148 / 162
第5部 新魔王と結婚なんて、お断り!
第35章 創治はアリーシャの望みを叶えたい
しおりを挟む
『いくらジェラルディンちゃんが美人でも、ここまでいろんなキングやプリンスに惚れられて囚われまくるって、ちょっとリアリティーが無いよね』
愛理咲がそんな面倒くさいことを言い出したのは、ゲーム最終盤の舞台・クレッセントノヴァの設定を作り出した頃のことだった。
『いや、リアリティーも何も、お前が言い出したんだろ。ヒロインは "総モテ" がいいって』
『そうだ!ジェラルディンちゃんは実は "神に選ばれし乙女" ってことにしよう!そんな特別なお姫様なら、皆が欲しがって当然だよね!』
『お前……ここに来て聖女設定を追加するなよ!』
完全に "後付け" だった、シェリーロワールの王女の聖女設定……
さすがに最後の最後で唐突にこの設定が出て来るのはあんまりだと、俺はコッソリ前の方のシナリオにも "匂わせ" を加筆修正して来たのだが……
「アリーシャ、お前……っ、クレッセントノヴァに行く前に、自分からソレをバラすなよ……!」
本来ならシェリーロワールの王女は、クレッセントノヴァに着くまでこのことを知らない。
なので、この後のクレッセントノヴァ編で、シリアスに、厳かに、神託の乙女についての真実を明かそうと思っていたのに……。
「しかも、"勘" だとか、そんな気がするとか……相変わらず能天気な……」
思わず呟いて……自分のその台詞に、ふと、かつての愛理咲の言葉を思い出す。
『そんな、深刻にならないでよ。私、そんな悪いことにはならない気がするんだよね』
一瞬、言いようのない気持ちが、キュッと胸を締めつける。
しばらく動きも頭も止めて、その気持ちの波をやり過ごし、俺は改めてキーボードに向かう。
「……そうだな。この世界の中でくらい、その勘の通りにしてやるよ」
アリーシャは神に選ばれし、特別な乙女。
神の寵愛を一身に受ける姫。
この世界の創造神が俺だと言うなら、その肩書は間違っていない。
「愛理咲……、お前の望みは何なんだ?」
アリーシャとシトリーンは、隠し通路を通って再び城内に戻る。
城内には既に、アッシュたちの軍勢がなだれ込んでいた。
『ぅきゃーっ!? 何コレ!あちこちで戦闘ってて、動けないよーっ!』
アリーシャが叫ぶ。
俺はチッと舌打ちし、キーを叩いた。
『アリーシャ様、こちらです。私の近くにいれば、隠密スキルで弱い敵からはスルーされますので』
『創君!? 何でココにいるの!? 何で今いきなり出て来るの!?』
何でって、お前があまりに危なっかしいから、ユースを出さざるを得なかったんだよ。
『実は、先回りして魔王城の中を探っていたのです。最終的に、あなたをお助けするために』
言い訳として苦しいかと思いつつ、ユースにそう言わせておく。
『……それ、あのジェットコースタートロッコで、ムリヤリ消えた言い訳になってなくない?』
案の定、アリーシャは納得していない様子だが……シナリオ上、アリーシャを囚われやすくするために、有能なユースを引き離しておいたなんて、本当のことを言えるはずもない。
『それで、どこへ行かれるおつもりですか?アリーシャ様』
『とりあえず、ブランさんがレッドに倒されるのを止めないと。このままだと可哀想過ぎるよ』
……やはり、目的はソレか。
まったくコイツと来たら、可哀想だの何だのと、一時の感情で突っ走ってタチが悪い。
「……だけど、そこが愛理咲らしい、か……」
テキトーで、いい加減で、決して善人なわけでもなければ、聖女なんかであるはずもない。
だが、他人の悲劇から目を背けることもできない、普通に善良で繊細な心も持っている――芹原 愛理咲は、そんな少女だった。
『魔王ブランは、玉座の間です。もう、勇者との戦闘が始まっていますよ』
『えぇっ!? 大変!急がないと!』
ボスとの戦闘は、背景もそれなりに "映える" 場所でなければならない。
魔王城で一番映える部屋と言ったら、薔薇窓を背にした玉座の間だ。
アリーシャ一行が部屋に飛び込むと、ちょうどまさに魔王と勇者がバトルの真っ最中だった。
『待って、レッド!ブランさんを殺さないで…………って、アレ?』
止めに入ろうとしたアリーシャだが、すぐに何かがヘンなことに気づく。
『え……レッド、動きが遅……っ』
魔王の攻撃は普通に凄まじく、ダメージも強そうなのに、勇者の攻撃はやけにトロく、間延びして見える。
まるでレッドだけスローモーションで動いているかのようだ。
『……むしろ、何でアレで攻撃が当たるんだろう……?』
傍から見ていると、避けようと思えばいくらでも避けられそうに見える、レッドのトロトロ攻撃。
なのに、その攻撃は普通にブランに当たる。
ターン制コマンドバトルシステムの不思議だ。
……とは言え、スピードのせいか、レッドの攻撃にはまるで迫力が無く、ダメージもそれほど与えられているように見えない。
アリーシャの横でそのバトルを見ていたシトリーンは、呆気に取られたように口を開いた。
『やだ。あのコ、呪いの防具を身に着けてるじゃない。あの状態で魔王に挑むなんて……いくら何でも無謀過ぎない?』
そう。シトリーンの言う通り、レッドは素早さを奪われる例の鎧を身に着けたままだ。
『そっか。解呪ができないから……』
すぐに状況を把握し、納得したように呟いたアリーシャだったが……すぐに別の問題に気づいようだ。
『え……。コレ、下手すると逆に勇者が倒されちゃわない!? どうすんの!?』
