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第4部 鬼姫の着せ替え人形なんて、まっぴら!

第1章 アリーシャ、兄王子と一緒に夏休み

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 ゲーム制作でテキスト入力していると、知らず知らずのうちに誤字脱字していることも、よくある。
 そして、テストプレイの時になって、やっとミスに気づいたりする。
 
『ちょっと創君、ココ、魔境まきょうの森じゃなくて魔の森になってるけど!?』
 
『マジか!? たぶん変換ミスだな。修正しないと……』
 
 普通なら、気づいた時点で修正する。
 だが、私たちは普通よりだいぶテキトーでグダグダだった。
 
『いや、待てよ。魔の森もアリじゃね?むしろソッチの方が森自体に個性が出て良くね?』
 
『え、じゃあ、ダンジョンの仕掛しかけに "鏡" 使ったりすんの?』
 
『そうだな。じゃあ、ついでにテスト勉強にも役立つような仕掛けにしとくか……』
 
 ……そんなこんなで、人間世界と魔界の "さかい" にあるにも関わらず "魔の森" という、この森が誕生たんじょうしたのだ。
 
 
「若様、姫様、もうもなくきますぞ!我が故郷ミラージュヴィルに!」
 
 私の "じいや" こと宮廷魔術師パープロイ・ルピナスが、どこかはしゃいだ声で言う。
 
「……ほう。じいも、さすがに里帰りはうれしいと見える。いつも無駄むだに年寄りぶったじいが、まるで子どものようではないか」
 
 窓しにそれを見て、無駄に良い声で笑うのは、私の "兄" ジェラルド・シェリーローズだ。
 
「あのー……お兄様?これってルール違反いはんなのでは?万一の事態にそなえて、王位継承者は同じ乗り物に乗り合わせないのがセオリーなんじゃ……?」
 
 馬車という密室の中、この兄と二人きりというのは、ビミョウに嫌な圧力がある。
 
 だが、この兄、何をどうさとそうと、言うことを聞く気が無い。
 
「何を言う。お前は今や、レベル19の実力者なのだろう?そして私はレベル21。戦力がバラバラに分散しているより、同じ場所に集中していた方が、万一の際、はるかに安全ではないか」
 
「……何でもいいですけど、近い。近いです、お兄様」
 
 この兄、身を乗り出すフリをして、すぐ妹に接近して来る。油断もスキも無い。
 
兄妹きょうだい水入らずで夏期休暇きゅうかなど、幼少期以来だな。思う存分ぞんぶん、楽しもうではないか」
 
「水入らずじゃないです。創く……ユースもじいやも、他の騎士たちもいますから!第一、一応お仕事なんですからね!」
 
 
 今回の旅は名目上、シェリーロワール王からエルフの長へ親書を届けるため、ということになっている。
 
 だが実質、コレがただの "夏休み" であることを、私は知っている。
 
 
『ねー、創君。この世界には夏休みって無いの?』
 
 そんな会話をしたのは、確か夏休みに入ったばかりのころだった気がする。
 
『……夏休みか。あってもいいな。水着回とか作れるし』
『この2Dドット絵で水着回やって、何か楽しいの?』
 
 
 ……そもそもゲームなのに "回" って、どうなんだろう……なんて、過去の会話に心の中でツッコミを入れているうちに、馬車は目的地に到着とうちゃくした。
 
 魔鏡の森の中でも、人間世界に一番近いエリア――そこに存在する、エルフのさとミラージュヴィル。
 
 シェリーロワール王国は百年以上も前から、この郷と交流がある。王族の子女が "異文化を学ぶため"、郷に短期滞在たいざいするのも伝統だ。
 
 ……まぁ、ソレはゲーム内での建前で、要は創君がエルフ娘の水着回を入れたがったというだけの話なのだが……
 
「アリーシャ、郷には水遊びのできる湖もあるそうだぞ。楽しみだな。水着はちゃんと用意して来たか?」
 
「……お兄様、セクハラはやめてください」
 
 ……私が王女になったことで、私まで水着回に巻き込まれてしまいそうだ……。
 
「そのサマードレスも、とてもよく似合っている。やはり夏の避暑ひしょには、無地の白いワンピースが合うな」
 
「妹を視線でめ回さないでください!」
 
 ……どうもこの兄とは、距離感が上手くつかめない。
 
 キャラ設定が『思ってたのとちがう』のもあるけど、他にも大きな理由がひとつ……。
 
 
おぼえているか、アリーシャ。お前が6歳の時にも、兄妹で旅行をしたのだぞ。あの時は、母上のご実家に泊まりに行ったのだったな」
 
 ……覚えているも何も、それは本来のシェリーロワール王女ジェラルディンちゃんの思い出だ。私の思い出ではない。
 
 この世界に来てからもう随分経ずいぶんたつが……未だに私は、自分のポジションに戸惑とまどっている。
 
 本来のヒロインの居場所をうばって、いるべきでない私がここにいる違和感いわかん
 私を本当の王女と信じて接してくる人々への、微妙びみょうな罪悪感。
 
 ……だがまぁ、元々そんなに深く思いつめるタイプではないので『悩んだところで、こうなっちゃってるものは仕方ないよねー』と開き直っているところはあるのだが。
 
 あるのだが……
 
「私、元の世界には、もう戻れないのかな……?」
 
 兄に気づかれないよう、口の中だけでつぶやく。
 
 それは、この世界に来て以来、あまり考えないようにしていること。
 
 深く考え始めると恐怖にハマってしまう気がするから、普段は見ないフリをしていることだった。
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