力を全く信じようとしない。
まぁ、見た目がただの可愛こニャンなので無理もないが……。
「あっ、じゃあアッシュたん。ちょっとそこのケリュネイアさんを倒してみせて」
「了解した」
ちょうど宮殿の廊下の角を曲がってケリュネイアの聖霊戦士がやって来た。
兵士たちは色めき立ち、私を守るように陣形を組むが、アッシュはまるでお散歩でもしているかのように平気でトテトテ聖霊戦士の前へと歩いていく。
「古の帝国の亡霊よ。我が闇の炎で永遠の眠りに就くが良い!」
そう言ってカッと開かれたアッシュの口から、黒っぽい炎が吐き出された。
純粋な黒というわけではなく、時々チラチラと灰色や青の光を揺らめかせるそれは、炎の獅子へと形を変え、聖霊戦士に襲いかかる。
聖霊戦士は獣のような咆哮を上げながら闇の炎に包まれ消えていった。
さすがは魔王。このレベルの敵が相手ではチートが過ぎるくらいだ。
「猫が……黒い獅子を吐いた……!?」
「何ださっきのは!? 新しい攻撃魔法なのか!?」
「さすがは王女殿下!このような珍獣をペットにされているとは!」
兵士たちがどよめく。
どうやらアッシュの実力を見せつけるには充分だったようだ。
「その話……私も母上から聞いたことがある。ただし "資格無き者" が手にすれば、怒り狂った御霊に取り憑かれて自我を失い、最終的には敵味方の区別なく無差別に破壊を行う狂戦士となる。使用者があまりに限られていたために、実際にはほとんど使われることなく、触れてはならぬ "呪われし剣" として封じられていた……。それを、父上が解き放ってしまったと言うのか……?」
クリアの問いに、ヴィオランドは重々しく頷く。
「このままでは帝都は狂戦士と化した皇帝陛下とケリュネイアの聖霊戦士たちにより滅亡してしまいます。択れる手段はひとつのみ。陛下を倒し、 "呪われし剣" をジリアーティの血を引く者の手で封じることです。ジリアーティ家はユウェンタスで祭祀を司っていた一族の末裔。剣に触れても荒ぶる御霊に精神を侵されることはないはず……」
クリアは無表情にそれを聞いていたが、やがて静かに顔を上げた。
「……ならばその役目、この私が引き受けよう。皇帝の不始末は皇子が方をつけるべきだろう」
「父殺しの重荷を自ら背負うおつもりですか」
「……それが私の運命なのだろう。私はこれより皇帝……いや、狂戦士討伐へ向かう。ヴィオランド将軍。私の代わりに彼女を保護し、安全な場所へお連れしてくれないか?今はこのような姿をしているが、この方はシェリーロワールのアリーシャ王女殿下。くれぐれも失礼のないように」
「この方が……!」
ヴィオランドが目を見開いて私を見る。
「皇子、くれぐれもお気をつけて。それと、狂戦士の元へはシェリーロワールから来たという英雄志願の青年も向かっています。なかなかの実力者のようでしたから、皇子のお力となるでしょう」
クリアはひとつ頷くと、宮殿の奥へと走り去っていった。
……どうしよう。このままではオリジナルのシナリオ通りの展開だ。
クリアはレッドと共に皇帝を倒す。だが、父をその手にかけてしまったという罪の意識を一生背負っていくことに……。
「ダメ!やっぱりこんな展開、哀し過ぎるよ!」
クリアの後を追って駆け出そうとするが、ヴィオランド一行に止められる。
「おやめください、アリーシャ殿下!宮殿の中と言えど、今は危険な状況!御身に何かあっては困ります!」
……確かに、今回はセイクリッド・シザーもあまり役には立たない。
私が行ったところで何の戦力にもならないかも知れない。
でも、じっとしているのも辛過ぎる。
「あぁ……。光属性の敵に有効な、闇属性の力でもあればいいのに……っ!」
誰かに助けを求めるように叫びを上げたその時、私の脚にするりと何か柔らかいものが触れた。
「闇属性の力?ならば此処にあるではないか。我の力を求めているのか?アリーシャ姫」
見下ろすと、私の脚にすり寄るようにして1匹の灰色の猫が立っていた。
「アッシュたん!」
「遅れてすまぬ。あの目付役、意外な剛腕の持ち主でな。本当に魔界に飛ばされてしまったゆえ、戻って来るのに手間取ったのだ」
「ううん!ナイス・タイミングだよ!来てくれてありがとう、アッシュたん!」
私はアッシュを抱き上げ、頬をスリスリする。
「ね……猫がしゃべった……!?」
「王女殿下!何なのですか、その猫は!? モンスターではないのですか!?」
……惜しい。モンスターじゃなくて魔王なんだけど。
「このコは私のボディーガード。すっごく強いので、もう皆さんの護衛は必要ありません。どうか皇子の援護に向かうか、町で逃げ遅れた人がいないか見て回るかしてください」
「そんなわけには参りません!そんな猫一匹に何ができると仰るのですか!」
「そうですよ!我々を揶揄わないでください!」
兵士たちはアッシュの実力を全く信じようとしない。
まぁ、見た目がただの可愛こニャンなので無理もないが……。
「あっ、じゃあアッシュたん。ちょっとそこのケリュネイアさんを倒してみせて」
「了解した」
ちょうど宮殿の廊下の角を曲がってケリュネイアの聖霊戦士がやって来た。
兵士たちは色めき立ち、私を守るように陣形を組むが、アッシュはまるでお散歩でもしているかのように平気でトテトテ聖霊戦士の前へと歩いていく。
「古の帝国の亡霊よ。我が闇の炎で永遠の眠りに就くが良い!」
そう言ってカッと開かれたアッシュの口から、黒っぽい炎が吐き出された。
純粋な黒というわけではなく、時々チラチラと灰色や青の光を揺らめかせるそれは、炎の獅子へと形を変え、聖霊戦士に襲いかかる。
聖霊戦士は獣のような咆哮を上げながら闇の炎に包まれ消えていった。
さすがは魔王。このレベルの敵が相手ではチートが過ぎるくらいだ。
「猫が……黒い獅子を吐いた……!?」
「何ださっきのは!? 新しい攻撃魔法なのか!?」
「さすがは王女殿下!このような珍獣をペットにされているとは!」
兵士たちがどよめく。
どうやらアッシュの実力を見せつけるには充分だったようだ。
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