愛理咲がそんな面倒くさいことを言い出したのは、ゲーム最終盤の舞台・クレッセントノヴァの設定を作り出した頃のことだった。
『いや、リアリティーも何も、お前が言い出したんだろ。ヒロインは "総モテ" がいいって』
『そうだ!ジェラルディンちゃんは実は "神に選ばれし乙女" ってことにしよう!そんな特別なお姫様なら、皆が欲しがって当然だよね!』
『お前……ここに来て聖女設定を追加するなよ!』
完全に "後付け" だった、シェリーロワールの王女の聖女設定……
さすがに最後の最後で唐突にこの設定が出て来るのはあんまりだと、俺はコッソリ前の方のシナリオにも "匂わせ" を加筆修正して来たのだが……
「アリーシャ、お前……っ、クレッセントノヴァに行く前に、自分からソレをバラすなよ……!」
本来ならシェリーロワールの王女は、クレッセントノヴァに着くまでこのことを知らない。
なので、この後のクレッセントノヴァ編で、シリアスに、厳かに、神託の乙女についての真実を明かそうと思っていたのに……。
「しかも、"勘" だとか、そんな気がするとか……相変わらず能天気な……」
思わず呟いて……自分のその台詞に、ふと、かつての愛理咲の言葉を思い出す。
『そんな、深刻にならないでよ。私、そんな悪いことにはならない気がするんだよね』
一瞬、言いようのない気持ちが、キュッと胸を締めつける。
しばらく動きも頭も止めて、その気持ちの波をやり過ごし、俺は改めてキーボードに向かう。
「……そうだな。この世界の中でくらい、その勘の通りにしてやるよ」
アリーシャは神に選ばれし、特別な乙女。
神の寵愛を一身に受ける姫。
この世界の創造神が俺だと言うなら、その肩書は間違っていない。
「愛理咲……、お前の望みは何なんだ?」
アリーシャとシトリーンは、隠し通路を通って再び城内に戻る。
城内には既に、アッシュたちの軍勢がなだれ込んでいた。
『ぅきゃーっ!? 何コレ!あちこちで戦闘ってて、動けないよーっ!』
アリーシャが叫ぶ。
俺はチッと舌打ちし、キーを叩いた。
『アリーシャ様、こちらです。私の近くにいれば、隠密スキルで弱い敵からはスルーされますので』
『創君!? 何でココにいるの!? 何で今いきなり出て来るの!?』
何でって、お前があまりに危なっかしいから、ユースを出さざるを得なかったんだよ。
『実は、先回りして魔王城の中を探っていたのです。最終的に、あなたをお助けするために』
言い訳として苦しいかと思いつつ、ユースにそう言わせておく。
『……それ、あのジェットコースタートロッコで、ムリヤリ消えた言い訳になってなくない?』
案の定、アリーシャは納得していない様子だが……シナリオ上、アリーシャを囚われやすくするために、有能なユースを引き離しておいたなんて、本当のことを言えるはずもない。
『それで、どこへ行かれるおつもりですか?アリーシャ様』
『とりあえず、ブランさんがレッドに倒されるのを止めないと。このままだと可哀想過ぎるよ』
……やはり、目的はソレか。
まったくコイツと来たら、可哀想だの何だのと、一時の感情で突っ走ってタチが悪い。
「……だけど、そこが愛理咲らしい、か……」
テキトーで、いい加減で、決して善人なわけでもなければ、聖女なんかであるはずもない。
だが、他人の悲劇から目を背けることもできない、普通に善良で繊細な心も持っている――芹原 愛理咲は、そんな少女だった。
『魔王ブランは、玉座の間です。もう、勇者との戦闘が始まっていますよ』
『えぇっ!? 大変!急がないと!』
ボスとの戦闘は、背景もそれなりに "映える" 場所でなければならない。
魔王城で一番映える部屋と言ったら、薔薇窓を背にした玉座の間だ。
アリーシャ一行が部屋に飛び込むと、ちょうどまさに魔王と勇者がバトルの真っ最中だった。
『待って、レッド!ブランさんを殺さないで…………って、アレ?』
止めに入ろうとしたアリーシャだが、すぐに何かがヘンなことに気づく。
『え……レッド、動きが遅……っ』
魔王の攻撃は普通に凄まじく、ダメージも強そうなのに、勇者の攻撃はやけにトロく、間延びして見える。
まるでレッドだけスローモーションで動いているかのようだ。
『……むしろ、何でアレで攻撃が当たるんだろう……?』
傍から見ていると、避けようと思えばいくらでも避けられそうに見える、レッドのトロトロ攻撃。
なのに、その攻撃は普通にブランに当たる。
ターン制コマンドバトルシステムの不思議だ。
……とは言え、スピードのせいか、レッドの攻撃にはまるで迫力が無く、ダメージもそれほど与えられているように見えない。
アリーシャの横でそのバトルを見ていたシトリーンは、呆気に取られたように口を開いた。
『やだ。あのコ、呪いの防具を身に着けてるじゃない。あの状態で魔王に挑むなんて……いくら何でも無謀過ぎない?』
そう。シトリーンの言う通り、レッドは素早さを奪われる例の鎧を身に着けたままだ。
『そっか。解呪ができないから……』
すぐに状況を把握し、納得したように呟いたアリーシャだったが……すぐに別の問題に気づいようだ。
『え……。コレ、下手すると逆に勇者が倒されちゃわない!? どうすんの!?』
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
39
1 / 4
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる