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第5部 新魔王と結婚なんて、お断り!

第35章 創治はアリーシャの望みを叶えたい

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『いくらジェラルディンちゃんが美人でも、ここまでいろんなキングやプリンスにれられて囚われまくるって、ちょっとリアリティーが無いよね』
 
 愛理咲ありさがそんな面倒くさいことを言い出したのは、ゲーム最終盤の舞台・クレッセントノヴァの設定を作り出したころのことだった。
 
『いや、リアリティーも何も、お前が言い出したんだろ。ヒロインは "総モテ" がいいって』
 
『そうだ!ジェラルディンちゃんは実は "神に選ばれし乙女" ってことにしよう!そんな特別なお姫様なら、みんなが欲しがって当然だよね!』
 
『お前……ここに来て聖女設定を追加するなよ!』
 
 
 完全に "後付け" だった、シェリーロワールの王女の聖女設定……
 
 さすがに最後の最後で唐突とうとつにこの設定が出て来るのはあんまりだと、俺はコッソリ前の方のシナリオにも "匂わせ" を加筆修正して来たのだが……
 
 
「アリーシャ、お……っ、クレッセントノヴァに行く前に、自分からソレをバラすなよ……!」
 
 
 本来ならシェリーロワールの王女は、クレッセントノヴァにくまでこのことを知らない。
 
 なので、この後のクレッセントノヴァ編で、シリアスに、おごそかに、神託の乙女についての真実を明かそうと思っていたのに……。
 
 
「しかも、"かん" だとか、そんな気がするとか……相変あいかわらず能天気ノーテンキな……」
 
 思わずつぶやいて……自分のその台詞せりふに、ふと、かつての愛理咲の言葉を思い出す。
 
 
『そんな、深刻にならないでよ。私、そんな悪いことにはならない気がするんだよね』
 
 
 一瞬、言いようのない気持ちが、キュッと胸をめつける。
 
 しばらく動きも頭も止めて、その気持ちの波をやり過ごし、俺は改めてキーボードに向かう。
 
 
「……そうだな。この世界の中でくらい、そのかんの通りにしてやるよ」
 
 
 アリーシャは神に選ばれし、特別な乙女。
 神の寵愛ちょうあいを一身に受ける姫。
 
 この世界の創造神がだと言うなら、その肩書は間違まちがっていない。
 
愛理咲アリーシャ……、お前の望みは何なんだ?」
 
 
 アリーシャとシトリーンは、隠し通路を通って再び城内に戻る。
 
 城内にはすでに、アッシュたちの軍勢がなだれ込んでいた。
 
『ぅきゃーっ!? 何コレ!あちこちで戦闘バトってて、動けないよーっ!』
 
 アリーシャが叫ぶ。
 
 俺はチッと舌打ちし、キーをたたいた。
 
『アリーシャ様、こちらです。私の近くにいれば、隠密おんみつスキルで弱い敵からはスルーされますので』
 
創君ユース!? 何でココにいるの!? 何で今いきなり出て来るの!?』
 
 何でって、お前があまりに危なっかしいから、ユースを出さざるをなかったんだよ。
 
『実は、先回りして魔王城の中をさぐっていたのです。最終的に、あなたをお助けするために』
 
 言いわけとして苦しいかと思いつつ、ユースにそう言わせておく。
 
『……それ、あのジェットコースタートロッコで、ムリヤリ消えた言い訳になってなくない?』
 
 案のじょう、アリーシャは納得なっとくしていない様子だが……シナリオ上、アリーシャを囚われやすくするために、有能なユースを引き離しておいたなんて、本当のことを言えるはずもない。
 
 
『それで、どこへ行かれるおつもりですか?アリーシャ様』
 
『とりあえず、ブランさんがレッドに倒されるのを止めないと。このままだと可哀想かわいそう過ぎるよ』
 
 ……やはり、目的はソレか。
 
 まったくコイツと来たら、可哀想だの何だのと、一時いっときの感情でっ走ってタチが悪い。
 
「……だけど、そこが愛理咲らしい、か……」
 
 テキトーで、いい加減で、決して善人なわけでもなければ、聖女なんかであるはずもない。
 
 だが、他人の悲劇から目をそむけることもできない、普通に善良で繊細せんさいな心も持っている――芹原 愛理咲は、そんな少女だった。
 
『魔王ブランは、玉座の間です。もう、勇者との戦闘が始まっていますよ』
 
『えぇっ!? 大変!急がないと!』
 
 ボスとの戦闘は、背景もそれなりに "映える" 場所でなければならない。
 
 魔王城で一番映える部屋と言ったら、薔薇窓を背にした玉座の間だ。
 
 アリーシャ一行が部屋に飛び込むと、ちょうどまさに魔王と勇者がバトルの真っ最中だった。
 
『待って、レッド!ブランさんを殺さないで…………って、アレ?』
 
 止めに入ろうとしたアリーシャだが、すぐに何かがヘン・・・・・なことに気づく。
 
『え……レッド、動きがおそ……っ』
 
 魔王の攻撃は普通にすさまじく、ダメージも強そうなのに、勇者の攻撃はやけにトロく、間延まのびして見える。
 
 まるでレッドだけスローモーションで動いているかのようだ。
 
『……むしろ、何でアレで攻撃が当たるんだろう……?』
 
 はたから見ていると、けようと思えばいくらでも避けられそうに見える、レッドのトロトロ攻撃。
 
 なのに、その攻撃は普通にブランに当たる。
 ターン制コマンドバトルシステムの不思議だ。
 
 ……とは言え、スピードのせいか、レッドの攻撃にはまるで迫力はくりょくが無く、ダメージもそれほど与えられているように見えない。
 
 アリーシャの横でそのバトルを見ていたシトリーンは、呆気あっけに取られたように口をひらいた。
 
『やだ。あのコ、呪いの防具を身にけてるじゃない。あの状態で魔王にいどむなんて……いくら何でも無謀むぼう過ぎない?』
 
 そう。シトリーンの言う通り、レッドは素早さを奪われる例の鎧を身に着けたままだ。
 
『そっか。解呪ができないから……』
 
 すぐに状況を把握はあくし、納得したようにつぶやいたアリーシャだったが……すぐに別の問題に気づいようだ。
 
『え……。コレ、下手すると逆に勇者が倒されちゃわない!? どうすんの!?』
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